作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ショルティ/シカゴ響による天地創造旧盤

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皆様、明けましておめでとうございます。

昨年はどこにでもあるいつもの日常が貴重なものである事に気づかされた一年でした。何もなければそこにあるいつもの日常が、一瞬にして消え去ってしまうという自然の猛威を日本人は全員我がものとして感じた一年だったでしょう。音楽を聴くというのは平穏な日常だからできる事ですが、昨年のように音楽に携わる多くの人が被災地の支援に真剣に取り組み、人々の心に残る活動をできた事も大きな意義のあることでした。

私自身仕事で仙台に2年ほど暮らした経験しかありませんが、宮城県、岩手県、福島県の沿岸部の惨状をテレビでみるにつけ他人事とは思えず、被災地の皆さんの一日も早い復興を願わずにはいられません。

今年は災害のない平穏な年であってほしいですね。

さて、今年最初のアルバムは長らくコレクションの穴になっていたアルバム。年末にオークションで落札したら元日に年賀状に混じって届いたばかりのものです。

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amazon / TOWER RECORDS

サー・ゲオルク・ショルティ(Sir Georg Solti)指揮のシカゴ交響楽団、同合唱団の演奏によるハイドンのオラトリオ「天地創造」。歌手は5人で以下のとおり。

ガブリエル(ソプラノ):ノーマ・バロウズ(Norma Burrows)
ウリエル(テノール):リュディガー・ヴォーラーズ(Rüdiger Wohlers)
ラファエル(バス):ジェイムズ・モリス(James Morris)
エヴァ(ソプラノ):シルヴィア;グリーンバーグ(Sylvia Greenberg)
アダム(バス):ジークムント・ニムスゲルン(Siegmund Nimsgern)

収録は1981年11月、シカゴのオーケストラホールでのセッション録音。レーベルはDECCAの国内盤。2007年「サー・ゲオルク・ショルティの芸術」というシリーズのVol.1としてユニバーサル・ミュージックから発売されたもの。

ショルティの天地創造には2種の録音があり、ショルティ69歳時点の録音。もう一つは10年後の録音ですが、こちらも手元にありません。この旧盤はアメリカのグラミー賞を受賞したとの事。ショルティのハイドンは交響曲の録音をいくつか取りあげていますが、デビュー盤となったものも亡くなる直前のライヴも生気が漲る素晴らしい演奏。ショルティは聴いてみなければわからないというのが正直なところ。以前のレビューはこちら。

2011/06/27 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ウィーンフィルの「ロンドン」1996年ライヴ!
2011/03/27 : ハイドン–交響曲 : 爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他
2010/12/03 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

はたしてこの1981年の天地創造はどのようなものでしょう。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第1部
冒頭は意外と力まず落ち着いた展開。まだまだ牙を隠して、オケも7分の力で冒頭の「混沌の描写」を描いていきます。特に弱音のコントロールに集中しているよう。序奏のクライマックスでオケが振り切れショルティの豪腕が顔を見せ始めます。ラファエルのジェイムズ・モリスは安定感は揺るぎないものの、変わった声質。全域にわたり喉の響きがのった滑らかな声。ウリエルのリュディガー・ヴォーラーズは軽めで非常に透明感のある声。比較的大人しいオーソドックスな歌唱。ガブリエルのノーマ・バロウズはコケティッシュな声質。第4曲のガブリエルとコーラスによる「喜ばしき天使たちの群れは驚きをもって」ではバロウズの可憐な声を楽しもうとしますが、ショルティがかなりキレを強調したオケの伴奏が歌より前に出てくるくらいの伴奏で、徐々にショルティ節が目立ってきます。オケもショルティもエンジンがかかってきました。特にヴァイオリンの鋭角的に切れ込むアクセントはショルティならでは。
第8曲のガブリエルのアリアでは、今度は遠慮して抑えた伴奏に徹しバロウズの歌をもり立てます。バロウズのソプラノはガブリエルの歌に非常にマッチしていて高音の伸びも可憐さも素晴らしいもの。
第10曲からはテンポが上がり、ヴァイオリンパートのキレも増してきます。ショルティならでは力漲る演奏でぐいぐい進みます。第12曲「今輝きに満ちて」の導入はなかなか感動的なもの。速めながらじっくりとしたところもあり、絶妙の演出。そして驚いたのが第1部の終曲第13曲。第12曲からのつながりから考えても2段チェンジくらいテンポが上がり、強引にも感じられる速いテンポでオケをドライブ。名手ぞろいのシカゴ響が完璧に追随。この曲は流石ショルティと思わせる素晴らしい推進力で一気に聴かせきります。

