作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】アンヌ・カンビエの歌曲集

0
0
先日銀座山野楽器で手に入れた歌曲のアルバム。

Cambier.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

アンヌ・カンビエ(Anne Cambier)のソプラノ、ヤン・フェルミューレン(Jan Vermeulen)のフォルテピアノによるハイドンの歌曲16曲とフォルテピアノのための変奏曲(Hob.XVII:5)、アダージョ(Hob.XVII:9)を収めたアルバム。収録は2009年5月17日~20日、ベルギーのブリュッセル東方の街、シント・トルイデンのアカデミーホールでのセッション録音。レーベルはベルギーのACCENT。最新のリリースです。

ソプラノのアンヌ・カンビエはベルギーのソプラノ歌手。ライナーノーツによれば、ベルギーとロンドンで学び、おもに古楽器オケとの共演が多いようです。AAMやラ・プティット・バンドなどに加え、今年は以前取りあげたギィ・ヴァン・ワース/レザグレマンとのツアーが予定されてるようです。以前は小沢征爾の指揮でヤナーチェクのイヌフェーエワでカロルカを歌うなどオペラでも活躍していた人。

Anne Cambier(英文)

フォルテピアノのフェルミューレンもベルギーの人。レパートリーはオールラウンドのようですが、古典派、ロマン派の作品をフォルテピアノで弾く活動をするなど、フォルテピアノにこだわりがあるようですね。室内楽アンサンブルにも数多く参加し、現在はベルギーのリューベンでピアノとフォルテピアノの教鞭をとっているとのこと。カンビエとはよくコンビを組んでいるようです。

今日はお休みなので、じっくり取りあげましょう。最初はドイツ語の歌曲が7曲続きます。

Hob.XXVIa:3 / 12 Lieder No.3 "Der erste Kuß" 「はじめての接吻」 [E flat] (1781)
歌曲のアルバムを最初に聴くときは、歌手の声に全神経が集中します。カンビエは中域のふくらみのある響きと高音への抜けが美しい声。艶っぽい声というよりは生成りの美しさのような自然さが持ち味。穏やかなメロディーと高音の美しい声を披露するアルバムの出だしにふさわしい曲。フォルテピアノは間をしっかりとったこちらも自然な演奏。2人ともハイドンの歌曲をじっくり自然に演奏することに集中しているようで、好きなタイプの演奏。流石ACCCENTの新譜、音楽が溢れてきます。

Hob.XXVIa:8 / 12 Lieder No.8 "An Thyrsis" 「テュルジスに」 [D] (1781)
一転してテンポの速い曲。なんでもない普通の演奏なんですが自然な佇まいがとてもよい演奏。テンポ感が良いのが自然さにつながっています。

Hob.XXVIa:45 / "Un tetto umil" 「掘立小屋」 ("Ein kleines Haus") [E] (1800)
ハイドン独特のほの暗い憂いを少しはらむシンプルな曲調の歌。この曲の聴き所は最後のカンビエの素晴らしい高音の伸びやかな歌。声量も素晴らしいので存在感十分。

Hob.XXVIa:11 / 12 Lieder No.11 "Liebeslied" 「恋の歌」 [D] (1781)
前半の聴かせどころ。この曲もシンプルな曲想、ちょっと憂いのあるメロディーとハイドンの歌曲の典型的なつくりですが、その曲ををたっぷり間をとってじっくり語りかけるように歌うことで、なんでもなにのにもの凄くしっとりした音楽になってます。

Hob.XXVIa:21 / 12 Lieder No.9 "Das Leben ist ein Traum" 「人生は夢だ」 [E flat] (1781)
優しい歌声により激しい感情の噴出。声の張りが強い訳ではないんですが、メリハリは十分に感じさせ、しかも破綻するようようなところはなく、自然な声を生かした表現の中で十分な感情の表現ですね。

Hob.XXVIa:39 / "Trachten will ich nicht auf Erden" 「この世で何も得ようとは思わない」 [E] (1790)
前前曲と同様落ち着いた曲調。コンサートのプログラムのように良く考えられた曲順。次から次へと曲が変化し、歌曲の楽しみを十分堪能できます。録音には触れませんでしがが、残響の多めの館の部屋で録られたような音響。音像は近くも遠くもなく、中央に自然に定位。フォルテピアノの木質系の雅な音色の美しさが際立つ自然な音響。癖のないいい録音です。流石ACCENTといったころでしょう。

Hob.XXVIa:17 / 12 Lieder No.5 "Geistliches Lied" 「宗教歌」 [g] (1781)
前半の最後の曲は短調。ここまでで最も歌に力が漲ります。カンビエの中域の美しい声の響きがとても印象的な歌いぶり。

