作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ヤコブ・リンドベルイのリュートによる室内楽

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今日は珍しいアルバムを。

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HMV ONLINEicon / amazon

ヤコブ・リンドベルイ(Jacob Lindberg)のリュート、ドロットニングホルム・バロック・アンサンブルのメンバーによる演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲のOp.1 No.1(Hob.III:1)、Op.1 No.6(Hob.III:6)、Op.2 No.1(Hob.III:8)、そしてハイドンの真作かどうか疑わしい三重奏曲(Hob.IV:F2)の4曲を収めたアルバム。収録は1987年1月29日~31日、スウェーデンのストックホルムの近郊の街、ストックスンドのペトロ教会でのセッション録音。レーベルは響きの美しい録音で知られるスウェーデンのBIS。

ヤコブ・リンドベルイは1952年、ストックホルム近郊の街ユルスホルム(Djursholm)の生まれ。最初はビートルズの音楽に惹かれギターを弾くようになり、すぐにクラシック音楽に興味を持つようになったとのこと。14歳でリュートに興味をもち、ストックホルム大学で音楽を学んだ後、イギリスに渡り英国王立音楽大学でギターとリュートを修めた。以来リュート奏者として欧米や日本でもコンサートを重ね、ルネッサンスからバロックにかけてのリュート音楽の第一人者という立場でしょう。リンドベルイのサイトがありますのでリンクを張っておきましょう。

ヤコブ・リンドベリのウェブサイト(英文)

私もギターやリュートは好きで、ギターはアンドレス・セゴビアの演奏を偏愛してます。セゴビアの演奏するバッハの無伴奏チェロ組曲3番の演奏はチェロの演奏よりもセゴビアのギターの演奏の方が好きなくらいです。リュートはリンドベルイやポール・オデットのアルバムをいろいろ手に入れて、リュート独特の響き渡る美しい音色をたまに楽しんでます。

このアルバムは好きなリュートの演奏によるハイドンの曲を演奏したアルバムということで手に入れたもの。先に紹介したように、収録曲目はハイドンの初期の弦楽四重奏曲などを集めたもので、第一ヴァイオリンをリュートで弾いたものとなっています。

アルバムのライナーノーツには、リュートの歴史とともにこのアルバムの位置づけが書かれています。ルネサンス期からバロック期に最高潮だったリュートの人気はハイドンの時代の始め頃まで続き、バロック期の13コースのリュートはヨーロッパの貴族社会においても好まれ続けたとのこと。それゆえハイドンのごく初期のリュートと弦楽器のための曲として残された2種の弦楽四重奏曲に由来する楽譜が残されていることも不自然なことではないわけですね。

これらのリュートのための曲のもととなった弦楽四重奏曲はハイドンがウィーンの合唱団を退団してから1761年にエステルハージ家に副楽長として採用される間のごく初期の曲。技術的な熟成は後年に譲るとして、若いハイドンの素直で明るい曲調を楽しむ曲でしょう。

なお、リュートの構造などについて私は詳しくありませんが、Wikipediaをみたところかなり詳しい情報が掲載されていますので、一度ご覧ください。

Wikipedia:リュート

演奏はリュートの雅な音色とヴァイオリン、ヴィオラ、チェロの端正なアンサンブルによる美しい響きをただただ楽しむべき演奏。BISらしい空間へ響く余韻の美しい録音。どの曲も非常に自然な演奏。中庸なテンポ、楽譜に身を任せるような非常に自然な作為のない穏当な演奏。

カッサシオン(Hob.III:1 弦楽四重奏曲Op.1 No.1)1760年以前作曲
弦楽四重奏曲としてもあまり聴く機会の多くないOp.1のNo.1。聞き覚えのあるフレーズですが、以前取り上げた別の曲のフルート版の編曲のときの違和感とはちが、素直に美しいリュートの音色を楽しむことができます。元の曲の記憶が薄い分良いのかもしれませんね。曲自体も技巧を凝らしたものというよりは、ハイドンの初期の美しいメロディの習作のようなこの曲を、あくまで自然に奏でるだけで十分美しい演奏になってます。3楽章の素直な曲。

カッサシオン(Hob.III:6 弦楽四重奏曲Op.1 No.6)1760年以前作曲
前曲からはだいぶ筆が込んで来て、聴き応えもだいぶ上がります。それでもクァルテットの緊密なアンサンブルを追求するような曲ではなく、あくまで楽天的に聴くような曲でしょう。2楽章のメヌエットはダウランドのリュート曲のような響きも感じさせ、リュートの響きの美しさを楽しめます。3楽章はハイドンのシンプルな曲想の芽生えのような素晴らしい曲。伴奏にまわったリュートの響きに乗ってヴァイオリンの奏でるメロディーの美しいこと。極上のひと時。ハイドンの才能がこれほど初期から迸っていたかと感慨深いものがあります。4楽章も力を抜いた典雅なフィナーレ。技巧を凝らすだけではなく、ただ演奏するだけで心に届く純粋さを感じる素晴らしい演奏。これも音楽の本質でしょう。

カッサシオン(Hob.III:8 弦楽四重奏曲Op.2 No.2)1760年~62年作曲
5楽章構成のOp.2のNo.2。曲を聴いているとハイドンの筆がまたすこし進んで、音楽の幅と深さが増してように聴こえます。1楽章はこの先に何か起こりそうな期待感のような不思議な感覚を感じます。2楽章のメヌエットは不思議なリズムとメロディーによる変化のあるメヌエット。3楽章は期待のアダージョ。全曲同様至福の一時。何と豊かな心境になることでしょう。このシンプルな曲のリュートによる研ぎすまされた響き。純粋無垢な魅力に溢れています。技巧とは無縁の静穏な魅力に圧倒されます。4楽章は再びメヌエット。リュートによるメロディーがクッキリと浮かび上がる演奏。フィナーレも見事に力が抜けてます。弦だけのときよりリュートに合わせるために他の弦楽器奏者が音量を抑えていることがうまい具合に力が抜けた演奏になっている理由のかもしれませんね。

カッサシオン(Hob.IV:F2)ハイドン真作の可能性低い
最初からリュートを前提に書かれている唯一の曲とのことですが、ハイドンの真作の可能性は低いとのこと。私に判定する力はありませんが、明らかに曲調が変わります。この曲はアルバム上はオマケといった存在でしょう。

さて、曲自体は未成熟な曲ながら、そのリュートによる演奏は技巧を超えて素晴らしい自然さ。まるで宝石箱のような美しさに溢れた演奏でした。私がリュートが好きなところが影響しているかもしれませんが、室内楽が好きな人には是非一度聴いていただきたい演奏だと思います。評価は1曲目が[++++]、2曲目、3曲目が[+++++]、最後の曲は対象外とします。

何となく書いているうちに、今度はセゴビアのギターについても一度書かなくてはならないかなと思ってきました。こちらはまた折りをみて。
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