第2部
第2部も速めのテンポで幕を開けます。やはりシカゴ響のクッキリとした響きとショルティのカッチリとしたコントロールがこの演奏の聴き所でしょう。冒頭のガブリエルのレチタティーヴォとアリアの美しさは第1部同様。バロウズの声は気に入りました。第2部の聴き所、第18曲の三重唱はやはりバロウズのクッキリしたソプラノが一際美しく聴き映えがします。そのあとの第19曲のコーラスはショルティも流れに任せて強引さはみられないと思いきや、途中の一音に思い切ったアクセントを付け、やはりがっちりとコントロールしていきます。
ショルティの良さが一番良く出たのが、第22曲のラファエルのアリア「今や天は光に満ちて」。伴奏による高揚感はキレの良いオケとショルティ流の筋肉質の演奏によって最高潮に。モリスの歌も堂々とたもので神々しい感じが良く出ています。つづくウリエルのアリアも名伴奏。雄弁かつ彫りの深いオケの演奏が歌をもり立てるいい例。ヴォーラーズのテノールは美声なもののメリハリが弱いのでなおさらショルティの伴奏はそれを補います。
第26曲からは第2部のクライマックスへつづくコーラス、三重唱、そして合唱が並びます。コーラスの分厚い響きとショルティによるキレのよいオケが織りなす迫力と、対比をなすように穏やかな途中の三重唱は美しいメロディの宝庫。そして第28曲は第2部の終曲。第1部のように極端なギアチェンジをせず、自然な範囲でのショルティのかけるテンションによってオケとコーラスが自然な盛り上がり。

第3部
冒頭はこれまでの演奏が嘘のような流麗おだやかで磨き抜かれた演奏。ショルティが時折魅せる優しい表情でしょう。ヴォーラーズの優しい声のウリエルが非常にマッチします。第3部の聴き所、アダムとエヴァのデュエットもショルティは雰囲気ある柔らかな伴奏に徹します。エヴァのグリーンバーグはバロウズ以上に高音の伸びが美しいソプラノ。ニムスゲルンはテンポ感がよくキレのよい歌い方。モリスとはがらっと異なる声質。デュエット終盤の盛り上がりはショルティならではですが、灰汁の強いところはみせずに非常に自然なコントロール。抜群の精度のオケとコーラスの威力炸裂です。レチタティーボを挟んでもう一つのデュエットも抑えた表現が心を打つもの。終盤の特徴的なメロディーに来てテンポ急に上げますが、ここでも自然さは保って、速さが曲の締めくくりが近い事を予感させる諧謔性を感じさせます。速いパッセージのキレは流石シカゴ響。第34曲の終曲は前曲までの速いテンポと対比を鮮明にするような神々しい落ち着いたテンポ、そしてオケとコーラスも神々しいばかりの堂々とした演奏。

ショルティの1981年の天地創造は、ショルティのちょっと灰汁の強いところも垣間見える、ショルティらしい天地創造でした。良かったのは第2部、第3部。力が程よく抜けてショルティのいいところが良く出ていました。逆に第1部は終盤のかなり強引なコントロールの印象が耳に残ってしまいます。それでも張りつめた緊張感、精度の高いオーケストラコントロール、合唱のコントロールは並の指揮者とは異なり、ハンガリーの魂のようなヴァイオリンのキレまくった音階が特徴的。まさに筋骨隆々の天地創造です。これぞ巨匠の演奏ということでしょう。歌手もモリスの声質に好き嫌いがありそうですが、バロウズのガブリエル、グリーンバーグのエヴァともに非常にいい出来です。評価は[+++++]とします。

このショルティのアルバムで61種目の天地創造。大物ではショルティの新盤がまだ未入手ですし、手元のアルバムもまだまだ聴き込んでいないものもありますので、今年も時折天地創造を取りあげていきたいと思います。
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2 Comments

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ライムンド

No title

Daisyさん、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
ショルティで「旧盤」という文字が目に入って、こちらの眼がキラッとひかりました。この録音より古いものがあったかと思いましたが、この後に新録音があったのですね。オークションは利用したことがありませんが、ショルティの天地創造が出品されるとは、ショルティにとってこのジャンルは穴場的だと思っていたので意外です。

  • 2012/01/02 (Mon) 14:24
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Daisy

Re: No title

ライムンドさん、明けましておめでとうございます。こちらこそ今年もよろしくお願いいたします。
私も今回手に入れたアルバムの解説を見て、新盤の存在を知った次第です。ショルティは古い交響曲の録音では抜群の生気があり、流石と思わせる統率力ですが、一歩間違えると強引なところが目につくようになります。ウィーンフィルとのモーツァルトの魔笛の旧盤などは力の抜けたいい演奏ですね。どちらにしても曲の本質を見極めてコントロールするのは指揮者の重要な役割であり、ショルティほどの統率力をもつとコントロールできる範囲も広く
、音楽そのものも過剰コントロールの対象となってしまいますね。カラヤンにも同様なところが見受けられますね。

  • 2012/01/02 (Mon) 23:41
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