グスタフ・クーン/コレギウム・アウレウムの天地創造ライヴ(ハイドン生誕250年)

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グスタフ・クーン(Gustav Kuhn)指揮のコレギウム・アウレウム合奏団(Collegium Aureum)、ウィーン・アーノルト・シェーンベルク合唱団の演奏によるハイドンのオラトリオ「天地創造」。この演奏はハイドン生誕250年を記念してオーストリア科学アカデミー、オーストリア放送、ヨーロッパ放送連盟の主催したコンサートの記録。ソロは以下のとおり。
ガブリエル(ソプラノ):アーリーン・オジェー(Arleen Augér)
ウリエル(テノール):ペーター・シュライアー(Peter Schreier)
ラファエル(バス):ヴァルター・ベリー(Walter Berry)
イヴ(ソプラノ):ガブリエレ・ジーマ(Gabriele Sima)
アダム(バリトン):ローラント・ヘルマン(Roland Hermann)
収録は1982年3月31日(ハイドンの250回目の誕生日)、ウィーンの大学講堂でのライヴ収録。レーベルはdeutsche harmonia mundiの国内盤でBMG VICTORのもの。
解説によれば、ハイドン存命中の最後に行われた天地創造の演奏会を再現したものとのこと。ハイドンが亡くなる1年あまり前の1808年3月27日、ウィーンの大学講堂で年老いたハイドンを招いて行われたコンサート。ハイドンは車椅子に乗せられ、エステルハージ公爵夫人や多くの貴族や弟子たちの祝福、祝辞を受けた後、サリエリの指揮で天地創造が演奏されたとのこと。演奏は素晴らしい出来だったが、ハイドンは第1部が終わったところで体力を考慮して退場し、以後自宅にこもったまま翌1809年5月31日に77歳の生涯を閉じたということです。
この演奏が行われたウィーンのシュテファン大聖堂のすぐ裏にあるイグナーツ・ザイベル広場に面した大学講堂。現在はハイドンの時代そのままに修復されているとのこと。この場所で1808年3月27日に行われた演奏を忠実に再現することを意図して行われたのがこのコンサート。合唱団は38名に抑えられ、オケもほぼ同人数で、当時の響きに近いよう古楽器のコレギウム・アウレウムが選ばれたということです。
コレギウム・アウレウムはかなり以前ベートーヴェンのエロイカが話題になった時に聴いたくらい。また、グスタフ・クーンは名前は知っているもののあまりなじみはありませんでした。
Wikipedia等の情報によると、クーンは1945年ザルツブルク生まれのオーストリアの指揮者、演出家。ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院で学び、1969年カラヤン指揮者コンクールで優勝。1970年にイスタンブール歌劇場で指揮者としてキャリアを開始し、以後ドルトムント歌劇場やウィーン国立歌劇場・ミュンヘン国立歌劇場を始めとして様々な歌劇場や音楽祭で活躍とのこと。HMV ONLINEで検索するとハイドン以外にもベートーヴェンの交響曲全集やワーグナーの指輪、数々のオペラ等のアルバムがリリースされていますので、実力派の一人でしょう。
クーンの再現するハイドン当時の天地創造は如何なる出来でしょうか。このアルバム、以前の書き込みで確かライムンドさんが最初に聴いた天地創造でしたね。
Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
第1部
一聴して音色からだけでは古楽器とはわからないような自然な響き。小規模オケとは思えなない力のこもった響き。中庸なテンポでじっくりくっきり序奏を描いていきます。木管楽器の美しい響きが印象に残ります。小規模オケながらざっくりとした感じも残っていて荒々しさも垣間見せます。
ラファエルのヴァルター・ベリーの第1声は安定感のある堂々とした歌。天地創造はラファエルの安定感が全曲の出来を握るため、ベリーはこの演奏のポイントとなる配役。じっくりと艶のある歌唱は抜群の出来。コーラスは少人数らしく透明感ある響き。ウリエルのペーター・シュライアーはいつも通りの柔らかいのにキリッとエッジの効いた歌唱。
このアルバムの一番の期待はガブリエルのオジェーでしょう。オジェーの声は非常に若々しく可憐な響き。美しい声色は見事。
第1部中盤まできて印象に残るのはクーンの非常に落ち着いたコントロール。ここまで落ち着いたテンポと非常に自然なフレージングで歌手を引き立て、脇役に徹する感じですが、一本筋が通っていて一貫性を感じる見事なコントロール。こちらも見事と言わざるを得ないでしょう。
