トリオ・ヴァンダラーのピアノ三重奏曲集

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前から発売されていたものが廉価盤となって再発されたもの。トリオ・ヴァンダラー(Trio Wanderer)の演奏するハイドンのピアノ三重奏曲を収めたアルバム。収録曲は43番(Hob.XV:27)、44番(XV:28)、45番(XV:29)、39番(XV:25)の4曲。ピアノ三重奏曲の名曲集という感じですね。収録は2001年、スイスの名音響として知られるラ・ショー・ド・フォンの音楽ホールでのセッション録音。ラ・ショー・ド・フォンはベルンの西、フランス国境のすぐそばの街。
トリオ・ヴァンダラーはパリ国立音楽院の出身の3人のフランス人音楽家によって作られた三重奏団。名前を直訳すると放浪者三重奏団ですね。このアルバムを取り上げたのは、CDプレイヤーにかけてすぐに素晴らしい緊張感と濃い音楽が流れてきたからに他なりません。名演の予感がします。
ハイドンのピアノ三重奏曲全集のファーストチョイスはやはり、ボザール・トリオなのは疑いのないところ。PHILIPSの素晴らしい録音とゆったりとしながら音楽の感興を伝える名演奏です。このトリオ・ヴァンダラーの演奏は現代楽器の演奏ゆえ、ボザール・トリオの演奏との違いも聴き所ですね。
共通するのは現代楽器による早めのテンポによるキビキビ感溢れる演奏。ラ・ショー・ド・フォンでの録音らしい、素直に減衰する美しい響きと楽器の透明感。2001年の録音ですが、音はほれぼれするような素晴らしい録音。解像感とリアリティと残響のバランスという点でこれ以上の録音は難しいのではないかと思わせる完成度。自宅にトリオが出現したような素晴らしい録音です。
まずはXV:27から。この曲はピアノ三重奏を収めたアルバムでは冒頭を飾ることが多いですね。
冒頭からピアノの素晴らしい輝き、ヴァイオリンとチェロの伸びのある音響に魅せられます。速めのテンポで活力溢れる演奏。ピアノが主導権をもってヴァイオリンとチェロとのフレーズの掛け合いを聴かせますが1楽章から火花散る展開。速めのテンポながら緩めるところはしっかり緩めてメリハリも十分。3人のアンサンブルの息もピタリと合ってピアノの仕掛ける掛け合いに見事にヴァイオリンとチェロが応じています。爆走するピアノにヴァイオリンとチェロが見事についていっています。
2楽章のアンダンテは、ヴァイオリンが主導権を握ろうとして穏やかな表情のなか、絶妙に美しいフレーズを奏でますが、途中からピアノの迫力が増し、完全に主導権を奪われてしまいます。それだけピアノの表情が豊かなことが印象に残ります。この楽章のメロディーの美しさが引き立つのは終盤、奇跡的な美しさを聴かせます。
3楽章はふたたびピアノが火を噴くような鮮烈なリズムを刻みながら入ります。すばらしい快速テンポ。この楽章のピアノのキレは恐ろしいほど。何かが乗り移っているような圧倒的な存在感。ヴァイオリンもそれに応えてトランス状態寸前。響きのカオスのごときすばらし盛り上がりを見せて終了。圧倒的な迫力、まいりました。
つづいてXV:28。前曲の興奮さめやらぬ中始まります。
冒頭から、やはり素晴らしい興奮。ヴァイオリンのピチカートの音色がアクセントになって曲の面白さが引き立ちます。相変わらず美しく抜群にキレたピアノの存在が圧倒的。途中から大波のように盛り上がるフレーズがこの曲のアクセントになっていることがわかります。よく聴くとピアノはキレばかりではなく非常にデリケートなニュアンスも表現していて、その表情の多彩さがこのアルバムの支えになっていることがわかります。
2楽章はアレグレットで弦の伴奏を従えたピアノのソロという感じから入り、冒頭からビアノの圧倒的な存在感。途中から掛け合いになりますが、ピアノ優位の構図は変わらず。
フィナーレは一転して抑えてリズムの面白さを静かに表現する展開。抑えを見事に表現するあたりにこのトリオの実力の高さを感じます。終盤の絶妙な休符と抑制、見事です。
つづいてXV:29。
がらっと曲想が変わって、弦の存在感が増します。今度はピアノが伴奏にまわって弦がメロディーラインを握ります。ここまで来て気づいたんですが、明らかに録音のバランス上チェロが下がった感じなんですね。もう少しチェロのマイクの音量を上げてもいいですね。後半からピアノの右手のきらめくような輝きの美しさが際立ち、響きも洗練度を高めます。
2楽章はこの世のものとは思えない夢見心地のような美しいメロディーから入ります。何でもないメロディーなんですが、ピアノとヴァイオリンの織りなす精妙なメロディーは途中にちょっとした転調などを折りまぜ、ゆったりと天にも昇るような不思議な上昇感。
間をおかずに3楽章に突入。ちょっとアクセントつけるように溜めを効かせてたフレーズを象徴的に混ぜてメリハリをつけます。素晴らしい推進力。ここでもチェロはあくまで控えめ。最後はピアノのクッキリしたアクセントの魅力を楽しみつつ終了。
最後はXV:25です。有名なジプシー・ロンド。この曲も一度聴いたら忘れられない特徴的な曲。
冒頭から高音の特徴的なメロディーが美しい曲調。演奏によっては単調に聴こえる冒頭部ですが、流石の表現で曲の書かれた意図を浮かび上がらせるようなデリケートな表現。この曲に至ってチェロのバランスがようやく正常なものに。チェロのシンプルながら興味深いメロディーラインが浮かび上がります。この曲で印象に残るのはピアノの軽やかさ。相変わらずキレは抜群なんですが、この軽やかさを表現するのは非常に難しいのではないかと思います。
2楽章のポコ・アダージョ、ハイドンらしいゆったりとしたなかにもほの暗い明るさと言うか、光と影の交錯する絶妙のメロディーをテンションを下げたピアノとヴァイオリンが交互に引き継いで演奏していきます。時折暗闇に一筋の光がさすような一瞬の輝きが曲の情感の深さを浮き彫りにします。この楽章のピアノは力感を抑えてメロディーの美しさを表現する秀逸なもの。
3楽章はこのアルバムの総決算のようなキレ。有名なジプシー・ロンドをキレと溜もつかって早めのテンポで圧倒的な推進力の演奏。最後は余裕を感じさせるフィニッシュ。この曲も手に汗握るスリリングな演奏でした。
着いたばかりのアルバムでしたが、その演奏は抜群の出来。現代楽器によるハイドンのピアノ三重奏曲の演奏では最近一押しと言っていい出来です。若干チェロが大人しいといえますが、ピアノとヴァイオリンの掛け合いと全演奏を貫くスリリングな緊張感は抜群。そして録音もラ・ショー・ド・フォンの素晴らしい響きが堪能できます。これらの演奏の評価は全曲[+++++]。ピアノ三重奏曲を初めて聴く人にもおすすめの素晴らしい演奏です。「ハイドン入門者向け」タグも進呈です。
こうゆう出会い頭に衝撃を受けるような演奏があるので、コレクションはやめられませんね。今日も一杯飲みながら素晴らしい音楽を楽しめました。最近平日は仕事が忙しくゆっくり音楽を楽しむ余裕がないだけに、のんびり音楽を楽しむだけでも幸せです。
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