ミケランジェリのピアノ協奏曲1959年ライヴ

7月最初のアルバムはミケランジェリのライヴです。

Michelangeli1959.jpg
HMV ONLINEicon / amazon

アルトゥーロ・ベネデッティ・ミケランジェリ(Aruro Bendetti Michelangeli)のピアノ、マリオ・ロッシ(MariRossi)指揮、トリノRAI交響楽団(Orchestra di Torrino della RAI)によるハイドンのピアノ協奏曲(Hob.XVIII:11)、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」を収めたアルバム。皇帝の方は指揮者がマッシモ・フレッチャでオケがローマRAI交響楽団。ハイドンの収録は1959年12月18日です。

Wikipediaによると、姓は正式にはベネディッティ・ミケランジェリとのことで、1920年生まれのイタリアのピアニスト。1939年のジュネーブ国際ピアノコンクールで優勝した際、審査員のアルフレット・コルトーから「リストの再来」と評されたとのこと。日本でも有名でしたので皆さんご存知でしょう。私はLPでDeutsche Grammophoneのドビュッシーのアルバムを何枚か聴きましたが、透徹した超スタティックなピアノの音色の美しさで聴かせる人という印象。クライバー同様キャンセルが多かったり、そもそも気まぐれで演奏会も少なかったことも手伝って、神格化された存在だったというところでしょう。亡くなったのが1995年、今日取り上げるアルバムの演奏時は39歳と全盛期の演奏でしょう。

このアルバムについては、以前yoshimiさんのブログでその存在を知ったものの、肝心のアルバムを入手したのはつい先日。その後入手しようとしていたのもののタイミングを逃しており、先日HMV ONLINEで在庫ありになっていたのに気づき他のものと一緒に注文。手に入れるのにずいぶんかかりました。yoshimiさんのブログのYoutubeでの音はちょうど良く色彩感豊かに聴こえたんですが、アルバムとして聴くと印象はまた少し異なりました。

気ままな生活:ハイドン/ピアノ協奏曲 (ミケランジェリ、ピノック、フー・ツォン、レーゼル)

Hob.XVIII:11 / Concerto per il clavicembalo(l'fortepiano) [D] (1784)
yoshimiさんのブログのYoutubeとおそらく同じ演奏。ただしYoutubeで聴いたときよりも音質の印象は良くありません。もともとチェトラのアルバムとtahraのリマスタリングの違いによるクォリティの差の可能性もありますが、いつもの我が家の装置で聴くと、やはり録音の古さは致し方のないところ。デッドなロケーションで録られ若干響きに潤いが欠け、オケの響きにも混濁感がありちょっと刺激的な成分も含みます。パソコンで聴くと適度な分解能で心地よく聴こえてしまうということでしょう。
オケは図太い音色でキビキビと推進力漲る序奏。ミケランジェリのピアノが登場するとダイナミックなオケと、ダイナミックながら峻厳な磨き込まれた美しさをもつピアノの掛け合いに。ピアノはかなり鮮明にアクセントをつけてクッキリとしたフレージング。録音は古いものの3Dテレビでコンサートを見るようなクッキリ感。完全にミケランジェリがイニシアチブをとって進めます。1楽章のカデンツァはハイドンの時代のものというイメージではなくめくるめく音階の上下による華麗なピアノの音色のショーケースのようなカデンツァ。
2楽章のウン・ポコ・アダージョ。若干速めなテンポのオケに乗って、ピアノは溜めなくさらりというか、ゴリッという音色感を残して淡々と弾き進めていきます。際立つ磨き込まれたピアノの音色の美しさ。特に高音域の輝きは流石ミケランジェリ。イタリア人のラテン的明るさと、孤高の険しさの高度な融合。意外にいいのがマリオ・ロッシのコントロールする弦楽器のデュナーミクの変化に富んだオケ。
フィナーレはこれまでの勢いに乗ったちょっと軽めの入り。途中から推進力十分なオケにのって、あっさりしながら輝きも失わないピアノがザクザクアクセントをつけて進めます。徐々にエネルギーを集中させながらフィニッシュに向かい、最後はじっくり溜めて終了。万来の拍手に迎えられます。

