作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

エルネスト・ブールの70番

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今日は珍しいアルバムを紹介。

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エルネスト・ブール(Ernest Bour)指揮のSWR交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲70番とメンデルスゾーンの交響曲5番「宗教改革」の2曲を収めたCD-R。こちらもディスクユニオンで見つけたもの。レーベルはSounds Supremeというアメリカのレーベル。例によってプリントした簡単なジャケットのみのアルバム。録音は1970年代としか記載がありません。会場ノイズや拍手がないことを考慮するとセッション録音か放送用の録音だと想像されます。

このアルバムを取り上げたのはひとえにその演奏のすばらしさから。エルネスト・ブールの名前は知っていましたがちゃんと演奏を聴いたことはありませんでした。このアルバムも未聴の演奏だからという軽いノリで入手。CDプレイヤーにかけてみたところその素晴らしい音楽に引き込まれました。

いつものようにWikipediaなどを調べてみました。エルネストブールは1913年フランス北東部、ドイツ国境すぐそばのティオンヴィル生まれの指揮者。近くのストラスブール音楽学校などで学び、指揮はなんとヘルマン・シェルヘンから学んだそう。1941年にはストラスブール近郊の街、ミュールーズのオーケストラの指揮者に、1950年にはストラスブール・フィル、1955年にはストラスブール歌劇場の指揮者となります。そして1964年から1979年までこのアルバムのオケであるバーデン・バーデンのSWF交響楽団の首席指揮者を勤めました。このアルバムはこの時代のものでしょう。1976年から1987年まではオランダのヒルヴェルサムのオランダ放送室内管弦楽団の終身客演指揮者に。そして2001年に亡くなっています。
レパートリーは現代音楽が中心でリゲゲィ、クセナキス、リーム、シュトックハウゼンなどの作品の初演などを手がけたとのこと。
エルネスト・ブールの録音のうち最も聴かれているのはキューブリックの「2001年宇宙の旅」に使われたリゲティの「アトモスフィア」の演奏。以前触れたように「2001年宇宙の旅」は最近も映画館で見ていますし、DVDも持っていますので意外なところでブールの演奏を聴いていたことになります。

さて、そうした現代音楽のスペシャリストのブールのハイドンはどのような素晴らしさなのでしょう。

交響曲70番(Hob.I:70)1779年以前の作曲
冒頭からちょっと低音がボンつき高域がかなり減衰した録音。ただその万全ではない録音の向こうから聴こえてくるのはハイドンの晴朗な70番台の交響曲の端正かつ力強い響き。リズミカルな開始部から堂々とした揺るぎない響き。以前聴いたギュンター・ヴァントの76番のDVDにも似た、現代楽器による流麗かつダイナミックな響き。1楽章は陽光に照らされた大理石のギリシャ神殿のような古典的均整。大理石の大きなヴォリューム感と細部の彫り込みの陰影の織りなすコントラスト、大理石の透明な質感までつたわるようなリアリティ。この圧倒的な存在感は見事。
2楽章のアンダンテは柔らかな光の陰を表すような、悲しげなメロディをあえてあっさり描くことで情感が色濃く浮かび上がります。幾重にも重なる陰の微妙な陰影の変化がモノトーンなのに豊かな表情を呈するような趣。確信犯的なこのあっさりとした表現は現代音楽のスペシャリストならではと思わせます。
3楽章はメヌエット。再び陽の光を浴びる神殿のファサード。メヌエットのツボを抑えた素晴らしい構築感。この揺るぎない響きはブールの緻密なコントロールの成果でしょう。鉈を振ったような強音と流麗を極める間奏部。
フィナーレは非常に抑えたヴァイオリンのフレーズが極めて印象的。ハイドンの曲の演奏としては異例のダイナミックレンジの幅をとった演奏。強奏部分の存在感は圧倒的なもの。録音がついていかず飽和してしまっている部分もありますが、演奏は強弱のコントラストのコントロールが見事。最後はキレよくフィニッシュ。圧倒的な印象を残します。

評価はと書きかけましたが、つづくメンデルスゾーンの「宗教改革」のニュアンスに富んだ響きに耳を奪われます。メンデルスゾーンは良く聴く方ではありませんが、こちらも圧倒的な存在感。なんという情感。劇的で端正でしなやかといったらいいでしょうか。普通はハイドンをつまんで聴くんですが、宗教改革のあまりの素晴らしい出来に最後まで聴いてしまいました。

ハイドンの70番ももちろん[+++++]としました。おそらく他にハイドンの録音を探すのは容易ではないとおもわれますが、この出来は他の曲を聴いてみたいと思わざるを得ません。
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