クイケン・アンサンブルによる「ロンドン・トリオ」

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クイケン・アンサンブル(The Kuijken Ensemble)の演奏で、ハイドンのフルート三重奏曲「ロンドン・トリオ」の4曲とおそらくハイドンの作ではないフルート四重奏曲Op.5の6曲を収めた2枚組のアルバム。収録は1992年の1月と3月、アムステルダムの西方10キロほどの街、ハールレムにあるVereenigde doopsgezinde Kerkという教会でのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。今日はハイドンの室内楽の名曲ロンドン・トリオ4曲を取りあげます。ロンドン・トリオの演奏はフルート・トラヴェルソがバルトルト・クイケン(Barthold Kuijken)とマルク・アンタイ(Marc Hantaï)、チェロがヴィーラント・クイケン(Wielaand Kuijken)の3人。
ACCENTは私にとって憧れの神聖なレーベル。LP全盛期の1980年代はじめに代々木のジュピターレコードのご主人に教えていただいた当時は知る人ぞ知るレーベル。センスのいいジャケットと透明感溢れる素晴らしい録音のLPを何枚か薦められて手に入れました。穏やかな朱を少しさしたベージュのような微妙な色の地にギリシャ雷紋模様の縁取りがえもいわれぬ高貴な感じを与えて何とも所有欲を満たすレーベルでした。
その当時そのACCENTの代表的なアーティストがクイケン3兄弟でした。クイケンのアルバムは今でこそいろいろなレーベルからリリースされ人気のほどが窺えますが、このレーベルの雰囲気の良いジャケットとクイケンの清楚な音楽が非常に新鮮に感じられたものです。
ロンドン・トリオは1794年、ハイドンがロンドンに滞在している間に作曲したもの。2本のフルート・トラヴェルソとチェロのための4曲の三重奏曲。第1番と第2番は歌曲のHob.XXXIc:17「貴婦人の姿見」のメロディをもとにした変奏曲。ベルリンに保管されている自筆譜に「ロンドン、1794年」との注記があるとのこと。3番と4番も他の場所で発見されたが前2曲と明らかに同じシリーズのもの。
貴婦人の姿見の演奏は下記をご覧ください。
Hob.XXXIc:17a / "Lady's Looking Glass" 「貴婦人の姿見」 [D] (1791/95)
前置きはこのくらいにしてレビューに入りましょう。
Hob.IV:1 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.1「ロンドン・トリオ」 [C] (1794)
1番は3楽章構成。1楽章は2本のフルート・トラヴェルソの音階の織りなす素晴らしい音楽。クイケンとアンタイの息がピタリと合って、素朴なフルート・トラヴェルソの美音を満喫。チェロはキリッとしたリズムでサポートします。たった3本の楽器のアンサンブルですが、その奏でる音楽の豊かさは素晴らしいもの。ハイドンは楽器の音色に対する鋭敏な感覚をもっていたと思いますが、まさにフルート・トラヴェルソの音色の特色を存分に発揮した曲。
2楽章はアンダンテ。ぐっと沈み込む情感。3人の奏者が互いの奏でるメロディーをよく聴いて演奏しているような、完璧な音の重なり。
フィナーレはフルート・トラヴェルソの音階によってトランス状態に達しそうな独特の旋律。究極的な自然さ。各楽器のテンポの刻みの正確さと弾むようなリズム、自然なデュナーミク。そしてワンポイント録音のような極上の自然な響き。まさに室内楽の最高の楽しみを味わえる曲ですね。
Hob.IV:2 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.2 「ロンドン・トリオ」; [G] (1794)
2番はアンダンテとアレグロの2楽章構成。アンダンテは上記の「貴婦人の姿見」のメロディーそのままの曲。最近聴いたカークビーの美声の記憶が蘇ります。ハイドンのつくったメロディーの中でも最高に美しい曲の一つでしょう。フルート・トラヴェルソの奏でるメロディーもソプラノに劣らず素晴らしいもの。意識が天上に吸い寄せられていくような快感。脳内に静かにアドレナリンが広がる感じ。至福の一時です。雅な音色、完璧な演奏、技巧を超えた祈りにも似た純粋さ。アレグロは前楽章の変奏のようなフルート・トラヴェルソの音階を主体とした短い曲。前曲の興奮を鎮めるような曲。
Hob.IV:3 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.3 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
第3番は再び3楽章構成。1楽章はスピリトーソ。快活なメロディーを2本のフルート・トラヴェルソが交互に押し寄せるさざ波ように呼応するように響宴。このメロディーのやり取りは録音で聴くのは惜しいですね。実演でのやりとりを実際に見てみたいです。美しいメロディーなのにスリリングな音楽的魅力もある演奏。
つづくアンダンテは前楽章の溌剌とした演奏を冷ますようにゆったりと落ち着いた音楽。フルート・トラヴェルソの中低域の美音を満喫できます。深い深い呼吸と吸い込まれるような間の織りなす究極のリラックス。フルート・トラヴェルソの持続音が永遠に続きそうな響き。
3楽章はアレグロ。今度は色彩感を鮮明にしようとするように吹き上がる音階の魅力。良く聴くと速いパッセージのメリハリのついた音量コントロールが非常に巧みで、自然な音楽が技術に裏付けられている事がわかります。
Hob.IV:4 / Trio für 2 Floten (oder Flöte, Violine) und Violincello "London Trio" Nr.4 「ロンドン・トリオ」 [G] (1794)
最後の曲は1楽章構成。アレグロでソナタ形式の構成。この曲でも冒頭からフルート・トラヴェルソの美音に耳を奪われます。交互に吹き上がるフルート・トラヴェルソの音階の美しさが絶妙。途中チェロのリズムがすこし練るように変化して変化をつけているのがわかります。
クイケン・アンサンブルの演奏によるハイドンの「ロンドン・セット」は室内楽を聴く最高の悦びに溢れた演奏。自然な感興、雅な音色、超自然な録音と素晴らしいプロダクションです。今更ながらハイドンの全盛期に書かれたこの曲の素晴らしさを再認識した次第。もちろん評価は[+++++]としています。
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