作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ブリュッヘンの十字架上のキリストの最後の七つの言葉(ハイドン)

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今日はフランス・ブリュッヘンのアルバムを。

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ハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」の管弦楽版(XX:1)。演奏はフランス・ブリュッヘン(Frans Brüggen)指揮の18世紀オーケストラ。録音は2004年の11月、オランダのユトレヒトとライデンでのライヴから制作。レーベルは最近ブリュッヘンの録音をぼちぼちだしているスペインのGROSSA。

この曲は、ハイドンがモーツァルトからハイドン・セットの献呈を受けた1785年の作曲。ハイドン唯一の管弦楽曲と言われています。1787年の復活祭の前週の聖週間にスペインのカディスで初演され、同年にアルタリア社から楽譜が出版されたが、同時に弦楽四重奏版(III:50-56)も出版され、1801年にブライトコップからオラトリオへの編曲版が出版されたようです。

この曲についてはWikipediaがそこそこ詳しいので、リンクを張っておきましょう。

Wikipedia:十字架上のキリストの最後の七つの言葉

この演奏の管弦楽版は、ブリュッヘンの意図でオランダ系アメリカ人作曲家のロン・フォード(1959-)に器楽による「間奏曲」の作曲を依頼して補ったもの。この「間奏曲」の効果によって、曲感の神秘的な感じ、現代音楽のような峻厳さが加わり、通常の演奏とは異なる迫力ある雰囲気に仕上がっています。

序曲(Introduction)は分厚い音色の古楽器が厳かな感じで入ります。ブリュッヘン特有のざらついたオケの分厚い響きが、厳かな感じをもり立てます。

第1ソナタ 「父よ!彼らの罪を赦したまえ」 Largo
荘重な中にも少し軽やかな低音弦の規則的なリズムに乗って、主題が展開します。厚みのある響きで奏でられるメロディーは若干重めの息の長いフレージングでまとめられたいます。ブリュッヘンのコントロールは色気というより構成感と重厚な音色で聴かせる感じ。この曲は後半に行くにしたがって音楽の上昇感も感じる宗教曲独特の展開。

ここでロン・フォードの間奏曲。鏡に映ったドッペルゲンガーを見るような現代音楽的間奏曲。この間奏曲の存在によって、一気に神秘的な雰囲気が高まります。

第2ソナタ 「おまえは今日、私と共に楽園にいる」 Grave e cantabile
ソナタ1に続きテンポはかっちり揺るぎない設定。2分40秒過ぎのあたりの弦楽器のフォルテッシモ、ブリュッヘン独特の分厚い弦楽器の迫力。途中から赤く焼ける夕焼けの空を思わせる、郷愁を誘うようでも峻厳さを保ったメロディーが緊張感ある美しさを演出。

ふたたび、冷徹な響きの間奏曲。ぞくっとしますね。

第3ソナタ 「女性よ、これがあなたの息子です」 Grave
間奏曲と美しいメロディーの寄せては返す波のような展開。この間奏曲の効果はすばらしいものがあります。この曲で最も美しいトラック。多くの演奏が劇画タッチというか、感情表現を表に出してしまい少々演出過剰な展開になりがちですが、ブリュッヘンのコントロールは理性を保って、かえって美しい心情表現に成功しています。
間を十分にとった詩的な表現もいいですね。

続く間奏曲はリゲティのような響き。空を表現しているよう。

第4ソナタ 「わが神よ!何故私を見捨てたのですか?」 Largo
ますます落ち着き、呼吸が深くなるオーケストラ。ブリュッヘンのコントロールも表現の幅が少しずつひろがっていっている感じですね。

またまた、きわめて不安定な響きの間奏曲。

第5ソナタ 「渇く!」 Adagio
ピチカートの伴奏にのったのどかなメロディーから始まり、切々としたヴァイオリンとチェロとの掛け合いに移り、ふたたびのどかなメロディー、そして大胆な刻みの展開部に。

高音部の透明感を強調した間奏曲。

第6ソナタ 「果たされた!」 Lento
曲の終盤の美しいメロディーの聴かせどころ。弦のうら悲しいメロディーから入り、木管につなぎ、慈悲に満ちたやさしい弦の主題に。この主題の変奏の展開が聴かせどころ。再び優しい弦の主題。ブリュッヘンの指揮は安定感抜群。

繰り返される鏡像としての間奏曲。

第7ソナタ 「父よ!あなたの手に私の霊を委ねます」 Largo
最後のソナタは、弱音のつぶやくような表現をまじえて、訥々と語っていきます。最後は消え入るように。

地震 Presto e con tutta la forza
1分半ほどの終曲は激しい曲。ブリュッヘンの面目躍如。18世紀オーケストラフル回転。打ちなされるティンパニとくだけ散る金管、弦は松ヤニ飛びまくりといった様相。祈りの音楽の最後に激しい地震を音で表現した終曲をもってくるあたり、素晴しい展開ですね。

ソナタの間に朗読が入るバージョンがあったり、この曲の演奏スタイルはいろいろありますが、ブリュッヘンの選んだ現代音楽による間奏曲というアイデアは大成功でしょう。
古い名建築を、保存のみならず現代建築家が現代のデザインを加えて本質的な修復をして建物の価値を現代によみがえらせるのと同様、ハイドンの英知を現代の英知と対比させることによって浮き彫りにしています。

これは見事な企画という他ないでしょう。もちろん評価は[+++++]。ブリュッヘンが感情を直接表現せず、理知的にコントロールを利かせているのも効果的ですね。
交響曲の演奏では今ひとつ生気に欠ける演奏が多いブリュッヘンですが、この演奏は見事ですね。
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