デリアン四重奏団のピアノ協奏曲、弦楽四重奏曲Op.33-1
ということでおそくなりましたが昨日の実に素晴らしいデリアン四重奏団の演奏のつづきを。アルバムの情報は再掲しておきましょう。

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デリアン四重奏団(delian::quartett)の演奏によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76 No.4「日の出」(Hob.III:78)、ピアノ協奏曲(Hob.XVIII:4)、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲(Hob.XVIII:6)、弦楽四重奏曲Op.33 No.1(Hob.III:37)の4曲を収めたアルバム。ピアノ協奏曲のピアノはアンドレアス・フレーリヒ(Andreas Frölich)、ヴァイオリンはジル・アパップ(Giles Apap)。収録は2008年9月4日、5日、10月6日、7日、フランクフルトのヘッセン放送ホールでのセッション録音。レーベルはスクロヴァチェフスキのブルックナーなどで知られるOHEMS CLASSICS。
今日は2曲目から。
ピアノ協奏曲(Hob.XVIII:4)1770年頃作曲
前の記事のナターシャ・ヴェリコヴィッチのアルバムにも含まれていた曲。1楽章は弦楽四重奏が伴奏なのでタイトで鮮明な伴奏。速めのテンポでエッジをきっちり立てたキリッとしたフレージング。速めと言ってもフレーズごとの表情の変化は前の「日の出」同様きっちりとつけられています。伴奏だけでも身を乗り出して聴くような緊張感。フレーリヒの弾くピアノはテンポのキレもよく、ダイナミックかつ軽やか。かなりの腕前ですね。最初の響きは協奏曲とピアノ三重奏曲の間のような響き。協奏曲のダイナミックさとピアノ三重奏曲のテンションの高い掛け合いの両方の魅力をもっているような演奏。全員が緩急自在のキレで非常にテンション高い演奏。
2楽章は、弦楽四重奏のアダージョのようなゆったりしたアンサンブルから入りピアノが加わり素晴らしい感興。音楽を聴く歓びの瞬間。ピアノと室内楽の響きを楽しむ極上のひととき。途中のピアノの特徴的な音階から先は、ピアノと弦のつぶやくようなメロディーのやりとりを進め、完璧にコントロールされた濃い時間。カデンツァは詩情満点。至福のひとときですね。
3楽章は再びタイトな響きに戻ります。メリハリをキリッとつけたピアノと弦楽四重奏の見事な掛け合いが痛快。途中テンポを自在にあやつり曲の面白さを際立たせます。最後は爽やかなスピードにのせてフィニッシュと思いきや、カデンツァで再び自在にテンポを操り、静寂も感興も織り交ぜて終了。いやいや、あまりの素晴らしさに脱帽。
ヴァイオリンとピアノのための協奏曲(Hob.XVIII:6)1766年作曲
今度はヴァイオリンとピアノがソロを担当する協奏曲。ヴァイオリンのプレゼンスが前曲とは全く異なり、ソロ楽器としての役割が濃くなります。ヴァイオリンソロはアパップ。デリアン四重奏団のヴァイオリンよりちょっと音色がきつい印象ですが楽器の違いでしょうか。ヴァイオリンが主導権を握りますが、若干固い感じ。ピアノは逆に伴奏にまわるような部分もあります。1楽章はヴァイオリンとピアノの拮抗する響きが聴き所。
2楽章は、弦のピチカートに乗ってヴァイオリンとピアノが交互に素朴で美しいメロディーを奏でていくシンプルな曲想。ヴァイオリンもだんだん調子が上がり、ヴァイオリンとピアノの醸し出す名旋律をただただ楽しむ楽章。
3楽章はヴァイオリンの音程が上がり、かなり高い音を中心としたメロディーを多用。クイックな掛け合いの妙。ピアノは依然キレまくってます。これも良い演奏。
弦楽四重奏曲Op.33 No.1(Hob.III:37)1781年作曲
再び弦楽四重奏曲へ。1楽章は昨日レビューした「日の出」と同様、しなやかかつ精緻な響きが特徴の完璧なアンサンブル。ヴァイオリンもヴィオラもチェロも単独の楽器としても素晴らしい演奏。音程とフレーズごとの表情づけが巧み。音程によって音色を使い分け、高音の伸びと少し抑えた音の影のある音色の対比。これらが非常に統一感がある響きを構成。というか抜群の一体感ということでしょう。
2楽章はスケルツォ。硬軟折りませた弦の響きが心地よい楽章。
3楽章はアンダンテ。ハイドンの弦楽四重奏曲の楽しみを存分に味わえる素朴なメロディーに溢れた楽章。伸びのあるヴァイオリンの音色の美しさ、深い響きのチェロの音色の美しさが際立ちます。
4楽章は快速テンポで一気に責め立てます。疾風のように速い入りからハイドン独特の終楽章の複雑な音符を音にしていきますが、まさに疾風のような速さ。弦楽四重奏の魅力をたっぷり味わえる名演奏です。
昨日から記事を分けて取り上げたデリアン四重奏団の弦楽四重奏曲、ピアノ協奏曲を集めたこのアルバムですが、今日取り上げた曲は、ピアノ協奏曲(Hob.XVIII:4)と弦楽四重奏曲Op.33 No.1(Hob.III:37)は[+++++]、ピアノとヴァイオリンのための協奏曲(Hob.XVIII:6)は[++++]としました。ピアノとヴァイオリンのための協奏曲のヴァイオリンがちょっと弱い他は完璧な演奏。
このアルバムはハイドンの室内楽を聴く歓びに溢れた名演奏。室内楽の最上の響き、音楽性、面白さを満喫できる素晴らしい演奏です。「日の出」を聴いたときにそのただならない完成度からビビっときました。このアルバムはハイドンの室内楽を聴くのに欠かせない素晴らしい録音であり、今後歴史に残るべき名演奏だと思います。2007年設立とまだまだ歴史の浅いこの四重奏団ですが、今後の録音に注目したいと思います。もちろんアルバムを通してハイドン入門者向けタグをつけました。これからハイドンの室内楽を聴く方には、絶好の一枚。このアルバムでハイドンの室内楽の素晴らしさを多くの人に知っていただきたいものですね。
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tag : ピアノ協奏曲XVIII:4 弦楽四重奏曲Op.33 ハイドン入門者向け ピアノとヴァイオリンのための協奏曲XVIII:6