作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

マルケヴィチ/ベルリンフィルの天地創造、ゼーフリート絶唱

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未整理盤箱から気になったアルバムをチョイス。久々の大物。

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HMV ONLINEicon (廃盤)/ amazon

国内盤で発売されていたイーゴリ・マルケヴィチ(Igor Markevitch)とベルリンフィルの演奏によるハイドンの最高傑作「天地創造」。歌手はガブリエルとエヴァがイルムガルト・ゼーフリート(Irmgard Seefried)、ウリエルがリヒャルト・ホルム(Richard Holm)、ラファエルとアダムをキム・ボルイ(Kim Borg)、合唱がベルリン聖へドヴィッヒ大聖堂聖歌隊という布陣。1957年、ベルリンのイエス・キリスト教会でのセッション録音です。

このアルバム自体、最近手に入れたものですが、ビニール袋もはがさぬまま未整理盤を入れた箱にいれたまま聴いていませんでした。封を開けてCDプレイヤーにいれて聴き始めたところ、名演の予感。ゼーフリート来てます。

イーゴリ・マルケヴィチはウィキペディアによれば、1912年、ロシア(現ウクライナ)のキエフに生まれた指揮者、作曲家。生まれてすぐに家族に連れられスイスに移住。アルフレッド・コルトーに楽才を認められ、パリにつれていかれ、多くの著名な演奏家、作曲家を教育したことで知られるナディア・ブーランジェのもとで作曲やピアノを学ぶ。作曲家としても若くして名を馳せストラヴィンスキーと同じ名前であることから「イーゴリ2世」と呼ばれた。1930年に18歳の若さでロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団を振って指揮者デビュー。指揮者としてはフランスもの、ロシアもの、現代音楽などを得意としていたようです。日本にもたびたび訪れたので、年配の方の中には生の演奏を聴かれた方もいらっしゃるのではないかと思います。亡くなったのは1983年ですので、もう30年近くなります。

マルケヴィチといえば私はハスキル、コンセール・ラムルー管弦楽団とのモーツァルトのピアノ協奏曲の深い情感をたたえた名盤と、ストラヴィンスキーの「兵士の物語」が思い出深いですね。「兵士の物語」はジャン・コクトーやピーター・ユスチノフの前衛的な語りとマルケヴィチのコントロールによる前衛を絵に描いたような小編成のオケの鋭い響きが印象に残っていますが、自身が作曲家としても時代に影響を与えるほどの存在だったことを知ると迫真の演奏に合点が行きます。

ソリストの方に触れておきましょう。

まずはシュワルツコップ、ギューデンと並びウィーンの三名花と呼ばれたイルムガルト・ゼーフリート。1919年生まれのソプラノ歌手。様々なアルバムがリリースされていることからご存知の方も多いでしょう。シュワルツコップの表情の濃い歌と比べると一層引き立つ透明感溢れる声。天地創造の演奏時には39歳ということで全盛期と言って良いでしょう。ゼーフリートの手元のシュワルツコップとのデュオのアルバムの並んでとられたジャケット写真を貼っておきましょう。こちらのアルバムでは最後に収められた「薔薇の騎士」の熟れたデュエットがカラヤンの伴奏もあって最高の聴きもの。

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ウリエル役のリヒャルト・ホルムはドイツのシュトゥットガルト生まれのテノール。手元には彼の歌うハイドンはこのアルバムのみ。ニュルンベルクやハンブルクのオペラでの活躍のあとミュンヘン州立歌劇場でモーツァルト歌いの立場を確立。その後世界の歌劇場で活躍したとのこと。

そしてラファエルとアダム役のキム・ボルイ。1919年、ヘルシンキ生まれのバス。名前からするとスウェーデン系なんでようか。ヘルシンキのシベリウスアカデミーで理論や作曲、スウェーデンのストックホルムで声楽を学び、北欧各地の歌劇場で活躍の後、1959年にニューヨークのメトロポリタン歌劇場にセビリアの理髪師のアルマヴィーヴァ伯爵役でデビュー。1980年に引退するまで各地の歌劇場で活躍。亡くなったのは2000年です。

このアルバムの聴き所はマルケヴィチのコントロール、ゼーフリートをはじめとする歌手の出来、そしてこの演奏の2年前である1955年からカラヤン体制となったベルリンフィルの迫力はいかほどかというというところでしょう。



さて、前置きがだいぶ長くなりましたので演奏のレビューを。

冒頭の音響は流石ベルリンフィルという緊張感をたたえたもの。フレーズのコントロールが非常に緻密でマルケヴィチの制御力が際立ちます。1957年の録音としては驚くほどの鮮明さ。厚みはそこそこながら繊細感はかなりのもの。モノラルですが鑑賞には差し支えないどころか十分楽しめる録音。ラファエルの第一声は音程の確かな艶やかな声。続くウリエルのホルムは存在感のある朗々とした声量のあるテナーを聴かせます。
第2曲のウリエルのアリアは若干直裁な印象のあるホルムの歌と合唱。マルケヴィチのコントロールは非常に繊細な表情付けをする一方、全体の設計は揺るぎない安定感をもっているように聴こえます。
第3曲のラファエルのレチタティーヴォはボルイのヴィブラートの利いた艶やかなバスの安定感が見事。前半はラファエル役の締まり方で曲の印象が大きく影響を受けますが、ボルイのバスは見事ですね。
そして期待の第4曲、ゼーフリートのアリアの一発目。コケティッシュにちかい透明な声が魅力的ですね。マルケヴィチの伴奏も抜群のキレでそれを支えます。
出だしから第4曲目まででソリストの特徴をつかむまでいつものようにじっくり聴きます。

