作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

キャサリーン・ボット/メルヴィン・タンの歌曲集

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今日は最近手に入れた歌曲のアルバム。

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HMV ONLINEicon / amazon

キャサリーン・ボット(Catherine Bott)のソプラノによるハイドンの歌曲をまとめたアルバム。伴奏はメルヴィン・タン(Melvyn Tan)のフォルテピアノ、ヴァイオリンがアリソン・バリー(Alison Bury)、チェロがアンソニー・プリース(Anthony Pleeth)、フルートがリザ・ベズノシウク(Lisa Beznosiuk)、ハープがフランシス・ケリー(Frances Kelly)。収録曲目はスコットランド歌曲集から7曲、英語によるカンツォネッタ集から3曲、天地創造の第一部のガブリエルのレチタティーヴォとアリア、そしてナクソスのアリアンナと名曲ぞろい。収録年、場所の記載がないのですが、Pマークは1985年なのでその前の録音でしょう。レーベルは先日フー・ツォンの素晴らしいピアノソナタの録音で存在感を示した英Meridian。

このアルバムは最近手に入れたものでが、気になったのは上のジャケット写真の右上の25という数字。よく見るとMeridianレーベルの25周年を記念して再発されたうちの何枚かの1枚。レーベルのアニヴァーサリーを記念して再発されるということは、マイナーで廃盤となりながらも再発、しかも記念碑的な価値を持つ演奏であるとの読み。

実は手に入れてちょい聴きしたときにはあまり印象に残らなかったんですが、この週末に所有盤リストに登録すべくライナーノーツなどを眺めながら聴き直してみたところ、これが素晴らしい演奏でした。やはりきちんとした演奏には音楽に向き合って真剣に聴かなくてはなりませんね。ご存知のようにこのブログを書き始めてから歌曲の魅力にハマり、ハイドンの歌曲は結構集めてます。人の声の魅力の素晴らしさを再認識。

このアルバムは今まで聴いてきた歌曲の聴き方に対する認識を改めさせるような演奏でした。詳しくは各曲のレビューで。

キャサリーン・ボットは1952年イギリス生まれの古楽と現代音楽もこなすソプラノ歌手。古楽のレコーディングも多くイギリスでは有名な人のよう。BBCのラジオ3でEarly Music Showという番組を持っているようですね。聴くとキリッと良く通るイギリスらしい美しい声。彼女自身のサイトへのリンクを張っておきましょう。超シンプルなサイト。

Catherine Bott(英文)

メルヴィン・タンは先日アンネ・ゾフィー・フォン・オッターの歌曲の伴奏者としてレビューで紹介したばかり。シンガポール生まれのフォルテピアノ奏者です。彼のサイトも張っておきましょう。

Melvyn Tan - 2011(英文)



さて、肝心の演奏。

最初の7曲はスコットランド歌曲集から。全曲歌かと思いきや、歌なしの曲もあり、意外と歌のない曲も素晴らしい演奏なんですね。

Hob.XXXIa:10 - JHW XXXII/1 No.10 / "The ploughman" (Robert Burns)
最初はタンのフォルテピアノとガット弦のヴァイオリンの伴奏に乗ったボットの歌。録音の良さを売りにしているMeridianレーベルらしく鮮明な録音。近くに鮮明に定位するソプラノとヴァイオリン。比較的デッドな音場なのでゆったり感があんまり感じられないんですが、ヴォリュームを上げて聴くと素晴らしい迫力。ボットの歌はイギリスならではの発声で歌曲の上手い歌い方というより、まさに民謡のような素朴なもの。高音の伸びと芯のある美声が特徴。

Hob.XXXIa:59 - JHW XXXII/1 No.59 / "The bonny brucket lassie" 「すてきな彼女、とてもやさしく」 (James Tytler)
2曲目を聴いてビックリ。歌はなくフルートとハープによる絶妙に美しい曲。地元の人がイギリスというかスコットランドへの郷愁を感じるのかはわかりませんが、我々日本人にはスコットランドへの憧れを感じる素晴らしいメロディー。2分少しの間に心はスコットランドにトリップ。何という素朴な美しさ。

Hob.XXXIa:73 - JHW XXXII/1 No.73 / "Logie of Buchan"
前曲で郷愁スイッチがオン。続く曲はヴァイオリン、チェロ、フルート、ハープば伴奏に加わり、ボットの良く通る声で歌われる素朴なスコットランド民謡。Meridianがこのアルバムを創立25周年に再発した理由が何となくわかりました。イギリス人はこれを聴いてどう思うのか聞いてみたいですね。

