エンジェルス弦楽四重奏団のOp.74のNo.1(ハイドン)

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エンジェルス弦楽四重奏団(The Angeles String Quartet)のハイドンの弦楽四重奏曲全集。収録は1994年4月から1999年6月にかけて、サンフランシスコ近郊のベルヴェディアの聖ステファン米国聖公会教会(St Stephen's Episcopal Church)でのセッション録音。レーベルは今は亡きPHILIPSです。今日はこの中から、最近良く聴くOp.74のNo.1を取りあげます。
エンジェルス弦楽四重奏団は、このハイドンの弦楽四重奏曲全集の他に録音を見かけませんし、ネットにもあまり情報がありません。ということでたよりになるのはライナーノーツのみ。設立は1988年と最近で、アメリカ西海岸で急速に頭角を現し、その後ニューヨークのカーネギーホールやリンカーンセンターなどでもリサイタルを開くようになりました。ロンドンではウィグモアホールでハイドンシリーズのコンサートを担当したそう。メンバーは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:キャサリーン・レンスキ(Kathleen Lenski)
第2ヴァイオリン:スティーヴン・ミラー(Steven Miller)から1988年にサラ・パーキンス(Sara Parkins)に交代
ヴィオラ:ブライアン・デンボウ(Brian Dembow)
チェロ:ステファン・エルドディ(Stephen Erdody)
このアルバムはバラで発売された形跡はなく、一気に全集として発売されたもの。ジャケットにはヨゼフ・ハイドン協会のサポートで録音されたとの記載があり、ただの全集ではないようですね。おそらく彼らの透明感溢れる晴朗な演奏スタイルを知ってハイドンの全集プロジェクトが計画されたということではないかと想像しています。ただし、現時点で彼らのオフィシャルサイトなどが見つからないことを考えると現在活動しているかどうかわかりません。
既に触れたとおり、エンジェルス弦楽四重奏団の演奏は、現代楽器による楽天的すぎるとさえ思える伸び伸びとした晴朗な演奏が特徴。同じ現代楽器でもアマデウスのストイックかつ分厚い音色の弩迫力の演奏とは対極をなすような演奏。ハイドンの弦楽四重奏曲に内在する一面にスポットライトを当てた演奏であることに間違えありません。
Hob.III:72 / String Quartet Op.74 No.1 [C] (1793)
PHILIPSらしい空間を感じる比較的残響豊かな録音。ただ定位感が不思議で楽器の実体感があまりなく、空間全体に巨大なクァルテットの虚像が満ちているような音響。定位感の再現がほどほどの我が家のシステムでもこのような印象なので、オーディオ的に空間表現にすぐれた装置で聴くとこのへんは逆に欠点に聴こえるのではないかと思います。PHILIPSにしては珍しい録音といえるでしょう。普通の装置では非常に良い音と聴こえるタイプの録音です。
1楽章は巨大な音像で鮮度も十分なクァルテットの迫力の演奏。伸び伸びとしながらキビキビともしており、それでいて安心して聴ける流れの良さがある演奏。アンサンブルは緊密な一体感で、各楽器の音色もそろっています。強音のはじまりをすこし溜めて力感を表現するあたりの巧みさはなかなかのテクニック。各楽器のメロディーの受け渡しは微妙に前のめりなところが推進力を生み、リズム感の良さを際立たせています。テクニックと音楽性のバランスが絶妙。
2楽章も基本的に同じ魅力をもった演奏。純粋に伸び伸びと奏でられるメロディーラインがアメリカのクァルテットだと感じさせます。呼吸も深く、旋律も良く磨かれていますが、豊かな残響をともなって録られた各楽器の音自体は少々ざらついたもの。おそらくPHILIPSの技術者がこのクァルテットの伸び伸びした演奏とすこしざらついた音のギャップを埋めるべく試行錯誤してたどりついたのがこのアルバムのちょっと変わった録音の背景のような気がします。
メヌエットは大きな楔を打つような趣。楔をうつ槌を振りかざすバックスイングまで見えるような非常にメリハリのあるフレージング。変わったことはやっていませんが、活き活きとした活力溢れる演奏という意味ではすばらしいものがあります。楽章ごとの変化のつけかたも自然な範囲ながら、クッキリと個性を際立たせるなかなかの演出力。
そしてフィナーレでは抜群のテクニックを見せつけます。速いパッセージの安定感のみならず、全体構成を考えた設計も見事。休符やアクセントの付け方も見事のひとこと。
久しぶりに取り出して聴いたPHILIPSレーベルの威信がかかったハイドンの弦楽四重奏曲全集。PHILIPSに期待される素晴らしい空気感溢れる録音ではなかったにせよ、エンジェルス弦楽四重奏団のハイドンはハイドンの弦楽四重奏曲のオーソドックスな演奏としてなかなか良い出来です。活き活きとした曲想、ちょっと楽天的にも感じるコントロール、緊密なアンサンブルとレベルの高い演奏ですが、ハイドンの弦楽四重奏曲の魅力である陰りや憂いといったもの、ヨーロッパの伝統など、失われてしまった側面もあるように感じます。変わった定位感の録音は、おそらく弦楽器の音質をカバーするために工夫をこらしたものだったと思います。評価は[++++]としておきます。
この全集、欠点といえば、「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」が含まれていない事ですが、演奏自体は弦楽四重奏曲をのんびり楽しむには非常にいい全集だと言えると思います。弦楽四重奏曲が好きな方は持っていて損はないいいアルバムでしょう。
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