Hob.XVII:5 / Tema con 6 variazioni "Faciles et agreables" 「やさしく快適」 [C] (1790)
歌曲の間におかれた変奏曲。有名なHob.XVII:6の一つ前の変奏曲。伴奏のフェルミューレンが腕前を披露といったところでしょう。作曲年代にしてはシンプルな構成で、Hob.XVII:6ほどの感情の噴出はなく、約1分の変奏が6つ集まった曲。第5変奏で弱音器をつけたような音色に変える部分、どのようにするのかは解りませんが、なかなか面白い展開。演奏の腕は確かですがフォルテピアノ曲として演奏者の個性を表現するような場ではないので、あえてさっぱりと弾いているように感じます。

つづいて中盤の5曲。1794年から95年にかけて作曲された英語によるカンツォネッタ集から。前半の曲よりも表現の幅が明らかに広がった曲調。

Hob.XXVIa:30 / 6 Original Canzonettas 1 No.6 "Fidelity" 「誠実」 [f] (1794)
最初は短調の曲。前の曲より時代が下ったせいで伴奏の表現もぐっと充実。カンビエの歌は速いパッセージでも安定感があり、しっとりした感じを保って味わい深い歌唱。

Hob.XXVIa:33 / 6 Original Canzonettas 2 No.3 "Sympathy" 「共感」 [E] (1795)
徐々に美しいメロディーの曲が増えて、テンションが上がってきます。美しいメロディーと沈み込む情感、転調の妙、フェルミューレンのフォルテピアノも徐々に表現に力が入ってくるのがわかります。

Hob.XXVIa:25 / 6 Original Canzonettas 1 No.1 "The Mermaid's Song" 「人魚の歌」 [C] (1794)
聴き慣れたメロディーに。冒頭からハイドンの健康的な名旋律の美しさが際立ちます。カンビエの自然な歌唱が曲調にあって、さりげなく深い歌。

Hob.XXVIa:26 / 6 Original Canzonettas 1 No.2 "Recollection" 「回想」 [F] (1794)
好きな曲。伴奏から完璧なリラックス。人の声で歌われる旋律の美しさの極致のような美しいメロディー。うっとりしてとろけそう。歌曲を聴く悦びに溢れた名曲ですね。

Hob.XXVIa:29 / 6 Original Canzonettas 1 No.5 "Pleasing Pain" 「愛の苦しみ」 [G] (1794)
中盤最後の曲。速いテンポ、激しい曲調の曲をカンビエの自然な声で少し和らげて歌います。

Hob.XVII:9 / Adagio [F] (before 1792)
ほぼ同時代に作曲された、フォルテピアノのためのアダージョ。私はブレンデルの輝くような音色と、深い情感の演奏を好んでいますが、フェルミューレンのフォルテピアノによるあっさりした演奏も悪くありません。夕暮れの陽の最後の輝きのような美しさとちょっと悲しい余韻持った曲。

最後は英語によるカンツォネッタ集から4曲。まるでリサイタルを聴いているような気持ちになる、よく考えられた選曲と曲順。歌手が一曲だで下がって休んで、また出てきたような印象。ライヴアルバムで全く同じ選曲でも成り立ちますね。

Hob.XXVIa:35 / 6 Original Canzonettas 2 No.5 "Piercing eyes" 「見抜く目」 [G] (1795)
短い曲。最後の一連の曲の最初の声ならしのよう。

Hob.XXVIa:27 / 6 Original Canzonettas 1 No.3 "A Pastoral Song" 「牧歌」 [A] (1794)
好きな曲。ハイドンの歌曲の傑作のひとつ。ハイドンらしい素朴で美しいメロディーの宝庫。

Hob.XXVIa:34 / 6 Original Canzonettas 2 No.4 "She never told her love" 「彼女は決して愛を語らなかった」 [A sharp] (1795)
この曲も好きな曲。ぐっと来る曲調。フォルテピアノの伴奏も曲の深い影をよく表現。語りかけるようなカンビエの歌ですが、この曲は非常に深い情感を表現。絶品です。

Hob.XXVIa:31 / 6 Original Canzonettas 2 No.1 "Sailor's Song" 「船乗りの歌」 [A] (1795)
まるでオペラの大団円のように最後に明るい曲をもってきます。カンビエの豊かな声量が部屋に響き渡ります。最後は珍しく音を上げた装飾音を加えて盛り上げます。最上のリサイタルを聴き終わったような充実感に包まれますね。

カンビエは自然な声が魅力。艶はほどほどながら、自然に喋るような歌い方がハイドンの歌曲にぴったり。超絶技巧も、華々しい声色でもないんですが、素朴な声と確実な技術が素晴らしい歌手。気に入りました。フェルミューレンのフォルテピアノは曲の表情をやわらかく適度なめりはりをつけて弾く、こちらも自然さが印象に残る演奏。歌曲の伴奏としてはベストに近いもの。このアルバム、ハイドンの歌曲の等身大の演奏として、味わい深い名演。曲順もプロダクトとしての完成度も素晴らしいアルバムでした。評価は歌曲は[+++++]、フォルテピアノのための曲は[++++]としました。歌曲のアルバムのファーストチョイスとしてもおすすめですので「ハイドン入門者向け」タグも進呈です。ACCENTの素晴らしいプロデュース。絶品です。
関連記事

0 Comments

There are no comments yet.