作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ヘルムート・コッホ/ベルリン放送響のネルソンミサ

2
0
昨夜は美しい皆既月食を楽しみました。双眼鏡片手に近所を少し夜の散歩。月の青白い光がが徐々に細くなり11時を過ぎた頃には赤くうすく光る幻想的な月に。都会の空は明るいのですがそれでも双眼鏡で十分月食を楽しむことができました。昼間はちょっと仕事にでたり、実家に寄ったりで忙しかったのですが、昨夜はのんびり過ごす事ができました。今日はこのアルバム。

KochNelson.jpg
HMV ONLINEicon(別装丁盤)

しばらく前にディスクユニオンの店頭で見かけて手に入れたもの。

ヘルムート・コッホ(Helmut Koch)指揮のベルリン放送交響楽団(Rundfunk-Sinfonie-Orchester Berlin)、ベルリン放送ソリスト協会(Rundfunk-Soloistenvereinigung Berlin)、ベルリン放送合唱団(Rundfunkchor Berlin)の演奏によるハイドンのネルソンミサ。独唱は次のとおり。

ソプラノ:イザベラ・ナーベ(Isabella Nawe)
メゾソプラノ:エレン・アブロラート(Ellen Abrolat)
アルト:ゲルトラウト・ブレンツロフ(Gertraud Prenzlow)
テノール:ヨーゼフ・レティ(Josef Reti)
バス:トーマス・トマシュケ(Thomas Thomaschke)
オルガン:ヘルムート・エルテル(Helmut Oertel)

収録は1971年4月7日~9日、12日~13日、ベルリン放送SRKホールでのセッション録音。レーベルはDeutsche Schallplattenの国内盤(徳間ジャパン)。コッホのハイドンの声楽曲は新旧天地創造をこの7月に取りあげましたが、1960年の旧盤の引き締まった響きと1974年の雄大な自然な演奏の両方とも気に入っています。

2011/07/31 : ハイドン–オラトリオ : 【新着】ヘルムート・コッホの天地創造旧盤
2011/07/26 : ハイドン–オラトリオ : ヘルムート・コッホの天地創造新盤

そのコッホによるネルソンミサ、期待が高まります。いろいろ手に入れているとなかなかゆっくり聴いていられないんですが、今日はお休みゆえ、コッホの図太い筆で力強く書かれた楷書のような気合いの乗ったネルソンミサにどっぷり浸ろうという流れ。

ヘルムートコッホの紹介は上の天地創造新盤のリンクをご参照いただきたいんですが、このアルバムの解説にも以前触れていない情報がありましたので紹介しておきましょう。コッホは1908年生まれで、先の天地創造の新盤を録音した1974年の翌年に亡くなっています。1930年からベルリンの労働者合唱運動を指導し、1932年から指揮者として活動を始める。1945年にはベルリン放送にこのアルバムで合唱を担当しているベルリン放送ソリスト協会を設立し、この団体とともに合唱音楽の研究、演奏を進めた。このアルバムに参加しているもう一つの合唱団であるベルリン放送合唱団も彼が1948年に設立、1963年に設立されたベルリン合唱アカデミーの指導も担当するど、特に合唱を極めた人だったんですね。天地創造の力漲る合唱にもそうした背景があった訳です。もちろん、このネルソンミサも分厚いコーラスの響きは絶品です。

Hob.XXII:11 / Missa in angustiis "Nelson Mass" 「不安な時代のミサ(ネルソンミサ)」 [d] (1798)
キリエ
冒頭から怒濤のベルリン放送響のオケとコーラスの分厚い響き。1971年録音ということで高音が薄く瑞々しさはほどほどながら、鮮度はそれほど悪くありません。むしろ分厚い低音とスタジオらしいクリアな響きで迫力は十分。コッホの棒は迫真のコントロール。いきなりフルスロットル。気合い漲るとはこのことでしょう。ソプラノのナーベの良く通る艶のある声がクッキリと浮かび上がります。歌手は天地創造ほどのビッグネームはそろっていませんが、総じていい出来。

グローリア
キリエの力感を保ったまま、続くグローリアに。音符が立っているような素晴らしい立体感。クッキリ浮かび上がる旋律。テノールとバスによるにソプラノが重なり、それに怒濤のコーラスが重なり滝のような音楽。続いてテンポが落ちてアダージョになるクイ・トリス。バスのトマシュケは良く磨かれた艶のあるソロ。時折ソプラノのナーベとの絡み合うようように旋律を刻みますが、恐ろしいエネルギーのコーラスとオケにより美しいメロディーがかき消されんばかり。なんでしょうか、このオケとコーラスの突き抜けたエネルギー。別格のエネルギー。そしてクォニアムに入るとそのエネルギーが炸裂。まだ曲の前半なのにスピーカーから鳴る音は魂のかたまりのよう。

