ヘルムート・コッホの天地創造新盤

ライムンドさんの記事を読んで旧盤を注文中ですが、待っている間に新盤を聴いておこうという趣向。

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ヘルムート・コッホ(Helmut Koch)指揮のベルリン放送交響楽団、ベルリン放送合唱団の演奏でハイドンのオラトリオ「天地創造」。ソロはソプラノがレギーナ・ヴェルナー(Regina Werner)、テノールがペーター・シュライアー(Peter Schreier)、バスがテオ・アダム(Theo Adam)と超豪華な布陣。収録は1974年1月、2月、SRKベルリンのホール1でのセッション録音。

このアルバムは歌手が素晴らしいのがポイント。ソプラノのレギーナ・ヴェルナーは1950年生まれのドイツのソプラノ。ライプツィヒで学び、1972年国際バッハコンクールで優勝し、以来東欧やソビエトなどでコンサート活動を重ねた歌手。バッハからショスタコーヴィチまで広いレパートリーを誇り、また歌曲も得意としたよう。このアルバム以外にちゃんと聴いた記憶がありませんが、本格派のソプラノ歌手。

ペーター・シュライアーとテオ・アダムは紹介する必要はないでしょう。肝心なのはコッホでしょう。1908年生まれのドイツの指揮者、フリッツ・レーマンとヘルマン・シェルヘンに指揮を学んだそう。若い頃はベルリン・シューベルト合唱団を指揮したり、音響エンジニアやディレクターとして放送局や様々なレコード会社で働いた経歴を持ってます。東独で活躍し、オーケストラや合唱団の指揮者として評判になります。戦後、ベルリン室内管弦楽団を創設し初代音楽監督に。ベルリン放送合唱団やベルリン歌唱アカデミーの指揮を担当し、また1960年からベルリン州立オペラの客演指揮者に。1975年にベルリンで亡くなっています。ということは、この天地創造は亡くなる前年の録音ということになります。

Hob.XXI:2 / "Die Schöpfung" 「天地創造」 (1796-1798)
冒頭からオケは瑞々しい響き。旧東独系らしい地味ながら迫力たっぷりの存在。中庸なテンポで立体感溢れる造形は流石。正統派の引き締まったオケの聴かせるタイトは響き。出だしの一声はラファエルのアダムの鋼のような張りのある声。コーラスは柔らかく厚みのある声。ウリエルのシュライアーも若々しい力漲る声。コッホのコントロールは中庸なテンポで立体感重視のわかりやすいフレージング。フレーズごとにテンポを上げたりゆったりしたり細かいコントロールが行き渡り、結果的に緊張感溢れる展開になってます。ゆったりした印象ながら実体はタイトな展開という演奏。
3曲目のレチタティーヴォだけでもテオ・アダムの鋼のような声の魅力が十分伝わります。このラファエルは異次元のテンション。ラファエルの締まり具合がこの演奏のポイント。
4曲目でレギーナ・ヴェルナー登場。こちらも良く通る声。美しさと芯の強さをもつ声。これはいつものガブリエルのアリアが楽しみ。
6曲目のラファエルのアリアはオテロのアリアを聴くような素晴らしい声の張りと圧倒的な声量。オケのコントロールは個性的と言えるほどの変化は見せないんですが、十分有機的なメリハリを聴かせ、伴奏としては抜群のサポート。
8曲目の前半のハイライト、ガブリエルのアリア。コケティッシュな雰囲気もあり、良く通る声が心に刺さる名唱。コッホのテンポ良いサポートが曲の一体感を維持しているようですね。天地創造は遅めよりはキビキビ進める方が曲の構造がよく見えて安心できます。
10曲目から13曲までの第一部のクライマックス。最初は鮮烈な合唱のキレから始まります。第10曲の開始のキレはこれまで聴いたことのないような鮮明さ。コッホの実はダイナミックなコントロールは見事の一言。11曲のウリエルのレチタティーヴォ、シュライアーならではの鮮明な語り。12曲の霧の中からの光の出現のような一節から振り切れんばかりの大音響にうつりシュライアーの語るような歌が続きます。歌詞も歌も鮮明。
そして13曲のカオスのような盛り上がりへ。抑えたフレーズの美しさと大爆発の切り替えが繰り替えされ、神の領域に浸食。素晴らしい盛り上がり。鮮明なフレージングでクライマックスへ。なんでしょう、このわかりやすいフレージング。コッホのコントロールの妙と言えるでしょう。実際のダイナミックレンジが広い訳ではないんですが、素晴らしいキレとメリハリで昇天寸前。素晴らしい第一部。

