作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

プロ・アルテ弦楽四重奏団のOp.1のNo.1、Op.20のNo.5

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今日はまた古めの弦楽四重奏曲に戻ります。

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プロ・アルテ弦楽四重奏団(The Pro Arte String Quartet)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲集。第1巻(3枚組)、第2巻(4枚組)の計7枚にハイドンの弦楽四重奏曲27曲と、旧来ハイドンのものと思われていたホフシュテッターの弦楽四重奏曲2曲を収めたアルバム。収録は1931年から38年にかけてロンドンのアビーロードスタジオでのセッション録音。レーベルはヒストリカルの正統派復刻者であるTESTAMENT。

このアルバムも手に入れたのは10年以上前。以前はかなり古い録音とあっさりした演奏ということで、あまり聴きこんではいませんでした。最近ヒストリカルな弦楽四重奏の魅力にすっかりハマり、あらためて取り出して聴きなおしたところ、やはり歴史を経て発売され続ける魅力が十分あるアルバムであることがよくわかりました。今日は第1巻のCD1に収められた最初の2曲を取りあげてみましょう。

プロアルテ弦楽四重奏団は1911年から12年にかけてベルギーのブリュッセル音楽院の生徒で設立されたクァルテット。1913年にデビューすると間もなく現代音楽のスペシャリストとみなされるようになりました。バルトークやミヨー、オネゲルなどが作品の初演を委嘱するようになります。バルトークの弦楽四重奏曲4番は1928年の作曲で彼らに捧げられたもので1930年にプロ・アルテ弦楽四重奏団によって初演された曲。

このアルバムに収められた演奏の頃のメンバーは次のとおり。

第1ヴァイオリン:アルフォンス・オンヌー(Alphonse Onnou)
第2ヴァイオリン:ローラン・アルー(Laurent Halleux)
ヴィオラ:ジェルマン・プレヴォー(Germain Prévast)
チェロ:ロベール・マース(Robert Maas)

この少し後になる1941年には活動の場をアメリカ、ウィスコンシン州のマディソンに移し、そして、なんと現在もメンバーが変わって活動を続けています。現在はウィスコンシン音楽大学に所属するクァルテットのようですね。いつものようにオフィシャルサイトへのリンクを張っておきましょう。

PRO ARTE QUARTET

今回,聴き直してみると、同時代のカペーやレナーなどのポルタメントを効かせたある意味時代がかった演奏が多かった時代にあっては、流石に現代音楽を得意としていただけに、非常に新しいスタイルの演奏だったと思います。キレのいい表現と感情を抑制し音自体に音楽を語らせるような表現は今聴いても十分通用するもの。当時のパースペクティヴに浮かび上がる前衛性といってもいいでしょう。ハイドンのクァルテットも屹然とした語り口が心地よい演奏ですね。

Hob.III:1 / String Quartet Op.1 No.1 [B flat] (c.1757-59?)
滅多に聴かないハイドン最初期の弦楽四重奏曲。5楽章構成でハ長調のシンプルなメロディーの曲。録音は1938年11月5日。1楽章は序奏のようなプレスト、2楽章と4楽章のメヌエットが置かれ、3楽章がアダージョ、そしてフィナーレもプレストという練習曲のような曲調。録音はSP原盤のようで若干のスクラッチノイズが入りますが、クァルテットの音楽自体は直接音重視のキレのいいもの。鮮明さも時代を考えると十分でいい復刻です。
ちょっと聴くとあっさりした演奏なんですが、音量を上げて聴くと、情緒に溺れない毅然としたカッチリとした演奏。やはり現代音楽を得意としているだけに、現代音楽の冷静な視点からハイドンの最初期の曲を眺めているよう。1楽章から速めのテンポで冷静というか若干覚めた視点も感じさせつつタイトで緊密な演奏。一番特徴がでているのがアダージョ。キリッと流麗かつタイトなアダージョ。白磁の美しさのような趣。4楽章のメヌエットも青白い炎のような冷徹かつタイトは響き。フィナーレは後年の曲の成熟を予感させる快速なもの。プロ・アルテの確かなテクニックを感じさせるクリアでタイトな演奏。初期の曲をこれだけタイトに聴かせる見事な演奏。

Hob.III:35 / String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
続いてシュトルム・ウント・ドラング期の傑作。この曲は1934年10月29日の録音。演奏精度は今ひとつながら1楽章の冒頭から迸るタイトなエネルギーに圧倒される演奏。音階にわずかながらポルタメントのような面取りが聴こえますが、演奏の特色は一貫して速めのテンポと緊密感。音響もダイレクト感溢れるもの。意外とデュナーミクの幅も大きくかなりの起伏でハイドンの名曲の構成美というか骨格美をあらわにします。1楽章はテンション高くすすめてきて最後にふっと力を抜いて終わる絶妙なセンス。2楽章はメヌエットで古い録音から聴こえてくるカミソリのような切れ味鋭い演奏。録音を通して演奏者のオーラが伝わってくるような素晴らしい気合い。3楽章のアダージョは前曲同様ひきしまって淡々とした運びがかえって情感を生むような見事さ。ヴァイオリンの突き抜けるような純度の高い響きが心に刺さります。ヴィオラとチェロのさりげないサポートが曲の深みを増しています。フィナーレのフーガはプロ・アルテの面目躍如。ヴェーベルン編曲のバッハのリチェルカーレを聴くような、現代音楽のような険しさをもった素晴らしいフーガ。ハイドンのクァルテットの緊密な構成と現代にも通じる音楽性にスポットライトを当てた見事な演奏と言っていいでしょう。

やはり現在まで聴かれ続ける理由のあるずばらしい演奏。1930年代の演奏としては驚くほど現代的でかつ、その時は前衛的だったことと想像されます。ポルタメントを効かせた懐かしい響きのハイドンも悪くありませんが、プロ・アルテ弦楽四重奏団の聴かせる冷徹かつタイトなハイドンも素晴らしい魅力を持ったものでした。評価はOp.1が[++++]、Op.20は[+++++]とします。

これまで古い演奏を多く取りあげてきましたが、このあとは少し新しいものも聴いていきたいと思います。
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