作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

爆演、ショルティの指揮者デビュー録音、ロンドンフィルとの太鼓連打他

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昨日、ディスクユニオン手に入れたアルバムから珍しいものを。連日の「太鼓連打」。

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HMV ONLINEicon(完売)

サー・ゲオルク・ショルティ(Sir Georg Solti)指揮のロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏で、ハイドンの交響曲103番「太鼓連打」、102番、100番「軍隊」の3曲を収めたアルバム。ショルティ、ロンドンフィルのハイドンは1981年から89年にかけてのザロモン・セットの録音があるんですが、これはその遥か以前、1949年から54年にかけての録音。収録は「太鼓連打」が1949年8月、102番が1951年11月、「軍隊」が1954年4月の録音。手に入れたアルバムは日本盤、ポリドールで非売品との記載が。販促物でしょうか。このアルバムとほぼ同じジャケットのシリーズがユニバーサル・クラシクスになってから1997年3月28日に発売されていますので、その時のシリーズの情報を張っておきましょう。

20世紀の巨匠シリーズ/サー・ゲオルク・ショルティ(1912-1997)の芸術/アーリー・イヤーズ(1947-1966)

私の手に入れたアルバムは、全体のデザインは上のジャケット写真と同じなんですがロゴが異なり、右上の赤青DECCAのロゴではなく、左上に赤青LONDON、右上には白黒の古風なLONDON RECORDSのロゴが配されたものですので、1997年3月にリリースされたアルバムの販促物よりも古そうな印象。アルバムのどこにも制作年が記載されていませんので詳細は不明のままです。

このアルバムの録音については、もう一つ情報があります。プロデューサーのジョン・カルショーの著書「レコードはまっすぐに(Putting the Record Straight)」にこのアルバムの中の「太鼓連打」の録音が1949年8月29日にされたとの記載があります。また、ショルティがイギリスのオーケストラとはじめて録音を行ったとのこと(110ページ)。
また、本アルバムの藤田由之氏のライナーノーツによれば、それまでショルティは主にピアニストとして1947年頃から録音をするようにり、この録音の前にチューリッヒ・トーンハレ管弦楽団を指揮したベートーヴェンのエグモント序曲を収録していたが英DECCAで発売されたのみで、日本では発売されなかったとのこと。ということで、本アルバムの「太鼓連打」がショルティの日本での指揮者デビュー盤ということになります。上のユニバーサルクラシクスのリンクに記載された情報には1997年3月の時点で世界初CD化と触れられていいますので、それ以前にCDとして正式にリリースされたことはなかったのでしょう。

ショルティのハイドンは同じロンドンフィルとのザロモンセットが有名ですが、この中から以前も102番と太鼓連打を取り上げていますので記事のリンクを張っておきましょう。

2010/12/03 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」2
2010/12/02 : ハイドン–交響曲 : ショルティ/ロンドンフィルによる102番、103番「太鼓連打」

後年のロンドンフィルとのショルティのハイドンは速めのテンポでオケを良く鳴らしたキリッとしたハイドンですが、指揮者としての実質デビュー盤となるこの演奏の太鼓連打はどのような演奏でしょう。

