アンタル・ドラティ/ロイヤル・フィルの「トビアの帰還」

今日はお休みの日でもなければ取り上げられない3枚組の大作を。年末にふさわしい祝祭感も満点です。

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ハイドンの最初のオラトリオ「トビアの帰還」です。アンタル・ドラティ(Antal Dorati)指揮のロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団。合唱はブライトン・フェスティバル合唱団。ソロはソプラノがバーバラ・ヘンドリクス、リンダ・ゾーバイ、デッラ・ジョーンズの3名、テノールはフィリップ・ラングリッジ、バスはベンジャミン・ラクソンの5名。演奏は1979年12月、ロンドンのキングスウェイ・ホールでのセッション録音。

手元のアルバムは最近手に入れた珍しく国内盤。帯にはハイドン没後200年記念と記されていることから2009年に発売されたものでしょう。帯に同時に発売された本盤を含む10組のアルバムの紹介がありますが、ユニバーサルクラシクスがDECCAのマークを冠してリリースする定番アルバムでしょう。ショルティのザロモン・セット、コープマンなどによる協奏曲集、タカーチ四重奏団の弦楽四重奏曲、ボザールトリオのピアノトリオ全集、ドラティの天地創造、四季、アメリングとデムスによる歌曲など、名盤ぞろいのシリーズ。そのシリーズに「トビアの帰還」を入れるということは、よほどの出来との想像も働きます。私も手元には好きなシュペリング盤がありますが、全曲通してしっかり聴いたことはないんですね。3枚組は迫力です。天地創造のようによく知った曲でもやはり家で聴くのは2枚組でも長いですね。

せっかくなので、曲の成り立ちを調べて紹介しておきましょう。いつもの大宮真琴さんの「新版ハイドン」やら中野博詞さんの「ハイドン復活」を紐解きます。作曲は天地創造のおよそ20年も前の1774年から75年にかけて。大量のバリトン・トリオやシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲の作曲が一段落した頃。

トビア書にもとづくイタリア語オラトリオで、ウィーン音楽家教会のために作曲されたもの。エステルハージ家のためのものではないんですね。この協会は、作曲の4年前の1771年に設立され、毎年四句節と待降節にイタリア語オラトリオを演奏し、収益金を音楽家の寡婦と孤児の救恤(きゅうじゅつ)にあてていたとのことで、今でいうチャリティー目的で作曲したものなのでしょうか。歌詞は作曲家ボッケリーニの兄ジョヴァンニ・ガストーネ・ボッケリーニの作。1775年に初演されて以降、1784年に再演される際にアリアを短縮したり、レシタティーヴォに手を加えるなどの改作がなされたとのこと。

全体の構成は序曲と2部構成。初めてちゃんと調べて聴くので、今日は丁寧に紹介しておきましょう。

トラック1:シンフォニア
序曲は短調の悲痛な響きで始まり、ドラティらしい引き締まった響きの推進力抜群の主題に移ります。素晴らしいオケの充実感。この序曲の音楽の充実ぶりは図抜けてます。達筆の楷書のようなドラティのコントロールによる最良のサウンドが再現されていますね。生気漲りまくりです。

第1部
第1曲から第9曲までが第一部。イタリア語ということもありオラトリオというよりオペラのような展開。

トラック2:合唱「お慈悲を、お慈悲を、不幸な女に」(アンナ/トービト/ヘブライ人たち)
冒頭からアンナとトービトの艶やかな声とコーラスの美しいハーモニー。オケの美しい響きにライトン・フェスティバル合唱団の分厚いコーラスが加わり素晴らしい迫力。録音は年代並みですが実体感溢れるデッカサウンド。キングスウェイ・ホールの美しい音響も寄与しているのでしょう。

トラック3:レシタティーヴォ「あの子は現れません、神様!」(アンナ/トービト)
さざ波のように漂うオケの伴奏に乗ってアンナとトービトの掛け合い。台詞の部分の美しさもピカイチ。

トラック4:アンナのアリア「戦士は汗をかいたが、栄光を手にしました」(アンナ)
突き抜ける青空のような清透なオケの伴奏に乗って、デッラ・ジョーンズの名唱。アルトに近い低い音の響きが美しい歌声。それしてもオケの力漲る響きの美しいこと。冒頭部分の聴かせどころのひとつでしょう。ドラティの解釈の凄いところはこのフレージング以外はあり得ないとしか思えない完成度の高いコントロール。一部の隙もない完璧な演奏。