天才ミケランジェリの弾くハイドンのピアノ協奏曲は、ピアノの演奏自体、ミケランジェリにしか弾けない、輝きと威厳に満ちたものでした。マリオ・ロッシのコントロールするオケも素晴らしい出来。文句なしと言いたいところですが、アルバムとしてこの年代の録音としては、音質にやや難あり。音質にはあまり拘るつもりはないんですが、音楽を楽しむには少し難ありというところでしょう。評価はこの辺を考慮して[++++]としておきます。

ハイドンの曲の演奏のあり方という視点ではなく、ミケランジェリがどうハイドンの協奏曲を料理するかという意味で興味深い演奏でした。

明日は久しぶりにコンサートに出かけます。東京オペラシティへ、クイケンとラ・プティット・バンドのバッハです。それゆえ明日はコンサートレポートになる予定です。
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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : ピアノ協奏曲XVIII:11 ヒストリカル ライヴ録音

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DG以前のミケランジェリ

こんにちは。ミケランジェリの録音はDG・EMI盤に加えてライブ録音などいろいろ持ってますが、DG盤とEMI盤(後期のもの)とは相性が悪くて、好きなのは1960年代より以前のものです。

その頃だと”イタリア人のラテン的明るさと、孤高の険しさの高度な融合”と言われるとおり、伸びやかな開放感と研ぎ澄まされた緊張感があるように思います。
DG時代になると、”イタリア人のラテン的明るさ”の方がかなり稀薄になって、ストイックと言えば良いのでしょうか、”氷の巨匠”になってしまった感があります。
このあたりの演奏スタイルの変遷は、青柳いづみこさんの著書『ピアニストが見たピアニスト』で分析されてます。

たしか1960年前後に録音したグリーグの《ピアノ協奏曲》は隠れ名盤ですね。
リスト・オリジナルの《死の舞踏》も好きですし、《パガニーニ変奏曲》や《シャコンヌ》など、音は古いですが、メカニックの切れと凝縮力は他のピアニスト(キーシンを除いて)とは格段に違います。
音色が鮮明でなくても、それ以外の部分の冴えに素晴らしいものがあります。
このハイドンのピアノ協奏曲も、1970年代のEMI盤とは随分違って、切れ味鮮やかで躍動的な演奏なので、一体この間に何があったんだろうと不思議に思ったものです。

DG時代には、完璧主義者でなかなか録音のリリースを許可しなかったミケランジェリですが、パブリックドメイン化した音源や親族(たぶん奥さん)が許可したライブ録音が、こんなに次々と公開されるなどとは、思ってもみなかったかもしれません。

Re: DG以前のミケランジェリ

yoshimiさん、コメントありがとうございます。
いつもながら洞察力あふれるコメントですね。ミケランジェロもチェリビダッケも、歳とともに求める音がだんだん何か巨大な、そしてスタティックなものになっていくように感じます。まさに「氷の巨匠」だと思います。
ヒストリカルなアルバムの魅力は、遡ってそうした巨匠の全盛期のライヴを聴けることで、このミケランジェロも後年の演奏とはエネルギーが違いますね。

本人亡き後は芸術性に関するこだわりを遺族まで受け継げることはあんまりなく、遺族としては本人の音源が悪いものでなければより多く出回わり、多くの人に聴いてもらえることを望むケースが多いのではと想像しています。本人だけが解る最後のこだわりの一線。他の人に容易に解らない微妙なものなんじゃないでしょうか。そう言う意味では、演奏家が亡くなる時が秘蔵音源が世の中に出るタイミングでしょうね。