交響曲103番「太鼓連打」1795年作曲
SPから起こしたものか、スクラッチノイズがすこし混ざっていますが、冒頭から遠雷タイプのティンパニのトレモロに続き素晴らしく瑞々しいオーケストラの音色に打たれます。真空管の録音機器で最高のコンディションで録音されたような音色の素晴らしい音響。当時37歳のショルティの溢れんばかりのエネルギーが乗り移ったロンドンフィルのキレのある響き。当時カルショーは前掲書で「ショルティは指揮者としては未熟なところもあったが、演奏には切迫感と緊張感があった。それらはハイドンにはふさわしくないものだったかもしれないが、注目すべき将来性を予感させた」と語っています(山崎浩太郎訳)。当時のハイドンの演奏スタイルから違和感も合ったかもしれませんが、このキレとエネルギーはショルティの巨匠としての存在を決定づけるエネルギーをすでに放出しているように聴こえます。
2楽章のアンダンテ。ゆったりしたテンポなのにオケに殺気が宿ったようなキレ。見事な緊張感。ふと力を抜く部分をはさんだり、良く聴くともの凄くオケを制御していることがわかります。セルにしろショルティにしろハンガリー出身の指揮者のこの見事なコントロールは素晴らしいものがあります。途中のヴァイオリンソロもショルティの意を汲んでか流麗さよりもキレを狙った演奏。オケの強奏部分の迫力はショルティならではの素晴らしいものがあります。
3楽章のメヌエットはショルティの迫力あるエネルギー感がさらに見事。オケのキレも良く音が尖ってます。
フィナーレは速めながらオケを抑えながら入り終盤にいたるまで抑えが見事に効いています。ショルティの素晴らしいコントロール、最後の爆発に備えます。なんでしょう、この素晴らしい生気は。抑えながらもふつふつと沸き上がる巨大なエネルギーが垣間見えます。最後は録音会場はショルティのコントロールするオケの爆発の渦に巻き込まれていたことでしょう。圧倒的なエネルギー。当時の録音装置にはもちろんおさまりきらないダイナミックレンジでしたでしょうが、そのエネルギーは60年以上経た今にもしっかり伝わります。

交響曲102番 1794年作曲
太鼓連打より2年後の録音。今度はスクラッチノイズは聴こえませんのでテープから起こしたものでしょうか。序奏はゆったり入りますが、主題に入ると同時に快速テンポにギアチェンジ。素晴らしい推進力。音自体はなんとなく古い太鼓連打のほうが鮮度があったように聴こえますが、こちらもキレと鮮明度はそこそこあり、十分良い録音。速いテンポながら、フレーズごとにかっちりアクセントがつけられ、またデュナーミクの制御が行き渡っているせいで、前曲同様すばらしい緊張感。コントラバスの弓から松ヤニが飛び散らんばかりの激しいアクセントなどもあり、未曾有の畳み掛け。痺れるような迫力。
2楽章の入りは完璧にギアチェンジ。有名なメロディーが極端にゆったりと流れ至福のひととき。テープのつなぎらしき一瞬の音飛び等の傷もありますが、演奏の価値に全く影響なし。若きショルティの機転がピタリと決まります。豪腕で知られたショルティのオリジンを感じさせる、迫力と抑制の渾然一体となったコントロールの魅力をたっぷり味わえる楽章。大波が来るように起伏をつけ、至福のアダージョを演出。まいりました。
3楽章のメヌエットは完全に意表をつかれました。なんとスローテンポでザクザク入ります。102番の曲想を深く読み取った結果でしょうが、曲の後半に表現のポイントをおいた素晴らしい演出。これまでのショルティのオーケストラを鳴らし切ることに主眼を置く人ととの認識を刷新するような本質的な解釈。木管楽器の奏でる穏やかなメロディーが嵐の前の静けさのように不気味さを伴って鳴り響きます。
フィナーレの入りは快速になると確信して曲間の静寂に異様な緊張が走ります。もちろん速いテンポで、抑えた入り。いつ大噴火するか手ぐすねひいて待つドキドキ感。次第にオケが鋼のような強さを帯びてきます。102番のフィナーレでこれだけの緊張が走るのははじめてのこと。コミカルなメロディーラインなのに、なにごとがおこるのかという異様な雰囲気。最後は静寂の迫力も相俟って素晴らしい盛り上がり。恐ろしいほどに気合いのこもった素晴らしい102番! 聴き終えてくたくた。

