アントニオ・デ・アルメイダ/モスクワ交響楽団の十字架上のキリストの最後の七つの言葉

今日は久々のオラトリオ。

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HMV ONLINEicon(廃盤) / amazon

アントニオ・デ・アルメイダ(Antonio de Almeida)指揮のモスクワ交響楽団、ロシア国立アカデミー合唱団(State Academic Choir of Russia)の演奏でハイドンのオラトリオ版「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。ソロはソプラノがエレナ・エフセーエワ(Slena Evseeva)、メゾソプラノがマルガリータ・マルーナ(Margrita Maruna)、テノールがアルカディ・ ミシェンキン(Arkady Mishenkin)、バスがボリス・ベジコ(Boris Bezhko)。収録は1995年1月27日、28日、モスクワのモスフィルムスタジオでのセッション録音。レーベルはイギリスのSommというところ。

このアルバム、手に入れたのはだいぶ前ですが、未聴盤箱に長らく入っていたもの。最近ロシアもののハイドンの魅力を再認識してようやくレビューに取りあげた次第。

指揮者のアントニオ・デ・アルメイダは1928年パリ近郊のヌイイ=シュル=セーヌ生まれの指揮者、音楽学者。1997年に亡くなっているとのことです。ポルトガルとアメリカの血をひくそう。幼い頃ピアノを学び音楽の才能が開花。その後ベニー・グッドマンやアーティー・ショーなど有名なクラリネット奏者の録音を聴いてクラリネットを独学で学んだということで音楽に対する興味を深めたようですね。家族とともにアルゼンチンのブエノスアイレスに渡った後はヒナステラに師事。その後ボストンのMITで核化学を学びながら学生オーケストラを率いるうちに、科学よりも音楽への興味が強くなり、ピアニストのルービンシュタインの説得によりMITからイエール大学にうつり、ヒンデミットについて音楽理論を学び学位を得ました。その後、クーセヴィツキー、バーンスタイン、セルなどに指揮を学んだとのこと。最初の指揮者のポストはトーマス・ビーチャムの招きでポルトガル北部のポルトのポルト交響楽団の客演指揮者となり、その後リスボンのポルトガルラジオのオケ、シュトゥットガルトフィルハーモニー、パリ国立オペラ、ヒューストン交響楽団、ニースフィルハーモニー管弦楽団などを経て1993年にモスクワ交響楽団の音楽監督になりました。この録音は就任2年後で、亡くなる2年前の録音ということになります。録音はオペラが多いようですので、オペラを得意としていたのでしょうか。私ははじめて聴く人。

ロシアのオケとラテンの血を引く指揮者のハイドンの出来は如何なるものでしょう。

Hob.XX:2 / "Die sieben letzten Worte unseres Erlösers am Kreuze " 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1796)

序章
冒頭から柔らかい弦楽器の合奏がしっとり艶やかに響きます。まるで滔々とした大河の流れのような演奏。テンポは遅めでかなりゆったり、そこそこ溜めもありフレージングもゆったりながら変化に富んでます。深い呼吸で1フレーズごとに噛み締めるような演奏。起伏もしっかりとあります。録音は教会のような空間を感じる響きではないですが、適度な響きと少し遠めに定位するオーケストラが曲にぴったり。鮮明に聴こえるような録音ではありませんが、良く聴くと非常に自然で歪み感もなくとてもいい録音。曲のあり方をきちんと踏まえた名録音でしょう。これはかなりいい演奏です。

第1ソナタ 「父よ!彼らの罪を赦したまえ」
抑えたコーラスによる感想を経て第1ソナタへ。序章で決定的にデリケートなニュアンスを定着させて、第1ソナタに入ります。冒頭から分厚いコーラスの迫力が十分。かなり豊かな残響。曲によって演奏が変化を見せるような気がしない素晴らしい安定感と構築感。エフセーエワのソプラノは小柳ルミ子ばりの艶やかさ。微塵の文句もつけようがない朗々とした演奏。ゆったりとしたテンポ故の鈍重さもなく、非常に落ち着いた心境になります。

第2ソナタ 「おまえは今日、私と共に楽園にいる」
スタジオに響きわたるコーラス、ソロ主体の構成。一部の楽器が右チャネルからソロで伴奏。フォーレのレクイエムを聴いているようなゆったりとした曲調に酔いしれます。コーラスの厚みと純度が見事。デュナーミクのコントロールが見事。場内にゆったりと響き渡る轟音と抑えたメロディーの対比が曲の劇性を強調。圧倒的な響きに打たれつづけます。アルメイダの術中に完全にハマってます。極限の集中力。これがセッション録音というのが信じられないような素晴らしいエネルギー感。

