作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ハイドンとアビンドン卿

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前記事でアップしたクイケン・アンサンブルのロンドン・トリオがあまりに良かったので、ロンドン・トリオがらみの未聴のアルバムを取りあげます。

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HMV ONLINEicon / amazon

デレク・マカロック(Derek McCulloch)カフェ・モーツァルト(Cafe Mozart)の演奏による、ハイドンとハイドンの友人でもあったのアビンドン卿の室内楽や歌曲まとめた企画もの。収録は2007年5月31日と6月1日、ロンドンの北約50キロのヒッチン(Hitchin)近郊の街プレストン(Preston)にあるテンプル・ディンスレー(Temple Dinsley)でのセッション録音。ご覧のとおりレーベルはNAXOS。

アルバムタイトルは「ハイドンのアビンドン卿」。アビンドン卿とは、第4代アビンドン伯爵、ウィロービー・バーティという人で1740年生まれのイギリスの貴族。イギリス中部のマンチェスター東方のゲインズバラ(Gainsborough)生まれで、政治記者をしていた上、音楽家にとってのパトロンであった他、自身も作曲をしていた人。義理の父の縁でクリスチャン・バッハなどと親交があった他、ハイドンの友人でもあったようで、作曲はハイドンがすすめたとされています。

このアルバムには30曲が収められていますが、約半数がアビンドン卿が作曲したもの。もちろんハイドンと比べると作品の質に差のあるのは当然のことながら、こうして200年以上経過してから録音されアルバムになるとはアビンドン卿自身も想像だにしなかった事でしょう。

今日はそのなかから、もちろんハイドンの曲を選んでレビューしましょう。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テノールはロジャーズ・カーヴィー=クランプ(Rogers Cobey-Crump)、伴奏はスクエア・ピアノでキャサリン・メイ(Katharine May)。イギリスっぽい発音の艶のあるテノールによる聴き慣れた曲。スクエア・ピアノの音はチェンバロっぽい音ですが、チェンバロとも少し違い箱っぽい音に感じます。朗々とした声の魅力で聴かせる歌ですが、スクエア・ピアノのリズムがちょっと重いのが惜しいところ。録音は鮮明で比較的オンマイクの音。前後に置かれたアビンドン卿の曲のリコーダーの音色が実に手作り感ある音楽だけに、この曲が逆に引き立つ感じなのが微笑ましいところ。

Hob.IV:9 / Op.38-4 Trio für Violine (oder Flöte), Violine und Violincello Nr.4 [G] (1784)
バリトン・トリオの曲に由来するフルート三重奏曲。ロンドン・トリオ同様1794年に書かれた曲。演奏はフルートはエドウィナ・スミス(Edwina Smith)、ヴァイオリンがオリヴァー・センディグ(Oliver Sändig)、バス・ヴィオールがイアン・ガミー(Ian Gammie)の3人。バリトンの精妙な音色のイメージが濃い曲ですが、フルートの清涼な音色に変わり、曲のイメージも変わってきます。アンサンブルの精度はそれほど悪くありませんが、やはりリズムの重さが少々気になるところ。知り合いの演奏会のようなカジュアルな感じに聴こえます。ハイドンの演奏当時はみんなで演奏をこのように楽しんだのだと言われているような演奏。

Hob.XXVIa:39 / "Trachten will ich nicht auf Erden" 「この世で何も得ようとは思わない」 [E] (1790)
1曲目と同様テノールのカーヴィー=クランプとスクエア・ピアノのキャサリン・メイの組み合わせの歌曲。カーヴィー=クランプの声はハイドンの歌曲にぴったりの声。朗々としかし叙情的なニュアンスも感じさせるデリケートな歌唱。ここではスクエア・ピアノの箱庭的な音色も雅な感じがしてなかなか盛り上げます。訥々とつぶやくようなスクエア・ピアノがようやく本領発揮。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
歌手がソプラノのレイチェル・エリオット(Rachel Elliott)に替わります。非常に透明感のある伸びの良い声。ハイドンの歌曲のイメージにドンピシャで絶妙の美しさ。短い曲ながらこのアルバムの聴き所でもあります。

Hob.IV:2 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」; [G] (1794)
ロンドン・トリオの2番の「貴婦人の姿見」のメロディーをフルート三重奏曲にしたものですが、ここでは最初のフレーズをテノールのカーヴィー=クランプ、指揮のデレク・マカロック、ヴァイオリンのミカエル・サンダーソンの3人が歌った導入という凝った演出。その後はフルートはジェニー・トーマス(Jenny Thomas)、エドウィン・スミス(Edwin Smith)とバス・ヴィオールがイアン・ガミーの3人の演奏。もちろん前記事のクイケン・アンサンブルの演奏の完成度には及びませんがなぜか手作り感のある演奏がとても印象に残ります。技術的な完成度だけが音楽を印象づけるものではないことを示してるような演奏。ハイドンの美しいメロディーを一生懸命演奏している汗を感じるような演奏。チェロではなくバス・ヴィオールの音色が変化を加えていますね。

Hob.XXVIa:16 / 12 Lieder No.4 "Gegenliebe" 「かなえられた恋」 [G] (1781)
先程美声に酔ったレイチェル・エリオットのソプラノに今度はイアン・ガミーのギターが伴奏を担当。やはり美しい声にうっとり。気に入りました。

Hob.IV:1 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
こちらは声の入らないフルート三重奏曲。2番のメンバーと同じメンバー。この演奏を聴くと逆にクイケン・アンサンブルの超自然的演奏の素晴らしさが際立ちます。もちろんこちらの演奏が悪い訳ではく、先程来の手作り感を感じるなかなかの演奏。

Hob.XXVIa:41 / "The Spirit's Song" 「精霊の歌」 [f] (c.1795)
名曲「精霊の歌」をレイチェル・エリオットの透明な声とスクエア・ピアノの組み合わせで。表現の幅はそこそこながら、透明感溢れる声の美しさは絶品。特に高音域の自然な響きと伸びは素晴らしいもの。

Hob.XXXIa:180 - JHW XXXII/3 No.173 / "Tak your auld cloak about ye"
この曲は作品番号ではこれなんですが、アルバムの曲には"When icicles hang on the wall"とあり、スコットランド歌曲集には同名の作品が見当たりません。カーヴィー=クランプのテノールにヴァイオリン、スクエア・ピアノ、バス・ヴィオールの組み合わせ。1分少々の小品。不思議と叙情的な語るような歌。アルバムの最後に置かれた曲。

カフェ・モーツァルトという団体の「ハイドンとアビンドン卿」という企画もの。アビンドン卿の曲にはちゃんと触れませんでしたが、ハイドンの時代に同時代で聴いているようなくつろいだ雰囲気が味わえる好企画と言ってよいでしょう。どの曲も技術的にはまだまだ上があるような演奏ですが、不思議に懐かしい感じと技術の欠点が粗と映らないない素朴な音楽の楽しみを感じるアルバム。ハイドンが好きな方には一度聴かれる事をお薦めします。評価は全曲[++++]とします。
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