Hob.XXXIa:77 - JHW XXXII/1 No.77 / "My heart's in the Highlands" (Robert Burns)
再び器楽のみ。ヴァイオリンとチェロとタンのフォルテピアノによるスコットランド民謡の素朴なメロディー。2曲目と同様その素朴な美しさに心を奪われます。技術をベースとした音楽だけではない音楽の素晴らしさ。

Hob.XXXIa:44 - JHW XXXII/1 No.44 / "Sleepy bodie"
普通の編成にもどり、ヴァイオリン、チェロ、フォルテピアノの伴奏による歌曲。ボットの歌は先日聴いたアンネ・ゾフィー・フォン・オッターの素晴らしい歌唱も良かったんですが、ボットの歌唱こそスコットランド民謡の本流のように感じるようになってきました。なんでしょうか、この素晴らしい説得力。スコットランドの魂が曲になったようです。

Hob.XXXIa:48 - JHW XXXII/1 No.48 / "O can you sew cushions" 「クッションを作れるか」
冒頭のフルートの音色から痺れます。ハープが加わり彩りが増し、ボットと弦楽陣も加わって聞き覚えのある曲を、語るように歌い上げていきます。冒頭のスコットランド歌曲集から深い深いじわりと心に響く感動。

Hob.XXXIa:22 - JHW XXXII/1 No.22 / "The white cockade" (Robert Burns)
スコットランド歌曲集からの最後はヴァイオリンとチェロによってバグパイプの音色を模したような不思議な曲。まさに本場の響きでしょう。この曲がオーストリアの片田舎から来たハイドンの編曲によるものというだけで驚き。素晴らしい7曲でした。

つづいては英語によるカンツォネッタ集から3曲。

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
聴き慣れた人魚の歌。既に耳はボットの素朴な歌とメルヴィン・タンのグランドマナーとは対極にある古めの音色のフォルテピアノによる軽い響きに十分に慣れています。歌の技術、録音、フォルテピアノの音色への視点がインターナショナルなものではなく、イギリスの民謡であることを今更ながらに思い知る演奏。素晴らしい素朴さ。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
前曲同様、スコットランド民謡とは異なり、少々フォーマルな歌曲ではありますが、にじみ出る郷愁。タンの伴奏は変化の幅はそこそこながら自在にテンポを動かして、非常にパーソナルな雰囲気で伴奏に徹します。曲の最後の装飾音はボットが遊びを効かせて。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
テンポの速い曲。ボットもタンも表現の幅が極まってます。迫真のライヴを聴くような素晴らしい盛り上がり。歌曲の真髄にせまるような迫力。このアルバムの聴かせどころでもあります。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
天地創造の第一部のハイライト。ガブリエルのアリアとその前のレチタティーヴォの1フレーズ。こちらは原曲の壮大な構造の中で癒しを感じられる曲ゆえ、オペラティックな歌唱が刷り込まれているので、聴き始めは違和感を感じましたが、このアルバムの中で聴くと不思議と、違う座標のなかに浮かび上がるこの曲の魅力が見えてくるような気がします。ボットの透き通るようなヴィブラートのほとんどかからない声を堪能。フォルテピアノ伴奏で自宅でガブリエルのアリアを楽しめる感じ。

Hob.XXVIb:2 / Cantata "Arianna a Naxos" 「ナクソスのアリアンナ」[E flat] (c.1789)
最後は歌曲の大曲、ナクソスのアリアンナ。メルヴィン・タンの伴奏は最高。歌は先日のオッターとは全く異なる歌唱ながら、こちらも素晴らしい歌唱。歌手としての格はまったくちがいますが、例えて言うと「木綿のハンカチーフ」は太田裕美でなくちゃというくらいの説得力。美空ひばりが歌うと流石に絶品の上手さというのがオッターでしょう。なんだかめちゃくちゃな例えになっちゃいました。実はあんまりいいアルバムなので、先程からシングルモルトを少々。今日は先日ハイボール用に買ったスペイサイドのThe Glenlivet 12年。ちょっと効いてきましたね(笑)



ふとしたきっかけで手に入れたこのアルバム。素晴らしい出来です。歌曲が好きな人には絶対のおすすめ盤。ただし上に書いたように一聴するとさっぱりしたさりげない演奏に聞こえるかもしれません。歌曲をいろいろ聴いた違いのわかる方にすすめたいですね。評価は全曲[+++++]としました。この評価は視点がスコットランド民謡としてという明確な視点からのもの。演奏の質、歌の技術などの点からはまた異なる評価があるとは思いますが、心に響くという点では最近聴いたなかでもピカイチです。いいアルバムと出会いました。
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