そして、さらに緊張感が高まる第二部。このアルバムの聴き所はなんと第二部。非常に鮮明なフレージング。第二部がすすむにつれ第一部は挨拶代わりだったことがわかります。第一部ではセッション録音とわかる曲の切れ目のごく微妙なチューニングのズレなどがちょっと気になりましたが、第二部は一体感溢れる演奏。
アリアの響宴のような素晴らしい時間です。第18曲の三重唱はこの世のものとは思えない美しさ。ソロの3人の張りのある声だけでまたもや昇天。19曲はCD1のクライマックス。まさに響きのカオスへ。コーラスとオケの響きの渦にソロの掛け合いが溶け込んで、もはや大きな波に。素晴らしい盛り上がり。

CDを変えて第二部のつづき。やはりコッホのわかりやすいフレージングが特色でしょうか。22曲は神々しいラファエルのアリア。コントラファゴットの号砲は控えめ。ここはじっくりしたフレージングで攻めます。そして24曲のウリエルのアリアはじっくりしたまま溜めを効かせて奇跡的な時間。ゆったり語られるウリエルのアリアが素晴らしい感動を呼びます。途中のチェロへ渡されたメロディーラインは止まりそうな遅さへ。ここまでテンポを落とすとは予想外。確信犯的コントロール。26曲はコーラスの海。そして27曲の美しい三重唱を経て第二部最後のアレルヤコーラス。この第二部は素晴らしい出来。恍惚。

そして最後の第三部。30曲のアダムとエヴァのデュエットは第二部に比べると普通の演奏。あの立体感溢れる演奏から流れるような自然な演奏へ変化。相変わらす存在感抜群なのはテオ・アダムのアダム。鋼のような声は健在。第二部と比べると録音の鮮明さもちょっと落ちて穏やかに。メリハリの起伏も少し穏やかになって来ます。第三部は自然さと枯れた表情が特徴。32曲のアダムとエヴァのデュエットもいっそう自然な表情に。そして34曲に至って合唱の大波が帰ってきました。たっぷり溜めて最後の大芝居。フーガのような荘重なメロディーを繰り返し曲を振り返り、最後の感動の場面に。最後の三重唱の感動。第三部の自然なながれはすべてこのフィナーレの盛り上がりのための演出だったよう。

久しぶりに聴いたコッホの天地創造。いやいやノックアウト。平日聴くには大物過ぎますが、一気に聴ききってしまいました。以前より評価を上げて[+++++]としました。このアルバムの世評が高いことがよくわかりました。第一部だけを聴いた印象とは異なる、素晴らしい第二部。そして第三部の巧みなフィナーレへの誘導。流石です。

ライムンドさん、旧盤が届くまでに昇天です。さて、旧盤の出来は如何に! 楽しみすぎます(笑)
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 天地創造 ハイドン入門者向け

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No title

Daisyさん、おはようございます。記事を読んでいるとやっぱり新盤の方が素晴らしいと思えてきました。手元に新録音は無く、日本のキングからハイパーなんとかというリマスターで出ている分を見つけたら買うつもりです。天地創造は何となく関心が1部に集中してしまいますが、後続もあるわけで、その点は再録音の方が完成度が高いかも、と思えます。

Re: No title

ライムンドさん、コメントありがとうございます。
ライムンドさんの旧盤情報がなければこのアルバムを取り出してレビューしようとは思いませんでした。何かきっかけがあってはじめて興味を持つわけです。ライムンドさんが良いと言われると、やはり気になります。音楽の感じ方は人それぞれゆえ、結果はともかく、そうした情報は貴重なわけですね。
私もブログで評価などしていますが、他の人からみて妥当なものかどうかは、かなり怪しいと思ってます(笑)
まあ、一人の素人の感想ですので気楽にやってます。
コッホの新盤は気に入りました。写真をみるとかなり田舎者のおじさんですが、紡ぎ出される音楽の素晴らしさは圧倒的。おそらく旧盤もいい演奏でなければ再発されないはずとの読みもあります。
果たしてどんな演奏か、期待は膨らむばかりですね。あれこれ想像するのも音楽の楽しみのひとつですね。
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Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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