第3ソナタ 「女性よ、これがあなたの息子です」
ソプラノとメゾソプラノの素晴らしい存在感。メゾソプラノのマルーナは低音域の響きの美しい声なので、ソプラノと声のコントラストがくっきりついて素晴らしいアンサンブル。ここでもゆったりした弦楽器の演奏は大河のようなスケールの大きい響き。ソロがそれぞれヴィブラートのかかった美しい響きの声を轟かせたアンサンブル。声楽陣はみな知らない人ですが、歌はそれぞれ素晴らしい出来。一流どころと全く遜色ありません。オケも完全にアルメイダのコントロールに完璧に応えています。やはりこのアルバムの聴き所はコーラスでしょう。これだけの純度と起伏を見事に表現しているのは並大抵のトレーニングではないものと思わせます。合唱指揮はスタニスラフ・グーゼフ(Stanislav Gusev)という人。

第4ソナタ 「わが神よ!何故私を見捨てたのですか?」
冒頭から抜群の気迫。襲い来るコーラスの響きの大波。強奏のあとに訪れる静けさの見事な演出。今度は抑えた部分の演奏がマーラーの「大地の歌」の告別のような孤高の響きを聴かせます。ハイドンの時代の曲の演奏という感じではなく、もう少し下った時代の気概を感じます。

序曲
オラトリオ版のみに挿入された序曲。管楽器を主体とした艶やかな小曲。静かなひととき。

第5ソナタ 「渇く!」
好きな曲。ピチカートの伴奏に乗った木管の美しい響きからはじまる曲。すぐに劇的な曲想に入り、じっくりと険しい表情を描いていきます。相変わらずダイナミクスの変化は大きく、朗々としたメロディとそれを引き立たせるようなつぶやくようなつなぎの部分。これだけじっくりしたテンポの中でこれだけの起伏の表現はただならないもの。曲の真髄に触れる素晴らしい表現。

第6ソナタ 「果たされた!」
心に光が射すような素晴らしい曲。一貫したほどよい劇性としっとりした音響で描いていきます。再びソプラノの見せ場。名曲の連続に圧倒されっぱなし。穏やかな表現意欲にもとづく、しっかりとした起伏。終盤の癒しに満ちたメロディーをエフセーエワが透き通るような絶品の声で歌うだけでこの曲のメロディーの美しさが心に刺さります。

第7ソナタ 「父よ!あなたの手に私の霊を委ねます」
最後のソナタ。慈悲に満ちたメロディーがオケによって奏でられ、ソロとコーラスが重なり、慈しみに溢れた展開に。低音弦の腹に響く低音と天上に昇らんばかりの透き通る高音のコーラス。

終章 地震
思ったより劇性は強くなく。最後までしっとりとしたオーケストラの響き。ことさらダイナミクスを追求せず、激しい曲調を余裕を持って弾き進めていくような演奏。最後の一音に気合いがすべて込められたような印象的な終結でした。

フランス生まれでポルトガルをオリジンとするアントニオ・デ・アルメイダがコントロールするロシアのオケが奏でるハイドンの傑作オラトリオ。確信に満ちたアルメイダの指揮。ゆったりとまるで曲自体のエネルギーが少しずつ噴出されるような演奏。アルメイダの視点はこのオラトリオをまさに宗教行事を静かに、しかも劇的に盛り上げる曲としてとらえ、一貫した姿勢で制御しています。オラトリオ版のこの曲では一押しの演奏。評価は[+++++]とします。ただゆったりした演奏とは全く異なる素晴らしい制御。絶品です。

最近久しぶりにブログのアクセス解析でリンク元を見てみると意外なサイトからのアクセスが増えていました。チェスの愛好家の方のサイトで当ブログのことがとりあげられていました。チェスの話題が多いですが、ハイドンもお好きなようで、鋭い視点で当ブログの記事についてもコメントされています。今後ともよろしくお願いします。

Chess Chronicon:戎棋夷説
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tag : 十字架上のキリストの最後の七つの言葉 ハイドン入門者向け

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戎棋夷説の者です

戎棋夷説の者です。こちらのブログでは、ヴァントの76番とか、ヌリア・リアルとか、ヴァイルのミサ曲とか、他にもたくさんのハイドンを教えていただきました。ハイドンを語ってくださる方は少ないので、いつも楽しみにしております。

Re: 戎棋夷説の者です

maro_chroniconさん、コメントありがとうございます。
少々マンネリ気味ではありますが、継続することにも少々意義ありと割り切ってつづけております。不思議と飽きることがないのは、やはりハイドンの音楽の素晴らしさと再認識しております。こちらはチェスのことはからきし駄目ですが、たまに寄らせていただきます。今後ともよろしくお願いいたします。
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Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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