トラック5:レシタティーヴォ「どうか悲しみを和らげてくれ」(トービト) アリア「ああ、神よ、私の言葉に耳をお貸しいただきたい」(トービト)
バスのレシタティーヴォからアリア。ラクソンは高音に輝きがある柔らかい声。アリアに入るとぐっと落ち着いた表現による濃い音楽が流れます。

トラック6:レシタティーヴォ「あれは傭人のアザリーアでは」(アンナ/ラファエッレ)
ようやくラファエッレのバーバラ・ヘンドリクス登場。デッラ・ジョーンズのふくよかな声に対し、キリッとした軽い声が心地いいですね。レシタティーヴォにも関わらずオケの響きは相変わらず極上。実体感も残響もハーモニーも完璧ですね。

トラック7:アリア「アンナ様、お聴きください」(ラファエッレ)
これまた突抜ける青空を思わせる清透なオケの序奏に乗って、ラファエッレの天地をつんざくような高音から入るアリア。ヘンドリクス絶唱です! オペラの名場面のようなソプラの高音が転がる素晴らしい曲。

トラック8:レシタティーヴォ「何といいました? 私の息子が」(アンナ)
ふたたびデッラ・ジョーンズのふくよかな声にバトンタッチ。

トラック9:アリア「ああ、偉大な神様、感謝を知らぬ心を」(アンナ)
アンナの情感溢れるアリア。ここまで聴く限りアリアの洪水のような曲。純粋に歌を楽しむという意味では素晴らしい曲だと思います。美声の響宴とそれを支えるハイテンションのオケ。

トラック10「ああ、偉大なる神よ、御身ただお一人が御身のような方」(合唱)
壮大な合唱曲。祝祭感も極まります。この曲が寡婦と孤児のために書かれたことを知るにつけ、この曲の音楽的完成度の素晴らしさが胸を打ちますね。

トラック11:レシタティーヴォ「サーラ、私の愛する妻よ」(トビア/サーラ)
ようやくテノールのトビア登場。

トラック12:アリア「私に暗示に満ちた教えを」(トビア)
14分以上もかかる長大なアリア。非常にデリケートにコントロールされたオケの伴奏に乗って、テノールのラングリッジの優しい声による幸福感に満ちたメロディー。時間のせいか眠気をさそいます。

CD-2
トラック1:レシタティーヴォ「御身に心からの感謝を捧げます」(サーラ)アリア「愛する夫の家に・・・・私はおります」(サーラ)
最後に登場したリンダ・ゾーバイのサーラ。中音域の芯のしっかりした、ちょっと癖のある声ですが、転がるような音階の表現は見事。アリアの伴奏の弦楽器、特にヴァイオリンのキレは最高。これ以上美しいオケはないほどの完成度。何と美しい曲なんでしょう。CDを変えたとたん素晴らしい幸福感に襲われる素晴らしい曲。天地創造や四季、そして十字架上のキリストの最後の七つの言葉などにみられるオラトリオの襟を正すべき神々しさとは異なり、何処までも美しいアリアの洪水を楽しむべき曲という位置づけですね。

トラック2:レシタティーヴォ「神にあられてはあなたさまに夢で真実を明かそうと望まれました」(ラファエッレ/トービト/サーラ/アンナ/トビア)
1部も終わりに近づき全員によるレシタティーヴォ。

トラック3:合唱「我らの声を聴き給え」(ヘブライ人たち/トビア/アンナ/トービト/サーラ/ラファエッレ)
そして第1部のフィナーレは、祝祭感が突き抜けます。分厚いコーラスとキレまくったオケの至福のメロディーからはじまり、次々にソロが絡んでいきます。途中からオケはリズムを刻む伴奏に徹して、ソロに観衆の感心を集中させます。最後はフーガのような展開になって各声部が複雑にからまって天上に至る階段を登るがごとき展開。最後は厳かな和音で終了。

いやいや、いままで突っ込んで聴いてきませんでしたが、この曲は名曲ですね。まるでロッシーニの曲を聴くようにアリアに打たれます。

まだ第一部だけですが、丁寧に書いていたら長くなってしまいましたので、記事を分けることに。読まれて解るとおり、評価は[+++++]です。明日残りを書いて、12月のHaydn Disc of the Monthを発表することにしましょう。

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tag : トビアの帰還 おすすめ盤

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ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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