交響曲100番「軍隊」1793年~94年作曲
最後の軍隊。102番より3年後の1954年の録音。もうくたくたですが、冒頭から恐ろしいキレで軍隊の聴き慣れたメロディーラインがザクザク進みます。テンポは速め、弦はキレまくり、木管はとろけ、ショルティのコントロールもキレまくり。恐ろしい集中力です。ハイドンにこの素晴らしい演奏を聴かせてあげたいです。沸き上がるオケのエネルギー。この演奏がいままでCD化されなかった理由が知りたいですね。
2楽章は中庸なテンポで静かにはいり、軍隊の更新の興奮を待ちます。タイトに引き締まった、というかショルティに引き締められたロンドンフィルが軍隊の特徴的なメロディーをもの凄い気合いで弾きまくります。ロンドンフィルの特に低音弦セクション、これほどの切れとエネルギーは聴いたことがありません。恐ろしいほどに鍛え上げられたのでしょう。ショルティのハイドンの交響曲の演奏にかける想いが乗り移ったような爆演。2楽章最後のトランペットのソロ以降のエネルギーは凄まじいですね。これは軍隊の過去の演奏でも指折りの名演と言っていいでしょう。
3楽章も中庸なテンポによる堂々としたメヌエット。非常に正統的なメヌエット。聴く方もすこし落ち着きました。1949年の太鼓連打の録音からはじまって、この軍隊の録音までの間にショルティも経験をつみ、演奏の完成度も上がってきたんでしょう。ただし、前の太鼓連打、102番の荒削りながら素晴らしいエネルギーも捨て難いのが正直なところ。
フィナーレも聴いていて安心できる、名演。なぜか打楽器を強調せず弦楽器と木管楽器のメロディーに明らかに焦点を合わせた演奏と録音。打楽器による畳み掛ける迫力ではなく、メロディーの面白さに焦点をあてたかったんでしょうか。それでも最後は怒濤の迫力で終了。最後の軍隊はいろいろなことを考えさせる名演でしたね。

ディスクユニオンの店頭でふと見つけた、ショルティのデビューの頃のハイドンの交響曲3曲を収めたこのアルバム。あまりの素晴らしさに脱帽です。完全に見直しました、ショルティを。評価はもちろん全曲[+++++]。このアルバム人類の至宝レベルの出来です。古い録音でモノラルなのは致し方ありませんが、そのエネルギーは凄まじいもの。ショルティがなぜあれだけ多くの録音を残す名指揮者になったのか、この1枚を聴くだけでよくわかります。

このアルバムが常時手に入らない状態な理由がわかりません。ユニバーサルの方、是非再発売をお願いします!
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2 Comments

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ライムンド

No title

Daisyさんこんばんは。首都圏は地震後も停電や食品で困難が続き、大変さを推察しております。夏場は全国的に計画停電になるような報道です。
このショルティのシリーズでは、メンデルスゾーンだけ購入していました(イタリア交響曲が好きなので)。同時期のブルックナー第8もそうでしたが、独特のエネルギーで余人をもって替え得ない演奏です。読んでいてハイドンも聴きたくなってきました。

  • 2011/03/27 (Sun) 20:32
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Daisy

Re: No title

ライムンドさん、こんばんは。
今回の地震で一番ビックリしたのが、余震がこれほどまでにあるかということ。3月11日以来、一日中絶えず体に感じる余震があり、始終ゆらゆら揺れている気分なんですね。ここ数日ようやくおちついてきた感じですが、まだまだ油断ならないでしょうね。関西も阪神淡路大震災の時は大きな被害を受けましたが、やはり遠くで起きたことのような感覚がありました。今回の地震は東京の人も身近な出来事として大きな衝撃を受けました。交通機関が動かなくなり徒歩で帰宅したり、計画停電で暗い夜を過ごしたり、災害が身近なこととあらためて実感しましたね。
ショルティのハイドンですが、これは名盤です。今日はショルティのハイドンのすっかりやられました。どこかで見かけられたら是非一聴をお薦めします。

  • 2011/03/27 (Sun) 21:33
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