作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

マリー=エリザベート・へッカー/クレメラータ・バルティカのチェロ協奏曲1番

0
0
今日2組目のアルバム。

Hecker.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

マリー=エリザベート・へッカー(Marie-Elisabeth Hecker)のチェロ、クレメラータ・バルティカ(Kremerata Baltica)によるハイドンのチェロ協奏曲1番、チャイコフスキーの奇想的小品Op.62、アザラシヴィリのチェロと室内管弦楽のための協奏曲、ヒナステラのパブロ・カザルスの主題による注解Op.46、チック・コリアの「ラ・フィエスタ」などを収めたアルバム。アルバム自体の構成を考えるとこの選曲でハイドンのチェロ協奏曲が入っていることが異色なのかもしれません。収録は2007年3月、フランクフルト近郊のクロンベルク市庁舎でのセッション録音です。

このアルバムのタイトルは「チェロ・フィエスタ」。収録曲の最後を飾るチック・コリアの「ラ・フィエスタ」にからめたものでしょう。クレメラータ・バルティカの名前でもわかるとおり、このアンサンブルはヴァイオリンの鬼才、ギドン・クレメールが創設した楽団。このアルバムにクレメールの名前はありませんが、ライナーノーツの冒頭にクレメール自身の「私がチェロ・フィエスタ・プロジェクトに力を入れている訳」という記事を見てもわかるとおり、クレメールがプロデュースしたものと理解していいでしょう。

クレメールの記事はこのアルバムのコンセプトを表したもの。要約すると次のとおり。

「私がチェロ・フィエスタ・プロジェクトに力を入れている訳」
その理由の第一はこのアルバムでチェロを弾く二人の若手チェリスト、ハイドンを弾いているマリー=エリザベート・へッカーとその他の曲でソロをつとめるギオルギ・ハラーゼ(Giorgi Kharadze)の次世代を担うべき類いまれな才能の存在。第二はチェロという楽器のレパートリーが何世紀にも渡る演奏スタイルの歴史を反映させてきたということを表現したかったこと。これはまさにチェロのフィエスタ(パーティー)で、チェロが楽器として人々の人生を豊かにしてきたことに他ならない。第三に2007年のこのアルバムの録音はクレメラータ・バルティカの創立10周年を記念したものであることで、10年の経験はこのアンサンブルに特別な個性を醸成させたとのこと。

クレメールのハイドンには「十字架上のキリストの七つの最後の言葉」の演奏がありますが、おそらくクレメラータ・バルティカの録音にハイドンはないでしょう。クレメールはバルト三国の一つ旧ソ連のラトビアの首都、リガの出身。1947年生まれですので今年64歳になることになります。クレメラータ・バルティカの本拠地もリガにあり、エストニア、ラトビア、リトアニア出身者をあつめた室内オーケストラ。いつも通り、クレメラータ・バルティカのウェブサイトへのリンクを張っておきましょう。先日はラトヴィアのオケを取りあげたばかりですので、バルト三国づいています。

Kremerata Bartica Chamber Orchestra

クレメールがやっているだけあってレパートリーはリリースされているアルバムからもわかるとおり、モーツァルトから現代ものまで幅広いもの。このアルバムのハイドンのコンチェルトでクレメラータ・バルティカのレパートリーの古典期の曲の演奏の相性が明らかになりますね。

ついでに、チェロのマリー=エリザベート・ヘッカーのウェブサイトのリンクを張っておきましょう。ただし、こちらはご覧いただくとわかるとおり本人のサイトではありません。美人チェリスト故ファンの方が作っているサイトでしょうか(笑)

MARIE-ELISABETH HECKER - CELLIST(Unofficial Website)

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
ハ長調の晴朗な序奏の演奏、クレメラータ・バルティカの演奏は鮮烈な響き。竹を割ったようにエッジが立って、各弦楽器が非常に高いテクニックをもっているよう。クレメールの音楽にも似たクリアで引き締まった表情が素晴らしいですね。チェロのヘッカーもクレメールの秘蔵っ子らしく、素晴らしいテクニックと音楽性。やはりクレメールの演奏と似て、音色は非常に美しいものの険しさとその向こうに陽性の響きも聴こえるのが素晴らしいところ。欠点とまではいかないですが、リズムがわずかながら重く感じられる部分もなくはないんですが、タイトでクリアな演奏がすこし迫力の表現に振れた方向性と理解できなくもないです。
2楽章のアダージョは、かなり遅めで、ゆったりと言うよりは、引き締まった遅さと言えるような表現。オケもチェロも抜群のキレはかわらずで、現代音楽のような存在感すら感じさせる表現。チェロも音量を極端に抑える部分などを生かして素晴らしいメリハリ。表現にカミソリのような切れ味があり、流石クレメール一門と唸らざるを得ません。この楽章はこの曲の演奏としては個性的なものですが、その表現と説得力は素晴らしいものがあります。ハイドンのチェロ協奏曲のアダージョに潜む美しさと闇の対比を見事にあぶりだしています。
フィナーレはカミソリで手を切りそうなほど鮮烈な弦楽器の演奏ではじまります。ソロもオケもクレメールの薫陶を受けているだけに音楽の方向性が合っておりいます。基調となる弦楽器の刻むリズムがきちんと立っていて、メロディがくっきりと浮かび上がる素晴らしいもの。推進力、生気、キレがありしかも個性的なフィナーレ。抜群の出来です。

この演奏、ハイドンの時代の演奏とも、ハイドン的な演奏でも、古典的な演奏でもなく、むしろ現代的な演奏の範疇ですが、ソロもオケも抜群のテクニックでしかも個性的な演奏。こういった演奏があるのでコレクションをやめられない訳です。最近聴いたチェロ協奏曲の演奏では以前取りあげたアレクサンダー・ルーディンのものと同様、図抜けた名演。これはおすすめです。評価はもちろん[+++++]。すべてのハイドンを愛好する方にすすめたいアルバム。従って「ハイドン入門者向け」タグもつけます。

このアルバム、ヒナステラやチックコリアの曲も実にいいんですね。クレメールの企画意図も冴えた素晴らしいアルバム故、ハイドン以外の曲もおすすめです。
関連記事

0 Comments

There are no comments yet.