クレド
冒頭の弦による音階が神の啓示のように響き渡ります。金管群による伴奏は抜群のリズムで重なり、出だしの部分を迫力豊かに支えます。つづくエト・インカルナトゥスの染み入るるようなメロディーの美しいこと。徐々に音量とテンポを下げ神々しい輝きに満ちたこの曲の一番美しい部分へ。雲間から一筋の光明が差し込むような荘厳な部分。そして再びエネルギー爆発の終結部へ。速めのテンポで刻まれる弦楽器の音階をベースにコーラスがやはり怒濤のエネルギーでメロディーを歌い、それを飾るようなソプラノの修飾。最後アーメンの大合唱で結びます。

サンクトゥス
エネルギーを超えた澄み切った心境にまで昇華したオケとコーラスによるアダージョの導入部のサンクトゥスの合唱。そしてテンポを上げてアレグロの大合唱。そして続くベネディクトスは弦楽器の奏でるメロディーがミケランジェロの彫刻のように鍛え上げられ、デフォルメされながらも人体としての均整を失っていない異次元のアーティスティックな彫り込み。このゆったりした部分にも感じられる引き締まったコントロールはコッホならではのもの。そしてすべてを許さんばかりの慈愛に満ちたメロディーを歌手たちが引き継ぎながら歌う部分に入り、オケも溜めながら渾身の伴奏で応え、まさにエネルギーのカオスのような素晴らしいひと時。最後にホザンナが興奮を冷ますように奏でられます。

アニュス・デイ
これまでのすべての興奮を冷ますような癒しに満ちたアダージョからはじまる、この曲最後の一節。これまでのエネルギーはこの一節によって浄化されてしまうよう。そして曲の結びはトランペットとティンパニによる印象的な音形からはじまるメロディーの最終節で終わります。最後は全曲を貫くエネルギーも枯れ、淡々と終わるあたりにコッホの確信的なコントロールを感じます。

ヘルムート・コッホのネルソンミサ。あまりの素晴らしさに脱帽。曲の真髄に迫るはち切れんばかりのエネルギー。そしてオケとコーラスから発散される覇気。ライヴではなくこれがセッション録音である事に驚きを禁じ得ません。なんという音楽でしょう。完全にノックアウトです。冒頭に紹介した新旧の天地創造も素晴らしいですが、それを上回る出来です。12cmの小さなCDから40年の時を超えて放出されるエネルギー。評価は[+++++]ですが、これは人類の至宝と呼ぶべき名演奏でしょう。

ジャケット写真に付したHMV ONLINEのリンクのアルバムも注文して手に入るかどうか。このような名演奏が現在現役盤ではないということは日本のクラシック文化の損失です。前記事のコメントの延長になってしまいますが、独自企画の復刻で気をはくタワーレコードに、是非VITAGE COLLECTIONの次の候補に是非検討いただきたいと思います。先日タモリ倶楽部の放送でタワーレコードの社長をお見かけしましたが、アイドルの発掘も将来の日本の競争力の強化に不可欠ですが、これほどの名演奏が埋もれている日本の現状にも力を貸してほしいものです。よろしくお願いします(笑)
関連記事

2 Comments

There are no comments yet.

ライムンド

No title

Daisyさん、こんばんは。電源を落とす前にタイトルが目に入りました。この音源が国内盤で出ていたのも知りませんでした。今年コッホの録音が何点か出て、モンテヴェルディまで復刻していましたがこれは含まれていませんでした。思えばハイドンの方がレパートリーの範囲内のはずです。録音年もちょうどいい頃なので残念です。

  • 2011/12/12 (Mon) 00:11
  • REPLY

Daisy

Re: No title

ライムンドさん、おはようございます。
このネルソンミサは名盤ですね。また演奏だけでなくコッホで聴くネルソンミサは、曲の素晴らしさが良く出ていて、この曲の決定盤と言っていいと思います。旧東独エリアの音楽の質の高さが窺い知れるアルバムです。年の瀬にいいアルバムを聴きました。タワーレコードのみならず、天地創造の旧盤同様DENONからも復刻の可能性があるわけですね。

  • 2011/12/12 (Mon) 05:58
  • REPLY