作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

インマゼールの聖チェチーリアミサ

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今日は久々のミサ曲。

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ジョス・ファン・インマゼール(Jos van Immerseel)の指揮する手兵、アニマ・エテルナ(Anima Eterna)の演奏でハイドンの初期のミサ曲「聖チェチーリアミサ」(Hob.XXII:5)の演奏。2008年6月21日、ドレスデンの聖母教会でのライヴ録音。収録曲目は「聖チェチーリアミサ」1曲のみ。ソロはソプラノがリディア・トイシャー(Lydia Teuscher)、アルトがマリアーネ・ベアート・キーラント(Marinne Beate Kielland)、テノールがマルクス・シェーファー(Markus Schäfer)、バスはハリー・ファン・デル・カンプ(Harry van der Kamp)の4名。

ドレスデンの聖母教会はルター派プロテスタント教会で、戦争で破壊されたものが再建された教会。1726年に建設が開始され1743年に完成。1945年2月13日のドレスデン大空襲と火災で崩壊。1996年から再建が始められ2004年7月に建物の外部が完成、2005年10月30日には内部を含む全てが完成した教会の完成を祝う式典が行なわれたとのこと。ジャケット写真からもわかる通り大空間の聖堂。

インマゼールは紹介の必要がないでしょう。私はモーツァルトのピアノ協奏曲全集の一押しはインマゼールのもの。古楽器の演奏の中では柔らかな音色で、またフォルテピアノなのに音量の変化と非常にデリケートなフレージングが特徴的な素晴らしい全集。特に20番以前の曲の響きの美しさは別格。モーツァルトの初期のピアノ協奏曲の魅力を最も表現できている全集だと言えるでしょう。

聖チェチーリアミサはハイドンがエステルハージ家の楽長に昇進した1766年に作曲された曲。いわゆるシュトルム・ウント・ドラング期の作品です。いつものように中野博詞さんの「ハイドン復活」を紐解いてみると、この年になるまでは、前楽長ヴェルナーがエステルハージ家の教会音楽の作曲と演奏を担当していたため、ハイドンには教会音楽を作曲する機会にはほとんど恵まれず、実際に副楽長時代にはミサ曲は全く作曲していなかったとのこと。長年にわたって押さえつけられてきたハイドンのミサ曲に対する創作意欲、教会音楽をも担当するようになる楽長昇進を機に、この曲によって一気に爆発したのかもしれないと指摘されています。この時期のハイドンの作品に共通する影のある美しいメロディーに溢れた傑作ミサ曲です。

キリエ
古雅な音色ですが、弾むリズム、特に瞬発力のあるアクセントが印象的な演奏。ヴァイオリンの音色は古楽器特有の摺れるような音色。リズム感を重視して流麗さよりリズムのキレを表現。入りは万全。第2曲はテノールのシェーファーのよくコントロールされた、良く通る声がいい感じ。オルガンの音色が雅な感じを濃くしています。ソロとオケのリズム感はよくそろって導入部の規律を保っています。第3曲はコーラスの重厚さがよく出たコーラスの聴かせどころ。寄せては返す波のようなコーラスのメロディー。まだまだ大人しい範囲なんですがふつふつと沸き上がる感興が垣間見えます。

グローリア
推進力が一気に増して7曲構成のグローリアに移ります。ティンパニの活躍で一気に活気が増してきます。リズムは律儀な感じなんですが、不思議と沸き上がる感動の気配。インマゼールのコントロールは冷静に抑えられていますが、その演奏からは大きな波が襲ってくるような迫力があります。グローリアの2曲目はソプラノのトイシャーのほのかに可憐な透明な声が聴き所。オケも徐々に熱気を帯びてきたような感触があります。グローリアの3曲目は静謐な祈りを感じる厳かな曲。曲が進むごとに少しずつこのミサ曲の世界に引き込まれていくような不思議な魅力を感じます。ここまで、テンポは極めて自然体、響きも自然なものゆえ、個性的な演奏とはいえないんですが、じわりと響く感動。つづくグローリアの4曲目はアルトのキーラントとテノールのシェーファーのソロの掛け合い。落ち着いたテンポでの落ち着いた掛け合いの妙。オケも冷静さを保っています。グローリアの5曲目は短調の険しい表情から、ほのかにさす光のような救いのメロディーに移り変わる曲の美しい表情に打たれます。キーラントのアルトの堂々とした声が心に刺さります。この曲の最も崇高な瞬間でしょうか。ただただ響きに打たれる至福の瞬間。6曲目は序奏からオケの聴かせどころ。なんという間の生かし方。トイシャーのソプラノは余裕たっぷりに朗々とした歌唱。転調の妙味を加えてティンパニの楔に首がびくびく拍子を打つような素晴らしいメロディーライン。グローリアの最後は教会中に響き渡るコーラスから入り、フーガ風の厳粛なメロディー。トランペットの天上へ響き渡るアクセント。最後のクライマックスは不器用なほどのザクザクとした盛り上がりですが、最後の一音の伽藍に響き渡る余韻の消え入る様子が印象的。

クレド
クレドは3曲。1曲目は一気にエネルギーが満ちてくるような曲調に変化。そしてテノールとアルト、バスのソロの素晴らしい掛け合いの2曲目。2曲目のメロディーラインの美しさは筆舌に尽くし難いほど。そして最後の3曲目は再びエネルギーの爆発。弾むリズムと推進力。

サンクトゥス
コーラスの響きの美しい導入。テンポを上げてエネルギーを増します。1分ちょっとの短い曲。

ベネディクトゥス
このミサ曲で最も美しい曲。合唱とオケの織りなすほの暗く流麗なメロディーに打たれます。最後は明るく転調し畳み掛けるように終了。

アニュス・デイ
最後はバスのファン・デル・カンプのフィッシャー・ディースカウ張りの声の響きによるアニュス・デイ。終曲もあっさりとすすみながらこれまでの曲の総まとめ的な美しいコーラスの波また波。ティンパニの強打に導かれて曲を閉じます。

インマゼールによる疾風怒濤期の傑作ミサ曲、聖チェチーリアミサ。これまで取り上げたコルボ盤、プレストン盤に迫る演奏でしたが、コルボの天上にモーフィングしそうな透明な上昇感と、プレストンのミサとしての完成度に対して、素朴な音色のじっくり楽しむべき演奏という位置づけ。評価は[++++]としておきます。ライヴの一発性というスリリングな要素はあまりなく、堅実な演奏です。生で聴いていたら心にしみる演奏だったでしょう。

さてさて、ミサ曲はまだまだレビューが足りないんですが、聴くのにはエネルギーが必要。今月は意識してミサ曲を取り上げてみようかと思ってます。
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