アンヌ・ガスティネルのチェロ協奏曲集

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アンヌ・ガスティネル(Anne Gastinel)のチェロ、ユーリ・バシュメット(Yuri Bashmet)指揮のモスクワ・ソロイスツの演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲1番、2番の2曲を収めたアルバム。収録は1998年5月、南仏の高級リゾート地モナコの多目的ホールでのセッション録音。レーベルはフランスのAUVIDIS VALOIS。
連日ですが、アンヌ・ガスティネルもはじめて聴く人。チェロのアルバムが何枚もリリースされているので、そこそこ知られた人でしょう。1971年生まれで4歳でチェロをはじめ、10歳でソロコンサートを開き、15歳でリヨン音楽院で1等を獲るなど早くから才能が開花。パリ音楽院に在籍中オランダのスケヴェニンゲン国際コンクールで優勝し、国際的な活躍をするようになります。その後ヨー・ヨー・マ、ヤーノシュ・シュタルケル、ポール・トルトゥリエなどに師事。楽器はパブロ・カザルスが60年間弾いたマテオ・ゴフリッターという楽器を遺族から貸与されているとのことで、経歴は華々しいものです。
一方、ユーリ・バシュメットはクレメールと組んで演奏するなど、ヴィオラ奏者としては何度か聴いたことのある人。最近は指揮もするようです。Wikipediaなどによれば、1953年ロシアの最東部ロストフ・ナ・ドヌ生まれで1971年モスクワ音楽院に入りヴィオラを学ぶ。1976年ミュンヘン国際音楽コンクールで優勝。以後クレーメル、リヒテル、ロストロポーヴィチなどの著名な演奏家と共演するようになり、ソロでも活動するように。日本にはたびたび来ているようですのでおなじみの人も多いでしょう。このアルバムのオケであるモスクワ・ソロイスツを自ら設立して指揮をする他、ロンドン交響楽団やイスラエルフィルにもしばしば客演しているようです。
はじめて聴くガスティネルとバシュメットのコントロールするモスクワ・ソロイスツの響きはどのようなものでしょう。
Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
いきなりかなりデッドなオケの響き。最近の録音にしては珍しいくらいデッドです。刺々しいところはないんですが、とっと潤いに欠けるのが惜しいところ。ただ音像は存在感もある太目のものでかなり前に定位。ステージ上でオケを聴くような趣。オケの演奏は中庸なテンポでオーソドックスな流れ。ガスティネルのチェロはオケのすぐ前で、オケと寄り添うようにソロを演奏。ソロにスポットライトを当てるような録音ではありません。ガスティネルのチェロもきわめてオーソドックスな演奏。経歴を聞くとかなりのものゆえどのような演奏をするのか身構えてしまいましたが、意外にオーソドックスで安心しました。ゴフリッターの音色は歴史を経て燻された木部が楽器全体に均等に響きをつたえるよう、音域ごとに音色が異なるのではなく、全音域に木質系の響きが乗っていい音色。デッドな録音ゆえダイレクトにソロのチェロの美しい音色が際立ちます。カデンツァはガスティネルオリジナル。名器の美しい音色を存分に楽しめる中音域主体の独創的なもの。オケのコントロールはこれまで聴いたアルバムと比べるとちょっと平板な印象も。バシュメットのコントロールはキレを感じさせるまではいきません。録音の影響もあるかもしれませんね。
2楽章のアダージョはガスティネルのチェロの美しい音色を存分に楽しめます。少し練るようになり穏やかな中にも起伏豊かかなフレージングでハイドンの美しい旋律を浮かび上がらせていきます。やはりゴフリッターは名器ですね。
フィナーレはこれまで平板だったオケが突如弾みリズムと推進力、そして張りのある伴奏に変化。ガスティネルのチェロも触発されて力感が増し、程よいテンションでの掛け合いの妙を楽しめます。明らかにスイッチが入って徐々に白熱した展開。非常にデッドな音響ながら最後は素晴らしい盛り上がり。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
音響に変化なく、やはりデッドな響き。デッドな収録故オケの音程の微妙な揺らぎもわかってしまいます。お化粧のあらがハイヴィジョンの映像では見えてしまうような感じ。演奏は1番と変わらずオーソドックスな演奏に聴こえます。同じような演奏でも曲想が豊かになっている分2番の方が聴き応えがあります。腰の据わった中音域の響きは流石。1楽章の終盤の抑えた表情はなかなかのもの。カデンツァはやはりガスティネルのオリジナルで間を生かした非常に凝った長いもの。途中にバリトンのようにピチカート音を織り交ぜて雰囲気を盛り上げ、一気にフィニッシュ。
アダージョはやはりゴフリッターの美音炸裂。静寂のなかにチェロの孤高の美音が響き渡ります。カデンツァに至ってはチェロの響きだけで峻厳な空間になります。
フィナーレは1番とは異なりあっさりとしたはじまりで淡々とした流れ。曲の構成によって結構演奏スタイルを変えてくる印象ですね。最後の盛り上がりもほどほどに終わります。
いや、惜しいですね。これで普通の録音であればもう少し楽しめるのですが、響きがデッドな分、音楽ではなく音を聴かされているような印象が強く、ゆったり音楽に浸ることができません。ガスティネルのチェロは予想よりオーソドックス。名器ゴフリッターの音色は流石にいい音でチェロの音自体は絶品です。一方バシュメットのコントロールするオケはちょっと緻密さに欠け、こちらも録音のせいか素直に楽しめません。評価は両曲ともに[+++]とします。
録音には寛容な方ですが、デッド系はやはり苦手。装置によっては粗が目立たない場合もあると思いますが、うちではちょっとマイナスに働いてしまいました。普通の録音でガスティネルの美音を聴き直してみたいですね。
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