ハイドン以外にさして造詣が深くありませんが、ミケランジェリの全盛期の素晴らしいキレのアルバムも聴いてみたいものです。グリークの出だしの一撃はさぞかし素晴らしそうですね。フィヨルドの険しい崖ではなく、陽光に輝くイタリアの崖を想起させるのでしょうか(笑)

No title

勤務先の総会対応などの業務多忙により、しばらくROMのみで失礼しました。
ミケランジェリは、かのマイルス・デイビスがビル・エバンスの勧めで愛聴していた(ラヴェルのト長調とラフマニノフの第4番の協奏曲)というエピソードを思い出しました。ディスコグラフィーからはレパートリーが狭かったと錯覚しがちですが、多分弾こうと思った曲は何でも弾けてしまったゆえの悲劇とでも言えるのではないでしょうか。当方はDGの初期に録音したベートーヴェンの第4番のソナタを愛聴していますが、LPにしても収録時間とくにB面の短さときたら!DGとしては何かのカップリング曲をオファーしたのではと推測しますが、彼にとってはこの一曲で当初の目的は完結してしまい、時間埋めの録音をする気は起きなかったんでしょうねー!

Re: No title

だまてらさん、コメントありがとうございます。
マイルスがミケランジェリを聴いていたなんて言うエピソードがあったんですね。確かにラヴェルの協奏曲をミケランジェリが完璧に弾いたら凄まじい迫力があったことでしょう。私自身はミケランジェリの演奏は数えるほどしか聴いたことがなく、ミケランジェリの真髄を知っているわけではありません。ミケランジェリの演奏は古い時代のものの方が良いと言う情報もあるため、少しかじってみようかなと思っています。
追伸)
以前のコメントにはメールを返信しております!

ミケランジェリのグリーグ

ミケランジェリは、1990年前後にステージで心臓発作を起こして緊急手術してから、また芸風が変わりました。
テクニックの衰えが目立ちますが、演奏には情感豊かな伸びやかさを感じます。
心臓の持病をもっているため、ピアニストとして長くは弾き続けられないと予感したせいか、氷がすっかり溶けてしまったようです。

ミケランジェリのグリーグの1965年ライブ音源です。またお時間があるときにでもお聴きください。
http://www.youtube.com/watch?v=wagsOWph7MM

昔から知られていた1940年代の古い録音もありますが、BBCのライブ録音の方が音が良くて聴きやすいです。
第1&第3楽章はパワフルでシャープなタッチで、緊迫感と白熱感があって(特に第3楽章)、これは面白いです。
北欧の透明感のある雄大さというより、壮大華麗な人工建築物のようなイメージがしますが。

ついでながら、ミケランジェリが限られたレパートリーしか演奏会で弾かなかったのは、初見&暗譜が苦手だったことと、しばらく弾いていないと、すぐに曲が弾けなくなることが一番の理由でしょう。
伝記で弟子も言ってましたし、若い頃参加したコンクールでは、初見演奏課題曲が暗譜が出来ず、順位が上がりませんでした。
弟子に教えていた曲はたいてい弾けたようですが、公開の場で、暗譜で多数のレパートリーの曲を入れ替えて弾くというのは、暗譜&練習する時間がかかるので避けたのではないかと思います。
スタジオ録音するときは楽譜を見ても良いのですが、レパートリーが多いと練習する時間がかなりとられますから、数少ない曲を徹底的に練り上げていったのでしょう。

Re: ミケランジェリのグリーグ

yoshimiさん、コメントありがとうございます。
BBC Legendsシリーズにあったんですね。予想通り研ぎ澄まされた鮮烈な響き。ミケランジェリにデ・ブルゴスとラテン系の組み合わせなのに、素晴らしい険しさを感じる演奏ですね。
ミケランジェリほどの人でも初見で弾くのは難しいのですね。ピアニストでも広大なレパートリーをバリバリ弾く人とミケランジェリのように限られたレパートリーで勝負する人では音楽の種類と濃さが違うような気もします。なんとなくミケランジェリにはクライバーと似たものを感じてしまいますね。
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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