ディミトリ・ミトロプーロス/ニューヨークフィルの軍隊、80番

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ディミトリ・ミトロプーロス(Dimitri Mitropoulos)指揮のニューヨークフィルの演奏で、ハイドンの交響曲100番「軍隊」、交響曲80番、「オルフェオとエウリディーチェ,または哲学者の魂」序曲、チマローザ「麗しきギリシャ婦人」序曲の4曲を収めたアルバム。収録は軍隊が1956年11月4日、80番とハイドンの序曲が1954年2月7日、チマローザは1954年2月21日のライヴ。レーベルはなつかしいイタリアのASdiscです。
このブログでミトロプーロスを取りあげるのははじめてのこと。昨日取りあげたバーンスタイン絡み聴きたくなったので取りあげました。
ミトロプーロスは1896年アテネ生まれのギリシャの指揮者、ピアニスト、作曲家。1960年に亡くなっていますので64歳だったことになります。ギリシャとブリュッセルで音楽を学び、1921年から25年にベルリン国立歌劇場でエーリッヒ・クライバーの助手として働き、1930年にはベルリンフィルをピアノの弾き振りで演奏したとのこと。1936年にボストン交響楽団を指揮してアメリカデビュー、1937年から1949年までミネアポリス交響楽団、そして1951年からニューヨークフィルの首席指揮者となり1957年にはバーンスタインにその立場を譲ることとなったとのこと。このアルバムの演奏は1954年、56年とニューヨークフィル首席指揮者時代の演奏になります。ミトロプーロスは現代音楽やマーラー演奏の先駆者でもあり、バーンスタインがマーラーに興味をもつきっかけを作ったとされています。
こうした先駆者的な指揮者であるミトロプーロスの振るハイドンははたしてどのような響きを聴かせるのでしょうか。
Hob.I:100 / Symphony No.100 "Military" 「軍隊」 [G] (1793/4)
ノイズの向こうからゆったりと響く軍隊の序奏。ちょっと音が途切れるようなテープの傷があります。録音はまあ年代並みでしょう。それほど聴きにくいコンディションではありません。主題に入ると快活なテンポにギアチェンジ。かなりゆったり目の序奏から速めのテンポへのかなり意図的な変化。以降は細めの音響ながら快速テンポで軍隊の1楽章の名旋律をインテンポでガシガシ弾き進めていきます。
2楽章のアレグレットもちょっと速めのテンポで曲の構造を俯瞰するような演奏。昨日のバーンスタインのじっくりしとりとは正反対の速めのテンポでのメリハリ重視、インテンポの迫力を聴かせる演奏。速めのテンポなのに劇的な感じはうまく表現できていて迫力十分なのが凄いところ。
メヌエットも同様。テンポに関しては楽章間のコントラストよりはインテンポによって一貫して迫力ある演奏を追求しているようです。ただしこの楽章のみ溜めをいかしたフレージング。
フィナーレはもちろん快速テンポ。良く聴くとフレーズごとに巧みに表情付けがされていることで、一貫して速めなテンポなのに聴き応えがある音楽となっていることがわかります。流石に歴史を経て聴かれ続けてきた演奏です。軍隊最後のクライマックスは素晴らしい盛り上がり。メーターが振り切れんばかり。最後は盛大な拍手に包まれます。
Hob.I:80 / Symphony No.80 [d] (before 1784)
今度はだいぶ遡って珍しい80番。演奏の傾向は軍隊と同様、キビキビ感の中に表情豊かな演奏。こちらは軍隊よりも低域が豊かな録音で自然さも少々上。冒頭から会場の咳払いなどがかなり聞こえます。ハイドンの曲に対する一貫した視点の存在を感じさせます。あまり小細工にたよらず、カッチリと仕上げていく人という印象です。低音弦主体のユニークなメロディーをうまく表現して、曲の面白さを浮かび上がらせるあたりは、流石。
2楽章のアダージョは理知的な演奏からにじみ出る慈しみ深さが感動を呼ぶような演奏。これはいいですね。さりげないコントロールが浮かび上がらせる曲本来の魅力。80番の方はテープの傷もなく安心して聴けます。均整のとれた響きの向こうに広がる晴朗な陰りのような不思議な感覚。絶品。
ミトロプーロスはメヌエットでは溜めを効かせるのが定番のようですね。この曲では予想に反してテンポを落としてじっくりきます。くどさは皆無。音量の変化をかなり鮮明につけて、ここぞとばかり美しいフレーズを感情ではなく機知で表現しているよう。この楽章もミトロプーロスの賢い解釈にノックアウト。80番の素晴らしさを再認識。
フィナーレは再び快速テンポと表情豊かな畳み掛けるミトロプーロス節が戻ってきました。脳が先回りして期待した通りに演奏され、それを感じる歓びにアドレナリン噴出! 見事。この曲はミトロプーロスの素晴らしさが良く出た演奏。
Hob.XXVIII:13 / "L'anima del filosofo, ossia Orfeo ed Euridice" 「オルフェオとエウリディーチェ,または哲学者の魂」 (1791)
不気味な迫力を感じさせる渾身の序奏。80番と同日の演奏ながら音響はちょっと異なる感じ。オペラの序曲らしく劇性を適度に表現しながらも、ミトロプーロスの理性的なコントロールが行き渡っているため、筋の通った響きに安心して身を委ねることができます。中盤以降のメロディーラインの美しさが非常にうまく表現できています。この曲も名演でした。
ギリシャの哲人、ミトロプーロスのハイドンは、ハイドンの機知、オーケストラのめくるめく響きの楽しみ、そして指揮者の抑えが利いた素晴らしい演奏でした。惜しいのは軍隊の録音の傷。ということで軍隊はその分減点で[++++]、その他は[+++++]とします。ミトロプーロスの演奏、ハイドン以外もいろいろ聴いてみたくなりました。
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