作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ユーリ・エゴロフのピアノソナタXVI:20ライヴ!

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今日はピアノソナタ。先週末ディスクユニオンで掘り出したものです。

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ユーリ・エゴロフ(Youri Egorov)のピアノによるハイドンのピアノソナタHob.XVI:20、スカルラッティのソナタ6曲、ベートーヴェンのアンダンテ・ファヴォーリの演奏2種を収めたアルバム。音源はオランダのVARA放送協会からのもので、ハイドンのソナタは1981年2月19日、アムステルダム・コンセルトヘボウ大ホールでのライヴ。レーベルはCANAL GRANDEとありますがプラケースに貼られたシールによるとCHANNEL CLASSICSのプロダクションのようです。

ユーリ・エゴロフはロシア、モスクワの東約600Kmの街カザン(Qazan)生まれのピアニスト。Wikipediaの情報をまとめると、1954年に生まれ1988年に亡くなっています。ロン=ティボー国際コンクール、チャイコフスキー国際コンクール、ベルギーのエリザベート王妃国際音楽コンクールなどで次々と入賞。1976年ローマで演奏旅行中に西側に亡命した。1978年ニューヨーク・デビュー、それから3日後にシカゴ・デビュー、そして12月にはカーネギー・ホールにデビューし、その演奏はライヴ収録された。自らゲイを公表したことでも有名なようで、亡くなったのは33歳の若さで、エイズによる合併症とのこと。

私はこのアルバムに出会うまで知らないピアニストでしたが、調べるとグールド同様天才肌のピアニストですね。それは演奏を聴いても明らか。並の演奏ではありません。

Hob.XVI:20 / Piano Sonata No.33 [c] (1771)
最初に拍手が入る私の好きなライヴの入り。会場の雰囲気をそのまま伝えるように、長い拍手と演奏が始まるまでの長い間がそのまま収められています。ホールのざわめきが緊張感を高めます。XVI:20はハイドンのピアノソナタの中でも1、2を争う好きな曲。静まり返ったコンセルトヘボウにエゴロフの軽やかなピアノの音が響き渡ります。強弱のメリハリが鮮明で、いい演奏に共通するように抑えた部分の表現が絶妙。録音は鮮明さはほどほどですが、ホールに響き渡るピアノの音と会場ノイズがまるでコンセルトヘボウで生で聴いているような素晴らしい効果。フレーズの切れ目の速度を落とした部分だけでも夜空の星のきらめきのごとき輝き。速いパッセージの指の切れは凄まじいもの。ピアノを完全に掌握。速度と強弱を完全にコントロールして素晴らしい表現。ピアノによるハイドンのソナタの演奏の極限的な美しさを見るよう。
2楽章はアンダンテ・コン・モート。この曲はエマニュエル・アックスの演奏が好きな演奏の一つなんですが、エゴロフのこの演奏も素晴らしいもの。快晴の山頂の夜の星空のようなきらめき感と微風のような穏やかさがじわりと伝わる至福の一時。
フィナーレはリズムのキレと音階の素晴らしいエネルギーに圧倒されます。リズムはこれ以上ないほど弾み、指がすばらしいスピードで音階を奏でます。これだけのキレ具合にはなかなか出会えません。ハイドンのソナタのフィナーレの理想的な演奏。グールドの速い部分のキレも素晴らしいですが、エゴロフのほうが表情豊か。最後は会場が暖かい拍手に包まれます。

このあと収められた6曲のスカルラッティのソナタも抜群の出来。祈りにもにた静謐な時間。ハイドンとは全く異なるスタイルでの演奏。収録曲は33番、23番、478番、116番、483番、423番の6曲。このスカルラッティも気に入りました。そして最後のベートーヴェンは1982年と亡くなる前年の1987年の2種の演奏。こちらもさりげない情感の迸る素晴らしい演奏。いやいや、これは掘り出し物です。

若くして亡くなった天才ピアニスト、ユーリ・エゴロフのハイドン、抜群の出来でした。もちろん評価は[+++++]とします。今月はあたりのアルバムが多くてうれしい忙しさ。残念なのは本盤は廃盤であろうこと。上記のamazonのリンク先も中古盤で結構な値がついてます。このような名演奏を廃盤のままにしておいてはなりません。人類の大損失でしょう。昨日につづき「ハイドン入門者向け」タグもつけます。
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4 Comments

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yoshimi

エゴロフは素晴らしく素敵なピアニストです

こんにちは。エゴロフのCDはほとんど持ってますが、CANAL GRANDEのシリーズは廃盤なので、このCDとプロコフィエフの入ったCDの2枚は持ってません。稀少なCDを入手されて良かったですね!
ディスクユニオンでクラシックの中古CDをよく買っている人を知ってますが、ちょっと驚くような掘り出し物があるので、東京へ行く機会があったらお店へも行きたくなってきました。

