ジェーン・グラヴァーの天地創造ミサ

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このNAXOSのミサ曲全集は前に一度当ブログで紹介していますが、演奏に踏み込んだレビューはしていません。
2010/03/06 : ハイドン–声楽曲 : NAXOSのミサ曲全集
CD8枚にわたって主要なミサ曲やスタバト・マーテルまで収録された素晴らしい企画。今日はその中から、ジェーン・グラヴァー指揮の天地創造ミサを取りあげます。
ジェーン・グラヴァー(Jane Glover)指揮のレーベル・バロック・オーケストラ(Rebel Baroque Orchestra)、トリニティ合唱団の演奏でハイドンの天地創造ミサ。収録は2008年9月8日~9日、おそらくニューヨーク、ウォール街のトリニティ(三位一体)教会での録音。歌手は有名どころは入っていませんが、次のとおり。
ソプラノ:ニコル・パーマー(Nicole Palmer)
ソプラノ:ニナ・ファイア(Nina Faia)※グロリアのみ
アルト:キルステン・ソレック(Kirsten Sollek)
テノール:ダニエル・ムトゥル(Daniel Mutlu)
テノール:マシュー・ヘンスルッド(Matthew Hensrud)※グロリアのみ
バス:アンドリュー・ノレン(Andrew Nolen)
こちらが、分売盤。

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ジェーン・グラヴァーはイギリスの女流指揮者でハイドンの交響曲もロイヤル・フィルやロンドン・モーツァルト・プレイヤーズと何曲かの録音があります。1949年生まれということでこの天地創造ミサの演奏時は60歳近いことになります。オックスフォード大学セント・ヒュー・カレッジを卒業し、1975年にウェクスフォード・フェスティヴァルでデビュー。1981年から1985年までグラインドボーン・ツーリング・オペラ、1984年から1991年までロンドン・モーツァルト・プレイヤーズ、2002年からシカゴのミュージック・オブ・ザ・バロックの音楽監督をつとめています。古楽器オケを中心にモーツァルトなどを取りあげているようですね。
合唱のトリニティー合唱団とオケのレーベル・バロック・オーケストラはニューヨークのウォール街にあるトリニティ教会を本拠地とする合唱団とオケ。響きを聴く限り本格的な腕をもつ集団。
天地創造ミサは、もちろんオラトリオの天地創造とは異なる曲。ハイドン69歳の1801年に作曲され、1796年から1802年にかけて作曲された6曲のミサ曲の最後から2番目の曲。この一連のミサ曲はハイドンが長年に渡って仕えたニコラウス・エステルハージ侯爵が1790年に亡くなり、その後を継いだアントン侯が4年で亡くなったため、新しい君主となったニコラウス二世候がことのほか教会音楽に感心を示し、侯爵夫人のマリア・ヘルメネギルトの命名日の祝祭のために毎年新しいミサ曲を作曲するようハイドンに命じた事から作曲されたもの。
グローリアに3年前に完成した天地創造のアダムとエヴァのデュエットの中の旋律が9小節に渡って引用されていることから天地創造ミサと呼ばれています。
天地創造ミサが初演された1801年のハンガリーの新聞によれば、アイゼンシュタットのエステルハージ家の宮殿で開かれた夫人の命名日にはウィーンから多くの貴族が招待され、記念して開かれた舞踏会は数多の蝋燭で彩られ、豪華な食事と素晴らしい音楽が流れたと記されています。
Hob.XXII:13 / Missa "Schöpfungsmesse" 「天地創造ミサ」 [B flat] (1801)
キリエ
ネルソンミサなどの激しい導入とは異なり、穏やかなキリエの導入部。ジェーン・グラヴァーのコントロールは古楽器の引き締まった響きの魅力を保ちながら、流麗で豊かな感興をともなうタイトな響きが魅力。オケはコンパクトにまとまり、コーラスとの調和も見事。速めのテンポで一気にフレーズを描ききるような演奏。スタティックな感じはなく、ダイナミックかつ分厚い響きが特徴。
グローリア
ほの暗い旋律ながらゴムまりのように弾むリズムが印象的な楽章。ティンパニと金管楽器が打ち鳴らされる豪放な曲想。弦楽器がさざ波のように行き来る装飾を加えるうちに天地創造のアダムとエヴァの聴き慣れたデュエットに登場するメロディーが聴こえてきます。ここまで非常に一体感のあるメロディー。流れに一貫性があると言うか、遮るものがない滑らかな演奏。これはグラヴァーの意図でしょう。コーラスの透明感も素晴らしいもの。印象的な間などはありませんが、流れの良さが非常に印象的。トラックが変わった後半はコーラスとオケの響きの坩堝ような楽章。やはり一貫した流れで一気に聴かせます。
クレド
ネルソンミサやテレジアミサのような印象に残るわかりやすいメロディーが少ないかわりにぐいぐい進む推進力が魅力の曲が続きます。トラック12はオルガンの素朴な響きを楽しめる曲。オルガンの響きに耳を傾けていると突然の爆音に驚かされます。グラヴァーのコントロールはやはり速い楽章のテンションの高さが魅力。弾む弾むメロディー。デュナーミクの緻密なコントロールも見事。活き活きとした古楽器オケ。旋律をクリアに分解しようとする意図は感じず、弾む音のかたまりによるエネルギー感が持ち味。
サンクトゥス
不思議な魅力のある曲。華があるのに枯れている曲想。後半にはコーラスが大活躍で、最後は大迫力のティンパニ乱れ打ち。
ベネディクトス
折り重なるように歌われる女声ソロが印象的。冒頭のメロディーが繰り返されるうちに響きの渦の中にいることに気づかされるような曲。途中の転調によってほんのりと明るさが射してくるようすがわかります。派手さはないものの非常にデリケートな音楽の進行が心にしみる曲。
アニュス・デイ
ゆったりとした序奏を聴くうちに徐々に幸福感につつまれてきます。天上から楔を打たれるような強音により音楽が一転しますが、再びゆったりした音楽、そしてまた楔。この曲の白眉でしょう。ハイドンの音楽の真髄を感じる楽章。そして最終曲は総決算のように印象的なメロディーのさざ波のようなフーガによる祝祭的な雰囲気で盛り上がる曲。クライマックスは低音弦と金管、コーラスの複雑なメロディー。地味ですが慈しみ深い曲でした。
実は天地創造ミサは昔からあまりしっくり来る曲ではなく、あんまり聴き込んでは来ませんでした。それゆえブログでも何回か取りあげようとしていましたが、今ひとつ記事にしにくかったのが正直なところ。いろいろなミサ曲を聴いて記事をいくつか書いてきたのでようやく取りあげられるような心境になった次第。やはり他のミサ曲にくらべて曲の構成が複雑で、派手さもないため地味な印象を与えますが、音楽自体は実に深いものがあります。ジェーン・グラヴァーの演奏はこの複雑な曲に一貫した表情を与え、古楽器オケとしては異例の弾む感じを基調としたユニークな解釈でしょう。評価は[++++]とします。このところコッホのネルソンミサなど突き抜けた演奏を聴いて耳が肥えていますので。この曲はハイドンを好きな方でも上級者向けですね。
もう少しいろいろな演奏を聴いて曲の真髄に近づいてみたいですね。
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