作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

サー・デイヴィッド・ウィルコックス/ロンドン交響楽団のネルソンミサ

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8月最後のレビューは8月に多く取りあげたミサ曲です。

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HMV ONLINEicon / amazon

サー・デイヴィッド・ウィルコックス(Sir David Wilcocks)指揮のロンドン交響楽団、ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団の演奏でハイドンのネルソンミサ他を収めたアルバム。ソロはソプラノがシルヴィア・スタールマン(Sylvia Stahlman)、コントラルトがヘレン・ワッツ(Helen Watts)、テノールがウィルフレッド・ブラウン(Wilfred Brown)、バリトンがトム・クラウセ(Tom Krause)、オルガンはサイモン・プレストン(Simon Preston)。収録は1962年、ケンブリッジのキングス・カレッジ教会でのセッション録音。

このアルバム、ロンドンレーベルによるハイドンのミサ曲を7枚のアルバムをまとめたボックスセットに収められていて昔から所有しているものでしたが、先日誤ってダブって買ってしまったもの。写真は最近手に入れたDECCA Legendsシリーズの国内盤。これを先週末からの温泉旅行に持っていってカーステレオで聴いたところ、あまりに素晴らしい生気溢れる演奏だったので、あらためてレビューに取りあげたくなった次第。今月は多くのミサ曲を聴きましたがこのアルバムも素晴らしい出来です。

いつものようにこのアルバムのライナーノーツをもとに演奏者を軽く紹介しておきましょう。

まずはケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団。創設は何と15世紀、ヘンリー6世の統治時代で、ヘンリー8世時代に確立したとのこと。ケンブリッジ大学のキングス・カレッジの礼拝堂での宗教行事の音楽を演奏することを日課としている合唱団。少年16人と大学生14人の合わせて30名の編成。鍛え抜かれた美しいハーモニーが特色で、イギリスが誇る世界最高の教会合唱団と紹介されています。

指揮者のデイヴィッド・ウィルコックスは1919年生まれの合唱指揮の大家でオルガニスト、作曲家でもあります。イギリス王立音楽院とキングス・カレッジで学び、1957年から1973年までキングス・カレッジ合唱団の音楽監督を務めました。このアルバムの録音時は音楽監督の地位にあったということですね。1965年には来日てブリテンの「戦争レクイエム」を振っているそうですので、年配のファンの方の中には生を聴かれた方がいらっしゃるかもしれませんね。

ということで、このアルバムを先日取りあげたベルナール・ラルマン/ジャン=フランソワ・ゴンザレス管弦楽団の演奏と同様合唱を聴くべきアルバムということでしょう。

Hob.XXII:11 / Missa in angustiis "Nelson Mass" 「不安な時代のミサ(ネルソンミサ)」 [d] (1798)
1962年と時代なりの音響ですが、冒頭のキリエからオケは気合いの乗った非常に生きのいい響き。コーラスはそういわれればわかる少年合唱の透明な響きが乗ってこれも素晴らしい厚み。リズムをきっちりと溜めて刻んでいくので立体感抜群な響き。特にヴァイオリンパートのくっきりとキレのいいフレージングが見事。テンポは中庸ですが非常にくっきりと隈取りされたフレーズが見事な演奏。純粋な祈りというより表現の限りを尽くした祈りという感じ。
グローリアに入ってもオケとコーラスが畳み掛けるような見事なエネルギーの放出。中間部のソロはソプラノのスタールマンとバリトンのトム・クラウセが素晴らしい歌唱。特にクラウセのバリトンは輝きのある安定感抜群の歌唱で圧倒的な存在感。終盤の寄せては返す波のような部分の弾む感じは素晴らしい迫力。ミサ曲ではありますがこれほどまでに活き活きした演奏はもう出来ないと思わせる素晴らしいコントロール。ウィルコックスの絶妙の指揮。
クレドも弾む弾む、素晴らしい躍動感。ミサ曲の演奏としてこのような演奏がふさわしいのかどうかわかりませんが、ハイドンの素晴らしい音楽の表現としては一つの理想型であるのは論を俟たないところ。一音一音の強弱のコントロールが行き届いて音楽を豊かにしています。クレドの中間部は流麗なコーラスのメロディーに乗って非常に印象的なフレーズを象徴的に目立たせて曲の神々しさを引き立てます。終盤はプレストンのオルガンが時折大きく鳴って響きに厚みを加えます。相変わらず素晴らしいヴァイオリンのキレ。曲がすすむにつれ恍惚感が頂点に。
サンクトゥスから最後のアニュス・デイまではコーラスのしなやかで荘重な響きが素晴らしい出来。このところネルソンミサを取りあげる機会が多いので聴き慣れたフレーズが続きます。録音にあたってハイドンの楽譜を良く研究したのでしょう、すべてのフレーズが有機的につながり、素晴らしい音楽を作り上げています。平板な印象を与える演奏も少なくない中、この演奏は素晴らしい解釈。今に至るまでアルバムがリリースされ続けている理由がよくわかります。

1962年と私の生まれた年の録音。録音も古いながらも豊かな残響で聴きやすいもの。オケもコーラスも素晴らしい出来、ソロも素晴らしい出来、欠点のない素晴らしい演奏でした。評価はもちろん[+++++]とします。古楽器の演奏の良さもわかりますが、この気合い漲る演奏のエネルギーは認めざるを得ません。今更ながら脱帽です。
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