作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

エイドリアン・シェファード/カンティレーナの悲しみ、受難、マーキュリー

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昨日ディスクユニオンで掘り出したアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon

エイドリアン・シェファード(Adrian Shepherd)指揮のカンティレーナ(Cantilena)の演奏によるハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集。収録順に交響曲44番「悲しみ」、49番「受難」、43番「マーキュリー」の3曲とこの時期の名曲ばかりを集めた交響曲集。収録は1986年5月11日、12日、グラスゴーのSNOセンターでのセッション録音。Chandosレーベルのアルバムです。

このアルバムと同じ組み合わせの哲学者などを収めたアルバムが非常に良かったので、しばらく探していたアルバム。店頭で見つけた時にはちょっと嬉しかったですね。以前取りあげたアルバムのレビューへのリンクを張っておきましょう。

2011/01/15 : ハイドン-交響曲 : シェファード/カンティレーナの交響曲24番、哲学者、アレルヤ

前記事をあらためて確認すると、収録日が同一ですね。ということは同じ時期に録られ、別のアルバムとしてパッケージされた演奏ということになります。前のアルバムが良かっただけに期待が持てます。演奏者の情報などは前記事をご参照ください。

Hob.I:44 / Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
まずは悲しみ。小編成の現代楽器オケによる軽快なテンポの入り。残響が多めの録音ゆえゆったり感も十分。前回取りあげたアルバムでも感じましたが、非常にオーソドックスながら強弱のコントロール、特に弱音のコントロールが非常に巧みで、ハイドンの名旋律が活き活きと響き渡ります。オケの演奏の精度が抜群というほどではないんですが、音楽性は十分。この時期の交響曲の演奏としてこれ以上望むものは何もないという完成度。シェファードがチェロ奏者出身と言うこともあって弦楽器のコントロールが巧みなんでしょうか。ハイドンの素晴らしいメロディーをかっちりと描ききります。
2楽章のメヌエットも小細工なくこの曲に仕込まれた起伏を、作為から解き放たれたような自然さ溢れる演奏で表現。テンポも自然。この曲の素晴らしさを伝えるにはこの自然体のアプローチがもっともしっくり来ます。弦楽器、木管、金管それぞれの楽器の響きの美しさを純粋に楽しめる演奏。
絶品はつづくアダージョ。情感のこもった素晴らしい演奏。ちょっと控えめなフレージングからにじみ出るハイドンの名旋律。純粋にハイドンらしいと言えばいいでしょうか。指揮も奏者も素晴らしい音楽性です。
そして鬼気迫るフィナーレ。場面転換の鮮明さも見事。曲のクライマックスとしての盛り上がりの演出も見事。欲を言えば低音弦群の迫力が今少しあればという気がしないでもありませんが、録音によるところかもしれません。いやいや素晴らしい悲しみにノックアウト。

Hob.I:49 / Symphony No.49 "La passione" 「受難」 [f] (before 1768)
続く受難の1楽章はアダージョ。じっくりした遅めのテンポでの入り。予想よりかなり遅く、冒頭のうら悲しくしかも美しく磨かれたメローディを弾いて行きます。暗さからほのかな光がゆっくり差し込む情景を描いた絶品の序奏。美しさの限りを極めた演奏。楽譜を研究し尽くしてとったテンポでしょうか、非常に効果的なテンポ設定。小編成オケから生み出される音楽が、感情の大波をゆったりと起こして行く様を見るよう。完璧な演奏。
2楽章はアレグロ・ディ・モルトですが、ギアチェンジしてくると思いきや、なんと遅めで入ります。この曲のメロディーの美しさに焦点を合わせたということでしょう。遅めのテンポながら、徐々に熱気を帯びて、迫力をましてくるのがわかります。いずれにせよ音楽的な緊張感は途切れず、深い情感をたたえた演奏。指揮者とオケの類いまれな一体感が続きます。
続くメヌエットはこの時期のハイドンのうら悲しい憂いをよく表現した、こちらも素晴らしい演奏。この楽章は多少遅めながら比較的標準に近いテンポ設定です。もうただ演奏するだけでハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の魅力あるメロディーに打たれます。これだけシンプルな曲からこれだけ深い情感を醸し出す、天才だけになせる技でしょう。途中からの木管とホルンによる掛け合いも幸福感に満ちたもの。楽器の音色とその音色が感情に訴えかけてくるものをよく使い分けて曲を書いていると感心しきり。再び弦主体のフレーズにもどりこの時代の空気をつたえます。この楽章も見事の一言。絶品です。
フィナーレはプレスト。もはや音楽のもつ推進力が自律的に音楽を奏でているよう。素晴らしいエネルギー感と音楽性。力んでいる様子は皆無で音楽に求められる範囲での見事な起伏。角が立つようなところはまったくなく自然な演奏の魅力は変わらず。この曲も素晴らしい演奏。脱帽です。

Hob.I:43 / Symphony No.43 "Merkur" 「マーキュリー」 [E flat] (before 1772)
一転長調の明るい曲調。演奏の基調はかわらず、自然にじっくりとメロディーを奏でて、ハイドンの曲の面白さを曲自体に表現させるような素直な解釈。シェファードとカンティレーナのすばらしい音楽性を素直に楽しめる演奏。これまであまり注目してきませんでしたがこのアルバム、ハイドンのこの時期の交響曲の魅力が一杯に詰まった素晴らしい演奏。2楽章のアダージョも静謐な悦びにあふれた演奏。3楽章のメヌエット、フィナーレとも中庸なテンポと素晴らしい音楽性を楽しめます。

しばらく探した甲斐のある素晴らしい出来。エイドリアン・シェファードと手兵カンティレーナのハイドンのシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲集はすべての人にお薦めすべき素晴らしい演奏でした。評価はもちろん全曲[+++++]とします。いやいやこれだけ素晴らしい演奏で聴くハイドンの交響曲は、あらためて名曲だと感心しきり。いいアルバムに出会ったものです。

今日はこれから近所に歌舞伎を見に行ってきます。
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