第1部の聴き所ガブリエルのアリア。これまで聴いたヤノヴィッツ、ゼーフリートなどの名唱にも劣らない素晴らしいアリア。可憐さにうっとり。澄み切った歌声とはこの事でしょう。
アリアが終わり、第1部のクライマックスにいたる第10曲からの展開は小編成の古楽器オケでも十分な迫力。ちょっと金管の音程が落ち着かないところがありますが、気になるほどではありません。おそらくハイドンの時代の響きもきっとこうだったのだろうと想像すると不思議にしっくり来ます。第1部最後の13曲は小編成オケのクッキリした響きを渾身の力でコントロールする独特の迫力が感じられ、大編成オケとはまた異なる魅力を感じさせます。実に慈しみ深い響き。他の天地創造の演奏とは全く異なる身近な魅力のようなものが感じられ感慨深い演奏。クライマックスはなぜか非常に感動的。
第2部
クーンの落ち着いたコントロールはすばらしい第2部を期待させます。第2部の開始は予想より少し速めのテンポから入ります。最初のガブリエルのレチタティーヴォとアリアは第1部同様澄み切ったもの。穏やかな曲想ゆえ派手なところはありませんが可憐な声は変わらず。つづくラファエルの2つのレチタティーヴォは切々とした沈み込むメロディーを輝きのあるバスが圧倒的な存在感で歌い上げる見事なもの。
第2部は名曲ほ宝庫。その聴き所のひとつ、ガブリエル、ウリエル、ラファエルの三重唱はぐいぐい引っ張るクーンの素晴らしいコントロールで音量ではなく音楽で素晴らしい迫力を実現。透明感溢れるコーラスが華を添えます。
またまたラファエルのレチタティーヴォを経て、今度は輝きに満ちたラファエルのアリア。名曲を落ち着いて楽しめる実にいい演奏。ロイヤルな感じが満ち満ちてきます(笑)
選手交代してウリエルのレチタティーヴォとアリア。流石シュライアー、完璧な歌唱で盛り上げます。以前取りあげたシュライアーが指揮してプレガルディエンが歌ったこのアリアも素晴らしいものでしたが、流石に役者が違う感じです。そして最後のコーラス、3重唱、ハレルヤコーラスと手に汗握る展開。中でも沈み込む3重唱が間と静寂を生かした素晴らしい出来。クーンのコントロールはここでも要所を締めて素晴らしい手腕。最後のハレルヤコーラスも雷鳴のようなティンパニの活躍で大迫力のうちに曲を閉じます。
第3部
しっとりとはじまる第3部。これまで咳等の会場ノイズはほとんど目立ちませんでしたが、第3部に入りすこし聴こえるようになります。冒頭のシュライアー、とろけるような歌唱で第3部の入りを絶妙な歌唱で告げます。ホルンの美しすぎる響きがぐっときます。
何度聴いても素晴らしい第3部の白眉、アダムとエヴァのデュエット。第3部から登場したアダムのローラント・ヘルマン、エヴァのガブリエレ・シーマともに悪くありません。特にシーマはオジェーに劣らず可憐な声。オジェーに比べて低音域の豊かな響きと厚みが特徴でしょうか。デュエットのクライマックスに至る盛り上がりも素晴らしいものがあります。最後は渾身の大音響。
レチタティーヴォを経て再びアダムとエヴァのデュエット。徐々にフィナーレが近づいてくる予感も感じさせながら伸びのある唄を交互に歌い、繰り返し諧謔的なメロディーを重ねます。
フィナーレは予想に反して威風堂々とした大神殿のような佇まい。ここまでじっくりとメロディーを重ねてきたクーンですが、ここに頂点をもってきたのですね。最後は流したように終わる演奏も多い中、感動的にオケとコーラスを盛り上げ、堂々としたフィニッシュ。最後は嵐のような拍手に迎えられます。
ハイドン生誕250年を記念して行われた演奏の模様をおさめたこのアルバム。ハイドンの時代の編成と演奏を再現した、そしてハイドン自身が最後に聴いた天地創造の演奏会場で演奏した貴重な記録。クーンのコントロールは力が入りすぎる事もなく、落ち着いたコントロールでかつ、要所で聴かせる素晴らしいもの。名演ひしめく天地創造のなかでは地味な存在かも知れませんが、数多の演奏を聴き込んだ違いのわかる人にお薦めのなかなか聴き応えのある演奏でした。評価は[++++]としますが、この演奏をもっと高く評価する人もいるでしょう。私も気に入りました。
この時の演奏は映像も収録されており、DVDも出ていますが、残念ながら手元にありません。このアルバムを聴いてもちろん注文しました。映像を見たらまた違った印象をもつかもしれませんね。楽しみです。
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