リンク先のCDは4枚組のBOXセットですね。これは珍しいセットで、見かけたことがほとんどありません。海外サイトでは、単品の中古CDがわりとマシなお値段で出ています。
CHANNEL CLASSICSはマイナーレーベルなので、再販することはないでしょうが、別のレーベルでライセンス盤を出して欲しいものです。

CANAL GRANDEのシリーズは、ライブ独特の臨場感と自然な音質で聴きやすいように思います。
エゴロフのハイドン録音は他に全く録音がなく、この1曲だけです。この若さにしては、レパートリーは広い人で、演奏の完成度は高いと思います。もし病気で早世しなければ、優れた録音をたくさん残したでしょう。

Youtubeで、このCDに収録されているスカルラッティとベートーヴェンの音源があって、それは聴いたことがありますが、スカルラッティもエゴロフ独特の純粋さを感じます。
エゴロフは和声感覚がとても優れた人なので、音の重ね方やその響きに独特の美しさがあるように思います。
バッハのパルティータも、ペダルを多用して全体的にレガートな流れで弾いていますから、ノンレガート・ノーペダルで弾くグールドとは全く違ってます。
それに、ライブ特有の生気のある、飾り気のないピュアな音楽づくりが彼の良さですね。
私はベートーヴェンの「皇帝」の冒頭ピアノソロを聴いただけで驚き、それからBOXセットやライブ録音を集めました。
「皇帝」の他に、バッハのパルティータやシューベルトのソナタが好きな曲ですが、彼のベスト録音はシューマンのようです。(シューマンは私にはよくわからない作曲家なので何ともいえませんが)

Daisy

Re: エゴロフは素晴らしく素敵なピアニストです

yoshimiさん、コメントありがとうございます。
エゴロフのことは、今回のアルバムを手に入れるまでちゃんと聴いたことがありませんでした。もちろん、他のアルバムも持ってません。CDプレイヤーにかけるとすぐにその殺気に気づくほどキレた演奏ですね。yoshimiさんがお気に入りな人なのも頷けます。エゴロフのパルティータ、非常に興味があります。まだ出先なので調べてはいませんが、探してみようと思います。脳内で想像するだけで、アドレナリン噴出ですね。さぞかしすごい演奏かと思います。

エゴロフのハイドンの録音がこの1曲のみで、しかもXVI:20というのも凄いことですね。数あるハイドンのソナタからこの曲を選ぶとは。そしてこの出来。若くしてエイズで亡くなるとはフレディ・マーキュリーを思い起こさせます。天才ゆえの運命でしょうか。

ディスクユニオンは特段掘り出し物が多いのではなく、在庫量と回転がいいのでいろんなアルバムが多いということでしょう。私のように永年ハイドンばかり集めていると、たいていのお店ではほとんど見たことがあるアルバムになっちゃいますが、ディスクユニオンでは今まで見たこともないアルバムにもたまに出くわします。今回のエゴロフもたまたまですが、たまにはホームランもあるわけですね(笑)

  • 2011/07/20 (Wed) 21:32
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yoshimi

エゴロフのパルティータ

こんばんは。
エゴロフのバッハ/パルティータ第6番の音源はこちらにあります。
トッカータだけですが、この曲が一番良いと思います。
バッハ奏法としては、現代ピアノの機能を生かした弾き方ですから、好みが分かれますが、和声の響きの美しさ(オルガンかハープで弾くコラールのような)と濁りのない純粋さを感じさせるところは、いわゆるバッハ弾きとはまた違った新鮮さがあります。
http://www.youtube.com/watch?v=zP6nZzLre3s

確かに、XVI:20を選ぶというのは、よほど自信がないと無理かもしれませんね。
ソ連時代はレパートリーも当局から制限されていたので、亡命後は好きな曲を弾きこんでいったのでしょう。
そう言われてみると、彼の録音はなかなか凄い選曲です。ベートーヴェンのコンチェルトは「皇帝」、バッハはパルティータの最後の第6番、プロコフィエフのソナタなら第8番。
シューベルトのピアノ・ソナタ第19番も終始緊迫感が途切れることなく、まるでベートーヴェンみたいです。

エイズが原因で亡くなったピアニストといえば、ポール・ジェイコブス(53歳。最近知った人で、今はまってます)、チェンバリストはスコット・ロス(38歳)がいますね。2人とも、ある種の天才肌の演奏家です。
まだ他にもいるのでしょうけれど、病名を公にしていない場合も多いと思います。

Daisy

Re: エゴロフのパルティータ

yoshimiさん、またまたコメントありがとうございます。
どうもyoutubeを検索するくせがなく、簡単にみつけられるものが探せてないですね。早速聴いてみましたが、やはりエゴロフはいいですね。好みです。音楽が溢れてくるような演奏ですね。

ポール・ジェイコブス、まだ聴いたことがありません。これは要チェックですね。

  • 2011/07/21 (Thu) 07:57
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