作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【年末企画】リンゼイ四重奏団の弦楽四重奏曲Op.20「太陽四重奏曲」

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今日は弦楽四重奏曲の最高傑作、Op.20の名盤を。

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今日は弦楽四重奏曲Op.20から、前半の3曲である、No.2、No.5、No.6を1枚のCDに収めたアルバム。演奏はリンゼイ四重奏団。英語ではThe Lindsaysと書くんですが、日本ではリンゼイ四重奏団と訳されることが多いですね。

年末企画でなぜこのアルバムを取り上げたかというと、私はハイドンの弦楽四重奏曲の中でもとりわけ好きなOp.20のNo.5を聴くと、この暗い響きに漲る生気の中に、第九と同様、なぜか年の瀬を感じてしまうんですね。この頃特有のほの暗いメロディーと起伏の激しい感情表現、ハイドンの膨大な作品の中でも最も充実している作品の一つであることは間違いありません。

年末企画の種を明かすと、最近作曲年代まで含めて曲を調べていくうちに、1766年にハイドンがエステルハージ家の楽長に就任して以降1772年頃までの、いわゆるシュトルム・ウント・ドラング期の深い情感に溢れた曲を集中的に取り上げようと思うに至った次第。昨日は声楽曲でしたので、今日は室内楽の最高傑作を年の瀬に楽しんでいただこうと言う趣向です。

このOp.20は、作曲はシュトルム・ウント・ドラング期の頂点となる1772年の作曲。同じ年に交響曲では45番「告別」が作曲されています。

リンゼイ四重奏団はイギリスの四重奏団で、創立は1965年で惜しくも2005年に解散しています。ヴァイオリンはピーター・クロッパー(Peter Cropper)、ロナルド・バークス(Ronald Birks)、ヴィオラがロビン・アイルランド(Robin Ireland)、チェロがベルナルド・グレゴール=スミス(Bernard Gregor-Smith)の4名。この四重奏団は設立当初は第1ヴァイオリンのクロッパーの名を冠してクロッパー四重奏団と名乗っていたようですが、1967年からイギリス中部のニューカッスル近郊のキール大学の教職につき、1970年にその大学の創設者であるロード・リンゼイ(Load Lindsay)の名をとってリンゼイ四重奏団に改名したとのことです。

リンゼイ四重奏団のハイドンは一時NHKでもDVDの映像が何度か繰り返し放送されていたので、ご覧になった方も多いかもしれません。ドイツの名ゴールキーパー、オリバー・カーンによく似たいかつい顔のピーター・クロッパーが非常にデリケートでかつ力強いヴァイオリンを奏でるのはちょっとミスマッチですが、私はこのクァルテトの演奏が妙に気に入ってしまい愛聴しています。

このアルバムは、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.20のうちNo.5を含む3曲を収めた1枚もの。録音は1998年6月9日~11日、イギリス中部の街,マンチェスター近郊のウェントワースの聖三位一体教会での録音。

まずは、Op.20のNo.2。チェロの明るい音色よって奏でられる晴朗なメロディーラインに次々とヴァイオリンやヴィオラが音を重ねて入るいつ聴いても素晴しい1楽章のはじまり。リンゼイ四重奏団の演奏は非常に素朴な音色が特徴的。メロディーの線をクッキリ出すようなアルバン・ベルクの演奏とは異なり、各楽器の自然なデュナーミクの織りなす人のぬくもりを感じるアンサンブル。好き嫌いはあると思うんですが、私はだいぶ刷り込まれましたので、非常に自然に感じる訳ですね。
2楽章は、非常に印象的で激しい表現を含むメロディー。激しい部分の力強さと、音量を抑えた部分の精妙さが聴き所です。音量差の付け方ががかなり大胆で、それゆえ抑えた部分の美しさがより強調されます。
3楽章のメヌエットは少し細身の表現。繊細な表現のメヌエット。
フィナーレも非常に抑えた音量から入って、かなりのところまで抑えたまま進みます。クァルテットながら最後に爆発してビックリ。

Op.20のNo.5。今日のメインディッュ。1楽章冒頭のこの旋律を何度聴いたことでしょう。アンサンブルが完璧にそろっている訳ではないんですが、不思議と精妙に聴こえます。音楽のツボを押さえたアンサンブルとはこのことでしょう。弦楽四重奏曲を聴く楽しみが凝縮した展開。一人一人の弦の旋律の重なりとハーモニーを堪能。クロッパーをはじめとする各奏者の抑揚が手に取るようにわかる演奏。途中から明らかに荒々しさを増して表現の幅を広げます。1楽章は至福の時間ですね。
この曲は2楽章がメヌエット。メロディーを聴き慣れてしまったので特段の違和感はありません。つづいて3楽章にアダージョがおかれますが、不思議とメヌエットの後のアダージョの入り方は、普通とは異なるイメージを感じます。このアダージョも弦4本とは思えない豊かな曲想。それぞれの弦楽器の表現に耳を傾けながらハイドンの時代に想いを馳せる、これまた至福の時間。今日は至福率高いです(笑)
フィナーレは不思議なメロディーにもとづくフーガ。曲の終わりにおかれたフーガはなにか永い時間の無情さを表すような不思議な詩情を醸し出しますね。この曲も押さえた入りから、最後に振り切れた強奏の余韻が消え入るところを楽しめます。

Op.20のNo.6。前曲とは異なり、少々コミカルな入り。同じ曲集の中の曲ごとの書き分けは見事ですね。1楽章の明る旋律もクァルテットを聴く楽しみの一つ。弾む弦の音色とリズム。
2楽章はハイドン特有のシンプルながら味わい深い旋律。規則正しいリズムにのって奏でられる素朴なメロディー。途中ヴァイオリンの音がジャンプして高い音に移るところはこの曲の最も美しい瞬間でしょう。この曲を傑作と呼ばずにどの曲を傑作と呼べましょうか。室内楽を聴く悦びが凝縮された素晴しい時間。
3楽章のメヌエットは軽いタッチを強調。前楽章からつづく興奮の余韻をさっぱりさましてくれるような小粋なメヌエット。
こちらも最後は抑えて進めるフーガ。前楽章の濃い表情に負けないフーガの構成感。ただし、この曲では抑えたまま静かにおわるという変化球。なかなかやります。

評価はもちろん全曲[+++++]です。おそらく個性的なアプローチの範疇に入るであろうリンゼイ四重奏団の演奏ですが、太陽四重奏曲をしゃぶり尽くすような深い表現意図があることは間違いないです。

ハイドンの弦楽四重奏曲の最高傑作を楽しむには絶好のアルバムです。
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