作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

絶品、バイロン・シェンクマンのピアノソナタ集

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今日は最近手に入れた中でとても良かったピアノソナタ集を取り上げます。

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HMV ONLINEicon / amazon

バイロン・シェンクマン(Byron Schenkman)のピアノによるハイドンのピアノソナタ集。ピアノソナタ5曲(XVI:35、XVI:36、XVI:34、XVI:30、XVI:37)とピアノ三重奏曲としても知られるヴァイオリンソナタ(XV:32)、そしてピアノ三重奏曲の2楽章をもとにしたアダージョ(XV:22/II)の計6曲。収録は2005年の5月、アメリカ中部のアイオワ州、アイオワ州立大学クラップリサイタルホールでのセッション録音。久々にアメリカものですね。レーベルはロスにあるCENTAURというレーベル。レーベルの赤いマークを見てわかるとおりケンタウルス(半人半馬の怪物)という意味のようです。

ピアノソナタの未聴盤はわりと積極的に手に入れるようにしているんですが、もちろん玉石混合。このアルバムは1つ前のレビューで紹介したデートレフ・クラウスの素晴らしい枯淡の表現を感じたアルバムとともに、最近手に入れた中では抜群の出来の一枚。

ピアニストのバイロン・シェンクマンははじめて聴く人。ジャケットには仏の慈悲のごとく微笑む優しい笑顔のピアニストが、ピアノの前にたたずむ姿。ジャケットからもオーラが出ています。アメリカ人のピアニストでハープシコードやフォルテピアノも弾くようです。ニューイングランド音楽院やインディアナ大学などで音楽を学び、最初はハープシコード、フォルテピアノ奏者として活躍し、その後ピアニストとしてデビューとのこと。このアルバムにはモダンピアニストとしてはじめての録音であることが表記されています。本人のサイトがありますのでリンクを張っておきましょう。

Byron Schenkmanのサイト(英文)

要はピアニストとしては本盤がデビュー盤ということですが、そうは思えない円熟の響きが聴かれます。

1曲目はハ長調のXVi:35、1780年頃の作曲。いきなり透明感の高い素晴らしい響き。最新の録音らしくホールに響くピアノの美しい音色が印象的。速めのテンポで指もよくまわってよく流れるメロディーライン。フレーズの切れ目はたっぷりと休符をとり、ふたたび快速テンポのメロディーラインに移り快速のまま終了。
2楽章は非常にゆったりした流れ、このアダージョ楽章の透明感と情感の高次のバランスがこのアルバムの聴き所の一つになっています。力が抜けて、メロディーのエッセンスのみが響いていく感じは悪くありません。
3楽章はアクセントをキリッと決めて、メリハリ感も聴かせどころになります。1曲目は全体の印象を左右する重要な役割がありますが、透明感とテンポ感、表現の幅ともに良い演奏。最初の1曲はシェンクマンの力を正直に表した良い演奏と言えるでしょう。

2曲目はXVI:36、1780年以前の作曲。冒頭はぐっと大振りな勢いで挨拶代わりに見栄を切るようなインパクトのある特徴的な出だし。以降は、若干重さを感じるようなゆったりしたテンポで1楽章のメロディーを訥々と表現して行きます。2楽章は軽いタッチで美しい音色を生かした展開。抑えた部分の軽さの表現も十分にコントロールされています。このの人の巧さは、デリケートな弱音のコントロールでしょう。綿菓子をさわるときはその軽さに合わせて触れますが、そういった力加減が非常に巧い人という印象。3楽章のメヌエットはゆったり感満点の展開。ゆったりした流れのなかにハイドンの暖かいメロディーを楽しむ絶妙の演奏。

次は名曲XVI:34ホ短調。1780年代の作曲。冒頭の特徴的な曲想を軽々とさっぱりした指使いでこなします。速いパッセージを軽々とこなしますが、テクニックの誇示と言うような雰囲気は微塵もなく、素晴らしい指の動きで1楽章を終えます。2楽章のアダージョの音楽性は素晴らしいもの。この楽章にハイドンが込めた詩情を非常に自然に表現。特にテンポのコントロールが巧みで、ちょっとしたところでテンポを落とすのを効果的に使い、フレーズの切れ目を巧く表現しています。3楽章のクッキリした推進力も見事。勢いだけではなくフレーズのコントロールが巧いため曲のメリハリを有機的に描いているように聴こえます。この曲も素晴らしい演奏。これは凄い。

次のXVI:30は1776年の作曲。この曲も素晴らしい演奏。1楽章の非常に変化に富んだメロディーを巧く表現しているのに加え、後半のぐっとテンポを落とすところの表現も見事。ハイドンの曲の面白さをのツボがわかっている感じですね。2楽章は変奏曲ですが、変奏ごとの表情の付け方は孤高と言ってもいい澄み切ったもの。

ソナタの最後は名曲XVI:37、1780年頃の作曲。1楽章のクッキリとした旋律を右手の輝きに満ちたタッチで描き、テンポのコントロールも一定ながら、フレーズ感の休符を長めにとってメリハリ感は十分。あっさりとした演奏ながらこれ以上の表現は必要ないとも思わせる完成度。2楽章は意外に迫力に満ちたもの。冒頭の一音から聖堂の大伽藍を思わせる重厚な音色。そして消え入るようにつづくフレーズ。なんという解釈。この楽章はハスキルの演奏に代表される情感を色濃くだすものと思っていましたが、シェンクマンの描く2楽章は全く異なる険しい世界でした。そしてつづく3楽章は前楽章の静寂をうけて静かに始まりますが、途中から険しさも顔をみせるようになり、右手のキラメキ感とともに曲をすすめ、フィニッシュ。デュナーミクの繊細なコントロールが印象的な名演奏ですね。

そしてピアノ三重奏曲としても知られるヴァイオリンソナタ(XV:32)。ヴァイオリンはケイティ・ウォルフェ(Katie Wolfe)。アイオワ州立大学の准教授としてヴァイオリンを教えている人のよう。本人のサイトがありましたので、リンクを張っておきましょう。

Katie Wolfeのウェブサイト(英文)

ヴァイオリンとピアノの息がピタリとあって素晴らしいアンサンブル。シェンクマンのピアノに寄り添うようなケイティの落ち着いた音色のヴァイオリン。楽器が2台になったとたん掛け合いの妙が楽しめるんですね。この曲も素晴らしい出来。

最後はこのアルバムのアンコールピースのようなピアノ3重奏曲からのアダージョ(XV:22/II)。そっとピアノに振れるようなタッチで優雅なアダージョをゆったりと弾いていきます。ハイドンならではのシンプルながら味わい深いメロディー。この感興は聴いていただかないと伝わらないと思いますが、しみじみ心に響く名旋律。シェンクマンの極上のタッチで存分に楽しめます。最後の余韻の消え入る美しさは絶品ですね。

ふと見つけたこのアルバムですが、その演奏はハイドンのピアノソナタの魅力を存分に味わえる名演奏でした。評価はすべて[+++++]としました。別に超絶的なテクニックでも、突き抜けた個性を持つ訳でもないんですが、さらっと弾いているようでハイドンのピアノソナタの本質をえぐるような表現力があり、非常に説得力があります。久々に「ハイドン入門者向け」タグも進呈です。ハイドンをこれから聴こうというひとにおすすめの一枚。今日はシェンクマンの素晴らしい演奏に酔いしれました。良いお休みでした。

この人にはこのアルバムより前に入れたフォルテピアノによる初期のハイドンのソナタ集が同じCENTAURレーベルよりリリースされているんですが、こちらも注文しなくてはなりませんね。
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