作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ガリー・クーパー/アリオン・バロック管の41番、受難、悲しみ

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今日は昨日銀座山野楽器で手にいれたアルバムからの1枚。歌曲をいろいろ手に入れたんですが、今日は交響曲から。

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HMV ONLINEicon / amazon

ガリー・クーパー(Gary Cooper)のチェンバロと指揮、アリオン・バロック管弦楽団(Arion Orchestre Baroque)の演奏するハイドンの交響曲41番、49番「受難」、44番「悲しみ」の3曲を収めたアルバム。収録は2008年11月24日~26日までカナダのケベック州の街ケベックのサントーギュスタン・ド・ミラベル教会でのセッション録音。レーベルは私の好きなマーキュリーが輸入するearly-music.comというカナダのレーベル。レーベルのウェブサイトがありますので、紹介しておきましょう。

early-music.com

このアルバムは、普段あまり見かけなかったので、その存在を知りませんでした。手に入れたのはいつも丁寧な解説や帯がついているマーキュリーから出ているアルバムということと、その帯に「スリリングに、鮮やかにーラテンの情感を能勢、端正に織り上げられるアンサンブル。作曲者の想い通りの編成で興趣のつきないかくれ傑作3編をたっぷりと!」と書かれたキャッチに乗って。マーキュリーの帯は信用しています。

ガリー・クーパーはChannel Classicsからフォルテピアノを弾いたハイドンの後期ソナタ集やレイチェル・ポッジャーと組んだモーツァルトのヴァイオリンソナタ集8巻がリリースされているのでご存知の方も多いでしょう。私は指揮者として活動しているのは知りませんでした。

オケのアリオン・バロック管弦楽団はモントリオールを本拠地とする古楽器オケ。1981年の設立。小編成での演奏にこだわっているようで、このアルバムの演奏も全部で17名での演奏。early-music.comレーベルには何枚かのアルバムの録音がありますが、マイナーな存在でしょう。日本ではほとんど知られていないオケですね。

最初にアルバムをCDプレイヤーにかけた瞬間、小編成のオケの鮮明な音色が鮮烈に飛び出してくるリアリティ抜群の音響。刺さるくらいに鮮明な演奏という印象を持ちました。

交響曲41番ハ長調(Hob.I:41)1770年以前作曲
ハ長調の晴朗な導入部から始まる曲。小編成の古楽器オケゆえ鮮明な響き。ただし録音が最近のものにしてはちょっと混濁感と歪みっぽさを感じる録音。残響はそこそこあるんですがもう少し自然な感じがするといいでしょう。刺激的な音響でメリハリもかなりしっかり着いて、ことさらアクセントを強めにつける演奏。トーマス・ファイのような前衛を感じさせるものではなく、強い表現意欲が迸っているよう。まさにマーキュリーの帯通り、「スリリングに、鮮やかに」というイメージぴったりの演奏。
2楽章はウン・ポーコ・アンダンテ。表現を極端に抑えるのではなく前楽章の鮮烈なメリハリの余韻を感じさせながら、静かに歩む楽章を表現。
3楽章のメヌエットはレガートを多用したキレより流麗さに重点をおいたようなコントロール。
そして終楽章は速いテンポに乗って素晴らしいキレと推進力。メリハリと流麗さの同居した演奏。このようなことを帯では「ラテンの情感」と表したのでしょう。たしかにドイツ圏の演奏とは基本的にトーンが異なり、楽天的な明るさが根底にあるようですね。これはフランス語圏、しかもヨーロッパからはなれたカナダのオケということが影響しているかもしれませんね。

交響曲49番「受難」へ短調(Hob.I:49)1768年以前作曲
つづいて名曲受難。特徴的な1楽章のアダージョ。クッキリした旋律で描くハイドン入魂のシュトルム・ウント・ドラング期の傑作交響曲。たしかにドイツ的と言うよりラテン的なほのかな明るさが漂うのが不思議なところ。前曲よりフレーズがシンプルゆえ演奏もくっきり。静寂感をうまく表現していて前曲よりも一段上の出来と感じられます。
2楽章はアレグロ・ディ・モルト。快速、軽快な入り。リズムをクッキリ浮かび上がらせながら入れ替わり立ち替わり楽器が登場してメロディーを奏でます。インテンポでしっかりデュナーミクの幅をとった生気漲る演奏。この楽章は素晴らしい緊張感。
3楽章のメヌエットは前曲同様流麗さが特徴。基本的に音楽が澱みなく滑らかに流れ、メヌエットの既成概念とは明らかに異なる趣を醸し出しています。
そして、この曲の最大の聴き所は畳み掛けるように幾重の波が襲うような終楽章。こうゆう動的な楽章を活き活きと演奏することににかけてはこのオケはすばらしい音響で応えます。これはライヴで聴いたら素晴らしいでしょう。

交響曲44番「悲しみ」ホ短調(Hob.I:44)1772年以前作曲
前2曲より明らかに残響の多い録音。このアルバムでもっとも力の入った演奏。冒頭から凄いエネルギー。これが17人のオケとは信じられない迫力。このところ悲しみの名演奏を聴く機会が多いんですが、この演奏もまた違った意味で名演奏。演奏の精度は明らかに落ちますが、不揃いの迫力というか、細かいところを気にしないというか荒削りな魅力があって悪くありません。ヴァイオリンも精度というかリズムの線が粗く、そこを聴くとそれほどでもないんですが、全体から迸るエネルギーは素晴らしいものがあります。古楽器で迫力といえばブリュッヘンと18世紀オーケストラですが、ブリュッヘンの演奏はやはりヨーロッパの伝統に根付いたもの。こちらはそこの箍がハマっていない分ラテン風でもありアメリカ風(カナダですが、、、)でもある演奏。すばらしい迫力の演奏ですがこの辺のテイストがこのアルバムの評価を左右しそうですね。
この曲は2楽章がメヌエット。この曲が一番普通のメヌエットっぽい演奏。それでも情感が強く歌が濃い感じ。
3楽章のアダージョ。ハイドンが自身の葬儀の際に演奏してほしいと語り、実際1809年の追悼行事の際に演奏され、「悲しみ」というニックネームがついたとされます。この演奏は徐々に明るい色彩感を感じさせる陽性の演奏。あとひと踏み込み影があってもいいのかもしれません。
そして、激情的なフィナーレ。すべての奏者が強弱をフルにつけて演奏しているような手に汗握るフィナーレ。低音弦楽器の素晴らしいエネルギー。この曲は多くの演奏のように陰影の美しさではなくダイナミックさで聴かせる演奏。1楽章と終楽章のエネルギー感が一番の聴き所でしょう。

ガリー・クーパーのハイドンの交響曲集。ライヴで聴いたら、あるいはライヴ盤だったとしたら素晴らしいエネルギー感に打たれる演奏でしょう。ただ、ハイドンの演奏ばかりを専門にレビューする当ブログの評価としては、それぞれ[++++]というところでしょう。演奏の生気は素晴らしいものの、ちょっとハイドンの曲の表現としてはやり過ぎというか、ハイドンのこの時期の交響曲の憂いに満ちた影の部分の深みを表現しきれていないという面もあります。音楽とは複雑なものですね。
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