作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ターニャ・テツラフのチェロ協奏曲集

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今日は久しぶりのチェロ協奏曲。

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HMV ONLINEicon / amazon

ターニャ・テツラフ(Tanja Tetzlaff)のチェロ、ボリス・ペレナード(Boris Perrenoud)指揮のウィーン室内管弦楽団の演奏によるハイドンのチェロ協奏曲1番、2番、ドメニコ・ガブリエリのリチェルカーレ5曲を収めたアルバム。ハイドンのチェロ協奏曲の収録は1994年2月4日から7日、ウィーンのスタジオ・バウムガルテンでのセッション録音。レーベルは日本のカメラータ。

ターニャ・テツラフは1973年ハンブルク生まれのドイツのチェリスト。ハンブルク音楽造形芸術大学、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院などで学び、ヨーロッパ各地のコンクールで優勝するなどしたとのこと。ジャケットに写る姿は若々しいですが、録音時は21歳ということで、ライナーノーツを見るとこれがデビュー盤のようです。いわゆるアイドル系というよりは純粋に新人発掘系の企画。ライナーノーツに書かれたプロデューサーの言葉からは、チェリストのアルバムはセールス的には非常に厳しいとの下り書かれていますが、ピアノなどと比べて奏者の人口もかなり限られることもあり、チェリストのアルバムはファン層が限られるんでしょうね。

実はこのアルバム、ディスクユニオンの中古盤のコーナーに同じアルバムが大量にあったもの。中古盤が大量に出回るということであまりいい予感がしなかったため長らく見過ごしてきました。ただ、本当は聴いてみなければわからないわけで、隠れた名盤との予感もしたため思い直して先日ようやく手に入れたもの。

ちょっと聴いてみたところ予感的中。かなりいい演奏です。当ブログでは純粋に演奏の質、アルバムの出来のいいものを堀り起こし皆さんに紹介するのを趣旨としていますので、セールスや人気などは無関係に淡々と紹介していきます。

Hob.VIIb:1 / Cello Concerto No.1 [C] (1765-7)
まずビックリするのがオーケストラの素晴らしく豊かな響き。ハイドンのハ長調コンチェルトの晴朗なメロディーの魅力が溢れます。指揮のペレナードとウィーン室内管弦楽団はかなりの腕前と見ました。録音も適度な残響と適度な解像感で万全。テツラフのチェロはまずは音色の美しさ。意外とさっぱりしたフレージングですがアクセントのキレと迫力はなかなか。女流のチェリストといえばデュ・プレですが、デュ・プレの流麗極まるチェロとは異なり端正さを感じるチェロ。オケの豊かさに比べるともう少し鳴いてもいいのではと思えますが、聴き進むうちにテツラフの端正な演奏の魅力に引き込まれていきます。弾き方としては古楽器に合うかもしれないようなテンポ感の心地よい弾き方。カデンツァも楽器を鳴らしきるというのではなく、しっかりコントロールして音色の変化を楽しむような演奏。1楽章はデビュー盤と思えない冷静さと余裕を感じる演奏。
2楽章はやはりオーケストラの響きの美しさが際立ちます。相変わらずチェロは没入しすぎるようなことはなく、あくまで冷静に、静かに歩みを進める感じ。ただ、静かな歩みの中に非常に豊かな詩情を秘めていて、フレーズの美しさはなかなかのもの。チェロの高音の鳴きの美しさも少しずつ顔を出し始めます。抑制された美しさから徐々にチェロの音色の魅力が増してきます。
3楽章、オケの伴奏は完璧です。美しい。端正ながら少しずつ芳香を放ち始めたテツラフのチェロの可憐な音色によるハイドンの終楽章は快感を感じるような素晴らしい推進力。爽やかな美しさ。感情移入の激しいチェロもいいんですが、テツラフのチェロは、冷静ながら美しいフレーズをそっと奏でていくようでバランスが良く、音楽的にも非常にこなれたもの。この終楽章も爽快な印象が非常に心地よい演奏でした。

Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
前曲より成熟を深めたハイドンのもう一つのチェロ協奏曲。テツラフの出来はどうでしょうか。
期待通り冒頭から豊かなオーケストラの響きと音楽。コンチェルトの伴奏としては完璧なオケのサポート。テツラフの表現も一歩踏み出した感じで、表現の幅が広がってきているように聴こえます。第2番特有のおだやかでしなやかなメロディーに乗ってテツラフは音色の変化、デュナーミクの変化を冷静にコントロールして演奏を楽しんでいるよう。チェロもオーケストラも極上の響きで曲の美しい表情を表現。ハイドンの美しいメロディーラインを堪能できます。郷愁や憂いをふくんだ晴朗な美しさ。純粋に音楽を聴く悦び。録音の向こうから聴こえる奏者の息づかい。いやいや素晴らしい音楽ですね。ここに至ってチェロのフレージングが徐々にすこしリズムからはずれるような表現が見られますが、人が弾いていると感じさせるぬくもりがあります。まるでライヴを聴いているような手に汗握るオケとチェロの掛け合い。緊迫のセッションだったでしょう。1番のときの落ちついたセッションとはかなり異なる緊張感ですね。カデンツァはチェロの孤高の叫びのような素晴らしいエネルギー。最後はオーケストラの暖かい響きに迎えられて1楽章を終えます。
第2番の2楽章は1楽章の緊張を癒すような、力の抜けたチェロの魅力が炸裂。チェロという楽器の美しい音色に宿る魂を味わうような素晴らしい演奏。名チェリストの個性的な演奏というのではなく、純粋に音楽として手の届く最上の美しさ。テツラフの純粋な音楽性が光ります。
フィナーレはこのアルバムの総決算のような美しさ。相変わらずオーケストラは安定して美しい響き。媚びないチェロの美しさが際立ちますね。最後はオケの素晴らしい響きの力感に圧倒されるように終了。

いやいや、素晴らしい演奏でした。やはり聴いてみなければわかりません。決して派手な演奏ではありませんが、特に2番の演奏はライヴのような手に汗握る緊張感が素晴らしい演奏。1番もハイドンのチェロ協奏曲の美しさを十分表現できています。作曲年代を意識した演奏の変化と読むと合点が行きます。両曲とも[+++++]とします。良いアルバムです。

ターニャ・テツラフはアルバムは少ないものの、ソロや室内楽のアルバムが何枚かあるようですので、機会があったら手に入れてみたいと思います。
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