作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ギレリス/コーガン/ロストロポーヴィチのピアノ三重奏曲

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今日はピアノトリオ。

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エミール・ギレリス(Emil Gilels)のピアノ、レオニード・コーガン(Leonid Kogan)のヴァイオリン、ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ(Mstislav Rostropovich)のチェロによるハイドンのピアノ三重奏曲XV:19、XV:16の2曲とベートーヴェンのピアノ三重奏曲2曲、シューマンのピアノ三重奏曲、そしてフォーレのピアノ四重奏曲(ヴィオラはルドルフ・バルシャイ)を収めた2枚組のアルバム。収録はXV:19が1950年、XV:16が1951年、何れもモスクワでの録音。もともとはWestminsterへの録音だったようですね。レーベルはDeutsche Grammophone。

メンバーの3人は今更紹介するまでもないでしょう。ピアノのエミール・ギレリスは1916年ウクライナの黒海沿岸の街オデッサの生まれ。ヴァイオリンのレオニード・コーガンは1924年ウクライナの内陸の街ドニプロペトロウシクの生まれ。ムスティスラフ・ロストロポーヴィチはその3年後1927年、カスピ海沿いのアゼルバイジャンのバクーの生まれ。3人の接点はモスクワ音楽院。すでに助手として働いていたギレリスに対し、コーガンとロストロポーヴィチが学生として学び始めたとのこと。3人はそれぞれ当時のロシアやヨーロッパのコンクールで入賞などして頭角を表し、ソロでも十分やっていけるようになっても、それまでに活動していた室内楽をやめる事はなかったとのこと。このアルバムの録音は1950年から1958年にかけてモスクワで集中的に行われた録音の成果です。20代から30代の若々しい彼らの活動の貴重な記録。ちなみにレオニード・コーガンの奥さんはエミール・ギレリスの妹とのことです。

弦楽四重奏曲にくらべて古い演奏が多くないピアノ三重奏曲ですが、これはその中でも貴重な演奏の記録でしょう。

Hob.XV:19 / Piano Trio (Nr.33/op.70-2) [g] (before 1794)
Hob.XV:18~XV:20の3曲は1794年にロンドンのロングマン&ブロドリップ社よりOp.70として出版された。マリア・ヨゼファ・エステルハージ侯爵婦人に献呈された曲。
1950年という収録年が信じられない十分自然で鮮明な音響。冒頭からギレリスのゆったりとしながらも輝きのあるピノに乗ってコーガンとロストロポーヴィチがゆったりと弦楽器の音を重ねて行きます。ハイドンというよりベートーヴェンのような雄大さをもあわせもつ表情。それぞれ大物だけあり、音だけを合わせて行く室内楽の団体とは訳が違います。全員の音楽が一つになって大きなうねりをつくっていくような演奏。
2楽章はギレリスのきらめく星のようなピアノが見事。ロストロポーヴィチのチェロは先輩に遠慮するように、そっと支えるようなタッチ。濃密な音楽。
3楽章はテンポをハッキリ上げることはせず、安定感を狙った演奏。これまでの揺るぎない3人の掛け合いを、あえて一貫したテンポでガッチリ仕上げようと言う意図でしょうか。録音年代から想像するよりもずっと最近の演奏のように聴こえます。おそらく、1950年当時としても新しい解釈であった事は容易に想像できますね。今更ながら偉大さがよくわかります。

Hob.XV:16 / Piano Trio (Nr.28/op.59-1) [D] (before 1790)
Hob.XV:15~XV:17の3曲は1790年にロンドンのブランドよりOp.59として出版されたもの。前曲より1年後の録音ですが、音はすこし薄め。前曲が十分な厚みと立体感があったのに対し、すこしバランスが高域寄りでかつ音が軽い感じです。微妙な違いですが、音楽の濃さに少々影響ありといったところでしょうか。
1楽章のアレグロはやはりギレリスのはずむようなピアノが軽快にリズムを刻んでいき、前曲とは異なり爽快感を前面に感じさせる演奏。音響も前曲が雄大さを狙ったものでしたが、この曲では鮮明さにシフトしている感じ。残響が少ない分、ピアノの音色に深みが少し欠けるのが惜しいところ。演奏は火花が散りそうなエキサイティングなもの。特にギレリスとコーガンの2人が有り余るテクニックで攻め合っているよう。時折ヨハン・シュトラウスの常動曲の断片のようなメロディーが顔をのぞかせるのがユーモラスな表情で和ませます。
2楽章のアンダンティーノは、悲しげなフレーズをピアノとヴァイオリンで訥々と重ねて行きます。チェロは雄弁にはならず、淡々と伴奏している感じ。コーガンのヴァイオリンの音色がとくに険しい表情を見せます。
3楽章でようやくチェロがすこし踏み込んできました。こうして聴くとコーガンのヴァイオリンの存在感は素晴らしいものがあります。圧倒的な迫力。テクニックも素晴らしいのですがやはりこのアルバムから聴くべきなのは覇気と音楽性でしょう。最後はきっちりけじめをつけて終わります。

ギレリス、コーガン、ロストロポーヴィチと名手ぞろいのトリオが奏でるハイドンのピアノ三重奏曲のアルバム。DGの復刻はなかなかいい状態であり、1950年ごろという録音が信じられないほどに鮮明な音楽を楽しめます。このアルバムもハイドンのピアノ三重奏曲演奏の歴史の冒頭を飾る名演奏にふさわしいものでしょう。評価はXV:19が[+++++]、XV:16が[++++]としました。

ピアノ三重奏曲もしっかり聴いていないアルバムも多いため、今月は何組か取りあげていこうと思っております。
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