ジョルジュ・アタナシデのオルガン協奏曲

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ジョルジュ・アタナシデ(Georges Athanasiadès)のオルガン、ジン・ワン(Jin Wang)指揮のユーラシア・シンフォニエッタの演奏で、ハイドンのオルガン協奏曲2曲(Hob.XVIII:1、Hob.XVIII:2)とプーランクのオルガン、弦楽とティンパニのための協奏曲の3曲を収めたアルバム。収録は2009年2月24日~26日、フランクフルト東方約100kmのヴュルツブルクのヴュルツブルク大学、新教会のユリウス・マキシミリアンホールでのセッション録音。レーベルはスイス、チューリッヒのTUDOR。
ジョルジュ・アタナシデは1929年にフランス語圏スイスで生まれたオルガニスト。ギリシャ系でピアニストで合唱指揮者の父の影響で音楽を学ぶように。ハイデルベルク、フライブルク、ブライスガウの大学で独文学と音楽学を学んだ後、古典と神学を納め、ローザンヌ音楽院でオルガニストの腕を磨いたとのこと。世界各地の音楽祭にも招かれ、日本にも来ているようですので、ご存知の方も多いかもしれません。もちろん私はオルガンやその音楽自体に詳しい訳ではありませんのではじめて聴く人。いつものように奏者のサイトのリンクを張っておきましょう。
Georges Athanasiades - organiste
このアルバムは最近HMV ONLINEから届いたもの。古風なジャケットゆえ最近の録音ではないと思って注文したら、最新の録音だったと言う流れ。ハイドンの初期の協奏曲はオルガンもしくはチェンバロで弾くことを想定したものですが、個人的にはオルガンで弾いた方が合っている印象をもっています。このアルバムに収録された曲も、オルガンでの演奏の方がしっくり来ます。
Hob.XVIII:1 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [C] (1756)
遅いテンポで始まるオルガン協奏曲。オケだけ聴くと、ちょっと時代がかったノリの演奏。メリハリはほどほどながら、じっくり落ち着いたテンポで序奏をすすめます。録音も最新のものにしては比較的地味な録音。決して悪い録音ではありません。弦楽器の主体のオケの響き。オルガンもじっくりとした演奏。古楽器の演奏風のキビキビした感じはなく、むしろ堂々とした演奏。オルガンの響きは鋭い高音と重厚な和音、図太い低音とオルガンマニアの方を満足させるなかなかの響き。聴いているうちに小細工がないぶんだんだん楽しめる演奏に聴こえてくるのが不思議なところ。テンポはほとんど揺らさず、デュナーミクの変化も大人しいもの。ただ単調に聴こえるわけでもなく、味のある金太郎飴のような不思議な演奏。ただただオルガンの音色を楽しめといっているよう。1楽章はじっくりあっさりした印象で終わります。
2楽章のラルゴは突如弦楽器のメロディーラインが雄弁になり、ここぞとばかりに自己主張。オルガンも自在さがすこし垣間見えて、ハイドンの美しいメロディーがゆったりと宇宙の幽玄さのように響き渡ります。この楽章は踏み込んだ表現。オケの弦楽器の切々とした響きもなかなか。オルガンはキリッとした演奏ではありませんが、不思議に味わい深く、中音の細かく上下するメロディーを刻んでいきます。中盤以降不思議な幸福感のある響きが加わり多彩な表情を加えます。
3楽章はキレが出てきてオケも瑞々しさを増します。オルガンは相変わらずゆったり目のテンポで独立独歩。オルガンの美しい音色が際立つ泰然とした演奏。くっきりしたオルガンとゆったりしたオケの音色のコントラストが聴き所でしょう。ハイドンのフィナーレとしては長めの楽章。
Hob.XVIII:2 / Concerto per il clavicembalo(l'organo) [D] (before 1767)
曲想は前曲より変化がついて面白くなっていますが、演奏は依然おおらかなもの。最近の演奏では非常に珍しいスタイル。よく考えると今この弾き方はかなり珍しいと思います。オケもかなりおおらか、オルガンもおおらか。そうゆう意味ではかなり筋金入りの確信犯的なおおらかさなんでしょうか。途中オルガンの音色が透明感を増し、自然なオケとの掛け合いをじっくり聴かせて飽きさせないのは流石なところ。どんどんカオスのように響きが溶け合って引き込まれていきます。演奏のキレではなく曲自体の魅力で聴かせるまさに不思議な演奏。
前曲同様弦楽器の表情が雄弁に。フレーズごとの極端な強弱の変化を見せ、突然表現が深くなります。オルガンのメロディーは恍惚とした表情を加えて、徐々にトランス状態のような不思議な感覚に。この2楽章での深い表現はこの演奏の一番の聴き所。後半のオルガンの音程がぐっと下がるところはオルガンの音色の妙を楽しめる素晴らしい音楽。よく聴くとオルガンの音色を相当意識した曲づくりであることがわかります。ふと気づくハイドンの才能。最後の抑えた終わりは奏者のデリカシーを確認できたよう。
3楽章は前曲同様ゆったりした演奏。コープマン盤では速めのテンポでの恍惚の極致のような表情が印象的でしたが、このアルバムの演奏はあくまでゆったり感のなかでのオルガンとオケの響き溶け合いを楽しむような落ち着いた演奏。じっくり楽しめます。聴き慣れるとなかなか味わい深い演奏。アタナシデのじっくりした音楽の真髄がわかった気がします。
久しぶりのオルガン協奏曲集。評価は2曲とも[++++]とします。最近の演奏にはめずらしい、おおらかかつゆったりとしたオルガンの音色を存分に楽しめる演奏。流行と無縁の演奏。一見おとなしく没個性に聴こえる演奏ですが、よく考えるとかなり一貫した音楽観に裏付けられた頑固一徹な演奏と聴きました。そういう意味では大変個性的な演奏と聴くことも出来ます。この演奏も聴き手の器を試すようなところがありますね。
様々な演奏を聴くたびにハイドンの曲の新たな魅力を知ることになります。これも音楽の楽しみの一つですね。
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