作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】マンフレート・フスの交響曲集

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皆様、あけましておめでとうございます。
新年最初に取り上げるアルバムは、ハイドンの初期の交響曲3曲を集めたアルバム。

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HMV ONLINEicon

ただし、ただの交響曲集ではなく、ハイドンがオペラの序曲として書いた曲を交響曲に転用した曲をあつめた、いわゆる企画ものです。
収録曲と作曲年、元の曲は次のとおり。
交響曲50番(1773年)マリオネットオペラ「フィレモンとバウチス」の序劇「神々の怒り」(1773年)序曲を転用
交響曲12番(1763年)イタリア語オペラ「アチデ」(1762年)序曲を転用
交響曲60番(1774年)ドイツ語演劇「迂闊者」(1774年)の音楽を転用

演奏はハイドン復興に力を注ぐマンフレート・フス(Manfred Huss)指揮のハイドン・シンフォニエッタ・ウィーン。録音は交響曲50番と12番がが2008年5月~6月、オーストリアグラーツ南部の街シュトラーデンのフローリアン教会、交響曲60番が2009年1月、オーストリアウィーン南部の街ライヒェナウ・アン・デア・ラックスのライヒェナウ城での録音。何れもセッション録音のようです。レーベルはKOCH SCHWANNレーベルからフスの全録音ごと引き取ったスウェーデンのBISレーベル。このアルバムは昨年9月の発売ですが、気づかず未入手だったものHMV ONLINEに発注して年末に入手したもの。

フスのハイドンはこれまで3回取り上げていますので記事のリンクを張っておきましょう。

ハイドン音盤倉庫:アリアの洪水!
ハイドン音盤倉庫:マンフレート・フスのオペラ序曲集
ハイドン音盤倉庫:マンフレート・フスのオペラ序曲集2

1曲目の交響曲50番は年末にブルーノ・ヴァイルの演奏を取り上げたばかりですね。同じ古楽器による演奏、ヴァイル盤との比較も楽しみの一つ。50番の解説はヴァイル盤の方をご覧ください。

ハイドン音盤倉庫:【年末企画】ブルーノ・ヴァイルの交響曲50番、64番、65番

50番の1楽章は、静寂からティンパニとともに大迫力のオケの劇的な導入。ハイドン・シンフォニエッタ・ウィーンのいつもキレもノリも良いオケの響き。ヴァイオリンのおとが若干金属っぽい響きがするのがこのオケの音色の特徴でしょうか。旋律の流れをメリハリが圧倒する演奏。リズムがキレまくってます。オペラの序曲からの転用ならでは劇的な展開。
2楽章はあっさりと抑えた演奏。古楽器の雅な音色で聴くハイドンのアンダンテ。途中からティンパニも加わるメリハリのついた曲調に変わり、迫力が増します。
3楽章のメヌエットは迫力を感じるものの規律を残して八分の力でこなしているよう。メヌエットそのものに対する指揮者の捉え方と全体設計の中でのメヌエットの対比上の効果を考えてのことでしょう。
フィナーレは速めのテンポで一気にまくしたてます。徐々にエネルギーを増すオケの響き、強奏時のティンパニと金管のアクセントが演奏を引き締めます。

この曲、ヴァイルの演奏も素晴らしかったですが、フスの演奏も甲乙付けがたいすばらしさです。どちらかというとフスの演奏は古楽器オケにおける力感の表現に、ヴァイルは古楽器オケの域をこえた全体の構成とフレージングに気を配った演奏といえると思いますが、どちらの演奏にも共通するのが抜群の迫力と生気。ハイドンのこの時期の交響曲の演奏に不可欠な要素ですね。

つづいて交響曲12番。こちらはハイドンが副楽長時代の1763年と他の2曲よりだいぶ前の作曲。3楽章構成です。フスは原曲の「アチデ」を世界初録音した当事者だけに思い入れも一入でしょう。
1楽章は郷愁溢れる弦のメロディーに聞き惚れる間もなくリズミカルなオケの入り。ハイドン初期の交響曲にみられる郷愁に溢れたメロディーを起点に展開するシンプルな構成の曲。導入部を繰り返して、低音弦が活躍する展開部。間もなく最初のメロディーに戻り1楽章を閉じます。
2楽章はうら悲しいメロディーが心を打ちます。叙情に溺れることなく淡々と古楽器の雅な音色で聴かせます。
3楽章は美しいメロディーをただ奏でるだけの力感とは無縁の世界に入ります。ただ音符に誠実に弾くという単純なことがなかなか出来ないことを思い知らせる自然な演奏。演奏中に欲と決別したような割り切り。
この曲の演奏はフスの得意な祝祭感溢れる迫力の演奏ではなく、力をぬいて音符に任せる、いつものフスとは少し違った面を感じさせてくれました。

最後は交響曲60番「迂闊者」。こちらは1曲目の交響曲50番の1年後の1774年の作曲。他の2曲は原曲が知られていますが、この曲の元となったドイツ語演劇「迂闊者」に関する録音は私の知る限りリリースされていないと思います。この曲はご存知のとおり6楽章構成。この曲の解説は前に記事にしてありますのでそちらもご覧ください。

ハイドン音盤倉庫:デヴィッド・ブラムの交響曲集

前2曲とは時と場所を変えての録音。こちらの方が録音の鮮度と響きの調和がよく、聴き応えがあります。
1楽章から熱狂の渦のような素晴らしい力感。速めの速度とフス独特の鮮度抜群の畳み掛けるアクセントが効果的に効いて素晴らしい高揚感。
2楽章は落ちついた展開に変わりますが、フレーズの呼吸が深く、ヂュナーミクの幅もより大きくなっています。50番の2楽章でみられた流すようなあっさりしたものとは明らかに異なり、フレーズにクッキリとしたメリハリを加えて、より濃い演出。今までのフスの演奏から、明らかに一歩踏み込んだ感があります。この演奏が一番最近の録音であることを考えると、表現が進化しているように伺えます。
3楽章はメヌエット。こちらも50番のメヌエットよりも表現意欲が上がっているように聴こえます。最初と最後の舞曲の部分よりも中間部の表現の充実が目立ちます。
4楽章は通常の交響曲でいうフィナーレにあたりますし、曲調もこの曲で終わってもおかしくない曲調。にぎやかな曲調を古典の格調を保ちながらすばらし突抜け感で演奏。これは見事。
5楽章は4楽章から間をおかず安らぎにみちたメロディーに移ります。途中に行進曲風のトピックをはさみふたたび美しいメロディー。演劇用音楽を転用したものとうなづける曲調。
6楽章は調律をする部分がふくまれたりコミカルな要素を含むどんちゃん騒ぎ的展開。こちらも古典的な節度とお祭り感のバランスが見事。

このアルバムに含まれる曲の評価は、結局全曲[+++++]としました。ただし、それぞれの曲ごとに聴き所がことなります。50番はこれまでのフスの演奏から期待される、ライヴ感と言うかオペラの幕があくざわめきのようなものを感じる演奏。12番は力の抜けた非常に完成度の高い演奏。そして最後の60番は、フスの新境地、一歩踏み込んで今までのフスよりも表情を濃くつけて、踏み込んだ表現というところ。

企画ものという意味でも素晴らしいアルバム。ハイドンのことを熟知したフスならではの視点でしょう。何れの曲もハイドンが劇場のために書いた曲から感じられるドラマを感じられます。古楽器によるハイドンの交響曲のおすすめ盤として多くの人に聴いていただきたいアルバムです。
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