エンリコ・マイナルディのチェロ協奏曲2番
今日は先日ディスクユニオンで仕入れた珍しいアルバムを。

HMV ONLINE
エンリコ・マイナルディ(Enrico Mainardi)のチェロ、フリッツ・レーマン(Fritz Lehmann)指揮のベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ハイドンのチェロ協奏曲2番(Hob.VIIb:2)とシューマンのチェロ協奏曲の2曲を収めたアルバム。収録はハイドンが1951年9月27日とのこと。このアルバムはDeutsche Grammophonの初期盤LP LPM18 222からCDに起こしたもの。いわゆる板起こし。レーベルはSPECTRUMというアメリカのレーベルですが、ジャケットは日本語というもの。HMV ONLINEにも登録されていることから日本市場向けのものでしょう。
ライナーノーツにはLPを再生し収録する機器が写真とともに紹介されています。ターンテーブルは往年の名機、マイクロの砲金製ターンテーブルSX-5500(エア・フローティング・システム)、カートリッジはオルトフォンのCG-25、アームは同じくオルトフォンのRMG309など名機が奢られています。他にマランツ7、FMアコースティクスのRIAAコントローラーにウェスタン・エレクトリックの618Bステップアップトランスなどを使って増幅。この信号をTASCAMのDV-RA 1000HDというDSDレコーダーで収録したもの。これだけの機器が書かれているということで音質に対する期待は高まります。
エンリコ・マイナルディは1897年、ミラノ生まれのイタリアのチェリスト。作曲と指揮もするようですが、どちらも演奏を聴いたことはなくチェリストとして記憶に残ってます。幼少の頃から同じくチェリストだった父親からチェロの手ほどきを受け、地元の音楽院で教育を受けました。またジュゼッペ・ヴェルディ音楽院で作曲を学びベルリン音楽院のフーゴー・ベッカーのもとで研鑽を積み、その後ベルリン国立歌劇場のチェロ奏者となる一方、エドウィン・フィッシャーとゲオルク・クーレンカンプと室内楽トリオを結成して有名に。1933にはフーゴー・ベッカーの後を継いでベルリン音楽院のチェロ科の教授となり、翌年には聖チェチーリア音楽院の教授に転出。当ブログでも演奏を取りあげたミクローシュ・ペレー二は教え子の一人とのこと。1976年にミュンヘンで亡くなりました。
特に古い録音ではマイナルディの名前は珍しくありませんが、チェロの演奏の個性を語れるほどの演奏数を聴いてもおらず、一般的にチェロの名手という以上の印象はあまりありません。このアルバムがチェロ協奏曲の代表的な演奏でもあります。
Hob.VIIb:2 / Cello Concerto No.2 [D] (1783)
モノラルながら安定感抜群の揺るぎない音質にビックリ。流石マイクロのターンテーブル、これがLP起こしの音とは想像だにできない素晴らしい安定感。完全なピラミッドバランスの図太い音色。スクラッチノイズも皆無でよほど状態のいいLPを理想的に再生したものと想像できます。冒頭から非常にソフトなオケの音色。回転ムラも歪みもまったくない状態。ゆったりと鳴るベルリンフィルの余裕のオーケストラの序奏。1951年録音というのが信じられません。マイナルディのチェロもゆったりとしたテンポで始まり、オケとの非常にゆったりしたやり取りが時代を表しています。チェロはオケに溶け込むような弾き方で自身が先導するというよりは音量的にちょっと目立つオケの一員というような位置づけ。高音部分の鳴きは音量と力を抑えて協調性を重視したもの。テンポはインテンポというような部分はなく、ちょっと遅れ気味でもあるところが微笑ましい演奏。鮮明で暖かな音色の演奏が音楽的な興奮ももたらす良い時代の演奏。13分あまりの第1楽章は充実の響き。カデンツァはあくまでもチェロの美音をゆったりと奏で、ゆったりと音楽を刻む古い時代の名人芸。チェロの高音から低音までフルに使った、慌てることのない余裕が見事な演奏。スピーディな演奏が美徳とされないという価値観を共有したくなるような余裕たっぷりな演奏に打たれます。瑞々しい音色が名演奏に華を添えます。
2楽章は1楽章を聴いているうちから想像できる典雅な展開。安定してゆったりなテンポ、落ち着きはらったフレージング、リラックスの極致のような弓さばき。現代とは価値観が全く違う異次元の演奏と言っていいでしょう。これはこれで素晴らしい演奏。最近の演奏と比べると言う視点自体を否定するような優雅さ。そう、優雅なんです。テクニックとも自己顕示欲とも無縁な優雅な演奏。図太い音色で演奏されるハイドンのチェロ協奏曲の優雅な響き。何という説得力。何という美しい響き。そして何という再生! 異次元の再生クォリティに鳥肌がたつほど。古い演奏をこれほどのクォリティで聴かされる快感。この時代の空気を胸一杯吸い込める素晴らしい演奏。
フィナーレもテンポの変化はなくただただ優雅さを存分に表現した演奏。火花は全く散らず、オケとソロの幸せなアンサンブルを眺めるような素晴らしい演奏。現代の演奏を聴き慣れた耳にはちょっと迫力的な物足りなさを感じるのは正直なところですが、おそらく耳が今という時代の束縛を受けているのでしょう、素直にこの時代の演奏を楽しむ気になると不思議に響きがしっくり来ます。まだまだ聴き手の器が小さいんでしょう。これは偉大な演奏だと思います。偉大さをストレートに伝える録音の素晴らしさがある名盤。
評価は[+++++]とします。古い演奏の復刻としては完璧な仕上がり。音質は素晴らしいの域を越えて完璧な仕上がり。マイナルディとその時代の空気まで我が家に持ち込まれる素晴らしいアルバム。この録音はまれに見る素晴らしさです。マイナルディの演奏の真髄が心に響く名演奏。時代を超えた魅力が存分に味わえます。ヒストリカルものが苦手な方にも是非聴いていただきたい仕上がり。絶品です。
番外記事にうつつを抜かしておりましたので、しばらくはストイックにレビューを続けたいと思いますので皆様よろしくお願い致します。
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