第6曲のラファエルのアリア「泡立つ波をとどろかせて」は、ボルイの声の存在感が素晴らしい。ボルイがグイグイ引っぱり、マルケヴィチがそれに応えてオケをコントロール。レチタティーヴォにつづく第8曲は前半最大の歌の聴き所、ガブリエルのアリア。ゼーフリート絶唱。なんという美しい声。カラヤン盤のヤノヴィッツの声も捨て難いんですが、このゼーフリートの艶やかでかつ透明感溢れる声には参りました。最後の上下する音階に至り感極まれリ。このアルバムの最も素晴らしい聴き所に違いありません。つづく第3日の最後の第10曲はオケとコーラスの聴かせどころですが、残念ながら1957年という録音年代ゆえおそらく大爆発していだろうベルリンフィルの大波のようなうねりまで伝わってきませんので想像力で補いながら聴きます。マルケヴィチのコントロールは見事なもの。そして、第1部の最後のクライマックスに至る第12曲、第13曲。第12曲のはじまりからオケと奏者が後光につつまれ神々しいまでの緊張感を帯びてきている様子がてにとるようにわかります。マルケヴィチの険しい視線が全奏者にむけられ、張りつめた空気になっていることでしょう。そして第13曲。悟りきったかのような表情ではじまり、徐々に力感を増しながらクライマックスに近づいていきますが、途中に印象的な休符をはさみ、熱気を沈めます。現代音楽をも得意としていたマルケヴィチだけに一筋縄では行きません。ただのクライマックスというより、すべての感覚を駆使して、引き締まったクライマックスへコントロールしているようです。流石ですね。

第二部は、いきなりゼーフリートの美声から。第15曲のガブリエルのアリア、ゼーフリートの声の美しさは筆舌に尽くし難いほど。いきなり昇天寸前です。それからレチタティーヴォを経て、第5日のクライマックスへ・第18曲ガブリエル、ウリエル、ラファエルの三重唱はゼーフリートからホルム、ボルイへと歌をつないでいく名曲。若干ホルムが単調で聴き劣りがしますが、問題ない範囲。特徴的な低音部の伴奏はなんとほとんど聴こえないように抑えます。マルケヴィチのことゆえ面白く聴かせることと期待していただけに、拍子抜けですが、歌を浮かび上がらせようという意図なんでしょうか。そして第19曲で第5日のクライマックス。爆発感よりもメロディーの線のつながりが見事な展開。非常に知的なコントロールを感じます。

CDを換えてCD2へ。長くなりましたので後半は簡単に。

第22曲は輝かしい伴奏が非常に特徴的なアリア。途中にでっかいバスーンのような楽器の低音の号砲が入りますが、今度はびしっと入ります。それにしてもボルイのバスは朗々として見事。天地創造のバスは曲の印象に大きく影響するだけに、この図太く朗々としたボルイのバスは素晴らしい。第24曲はウリエルのアリア、今度はホルムは表情豊かな歌を聴かせます。そして第26曲から第28曲までの第二部のクライマックスへの合唱、三重唱、合唱の流れ。マルケヴィチによるコントロールは前にも触れたとおりメロディーの線を浮き彫りにするような作曲家視点のコントロール。音量で迫力を演出するということではなく、曲の構成をすべてつまびらかにするようなアプローチ。最後のハレルヤの盛り上がりは素晴らしいものがあります。

そして最後の第三部。有名な第30曲、第32曲のアダムとエヴァのデュエットは、マルケヴィチの刻むようにゆっくりとしたテンポに乗って、ゼーフリートとボルイのまさに至芸。二人の体を通して響いてくる声の余韻に酔いしれます。そして最後の第34曲は、終曲に相応しく神々しい合唱とスイッチの入ったベルリンフィルによる峻厳な大音響で始まります。イエスキリスト教会の内部に充満するエネルギーが伝わってきます。最後は壮麗なソロ、オケ、合唱の響きが教会にこだまして終了。素晴らしい演奏でした。



マルケヴィチの天地創造は、ゼーフリートとボルイの絶唱にささえられた、素晴らしいものでした。情に流されないマルケヴィチのコントロールが見事。もちろん評価は[+++++]。これは素晴らしい演奏。モノラルが気にならなければすべての人にお勧めしたい名盤という位置づけでしょう。ゼーフリートもほれぼれするような素晴らしい歌。もちろんゼーフリート好きな方には必聴のアルバムです。

今日はこれから実家に出掛けて飲みです。平日更新できないことも多いので帰ってからもう一枚くらい取り上げたいのですが、果たしてその余裕が残っているでしょうか。
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