【新着】ルイージ四重奏団のOp.9のNo.4、Op.20のNo.5(ハイドン)
大変ご無沙汰しております。
諸事忙しくしており、前記事から1ヶ月半以上あいてしまいました。この間、音盤収集活動はもちろん熱心に(笑)続けており、久々にグッと来たアルバムに出会いましたので記事を書き起こしました。

TOWER RECORDS / amazon
ルイージ四重奏団(Ruisi Quartet)による「大きな家(Big House)」というアルバム。この中にハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4とOp.20のNo.5が含まれています。収録は2021年4月20日から22日にかけて、英オールドバラ(Aldeburgh)の元ウィスキー醸造所であったスネイプ・モルティングス・コンサートホール(Snape Maltings Concert Hall)でのセッション録音。レーベルは独PENTATONE。
アルバムタイトルは”Big House”という一風変わったものですが、これはこのアルバムに含まれている現代作曲家オリヴァー・リース(Oliver Leith)の作品名。
収録されている曲は、ハイドンの Op.9のNo.4に始まり、英初期バロックのマシュー・ロックのファンタシー、オリヴァー・リースのファンタジーとアルバムタイトル曲、そしてハイドンのOp.20のNo.5で締めくくるバロックから古典、現代を俯瞰するように曲が並びます。
アルバムのコンセプトはまさに歴史を俯瞰する選曲のユニークさにあろうかと思いますが、私が目をつけたのは、その中でも数多いハイドンの弦楽四重奏曲からこの2曲が選ばれたというこのクァルテットの選曲眼の鋭さにあります。
このアルバムに含まれるハイドン曲はハイドンの創作の第一の絶頂期であるシュトルム・ウント・ドラング期に書かれた作品で、しかもこの時期特有の憂いに満ちた短調の名曲。しかもOp.20のNo.5はこの頃の代表作なので選ばれる理由がわかるんですが、Op.9のNo.4の方は、「これを選ぶとは!」と多少の驚きを覚えたほどの絶妙なセレクト。しかもこの曲を冒頭に持ってくるキレキレのセンス。
タワレコの新着アルバムの中からこのアルバムを見つけ、曲目リストを見た途端、これはいけるに違いないと確信を持ってポチった次第。
その他諸々のアルバムとともにすぐに到着して、聴いてみるとポチった時に感じた霊気のようなものは本物でした!
ルイージ四重奏団のメンバーは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:アレッサンドロ・ルイージ(Alessandro Ruisi)
第2ヴァイオリン:オリヴァー・カヴェー(Oliver Cave)
ヴィオラ:ルバ・トゥニクリフ(Luba Tunnicliffe)
チェロ:マックス・ルイージ(Max Ruisi)
このアルバム、ルイージ四重奏団のデビューアルバムのようです。
Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769–70)
ゆったりとしたテンポながら、いきなり曲の憂いの感情の襞をデフォルメするように克明に描いていくただならないアプローチ。現代のクァルテットらしい精妙さも持ち合わせながら、冷徹なドラマチックさを感じさせる表現の幅があります。彼らの演奏スタイルが最も活きる曲がこの曲などだと妙に納得。ハイドンの曲は抑えた表現の方が曲が映える場合が多いのですが、このルイージ四重奏団のアプローチは有無をも言わせぬところがあります。
2楽章のメヌエットも舞曲と言うにはテンポを揺らして、表現も起伏に富んだ演奏ですが凛とした緊張感が漂う良い演奏。続くアダージョ・カンタービレでは第1ヴァイオリンのアレッサンドロ・ルイージのピンと張った澄んだ音色のメロディーが印象的。
フィナーレは4人の奏者がそれぞれ個性的にクッキリと浮かび上がりながら、見事にアンサンブルをまとめる見事な演奏。キレキレです。
この後、マシュー・ロックのファンタジーですが、フーガのような曲で、時代が一気に遡るもののアンサンブルの精妙さは変わらず一貫した演奏。冴えた演奏による時代の描き分け。
つづいてオリヴァー・リースのファンタジー。出だしのハーモニーだけ聴くと前曲と似た雰囲気を感じるんですが、徐々に響きは歪み、現代音楽と気付かされます。なかなか凝った展開。
そしてアルバムタイトルの「大きな家」は7楽章構成で約30分の曲。時に調和し時に微妙に歪む響きの波が一定のリズムで寄せたり引いたりするのを遠望するような曲。終盤笙のような音色が響いたりして聴いているうちに無の境地へ。弦楽四重奏の極北の姿か。
Hob.III:35 String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
響きの波の消え去った静寂に、聴き慣れたハイドンの音楽が戻ってきてほっとします(笑)
冒頭のOp.9同様、ゆったりとしたテンポで克明にメロディーを描いていくスタイル。古典の規律を守った演奏とは異なり、表現を冷静に膨らませて陰影をくっきり浮かび上がらせるのは現代物が得意なクァルテットらしいところ。情緒的とは正反対の峻厳な表現で緊張感を保ちます。
Op.9よりも格段に書法が進化してメロディーのつながりが流麗になったメヌエットは演奏も舞曲っぽく流麗に。演奏のユニークさを狙ったように感じたOp.9に対して、こちらは曲の良さをより素直に表現しているように聴こえます。各奏者の音のエッジがキリッと立っているような極上のアンサンブル。
アダージョはさらに精妙。音程が絶妙に決まっているので透き通るように響くのでしょう。
そして現代音楽のような響きも感じられる静謐なフーガ。ここはハイドンの音楽の崇高さを素直に感じられるよう、コントラストをくっきりつけるだけでオーソドックスにまとめます。絶品です。
ルイージ四重奏団による「大きな家」と言うアルバム。、バロックから現代までを冴えた演奏で俯瞰すると言うコンセプトの面白さはに加えて、冴えた演奏、鮮明な録音と言うことなし。ハイドンの2曲はもちろん[+++++]といたします。
このアルバム、一見アルバムタイトルとなった現代曲がメインディッシュと思われますが、私には、最初と最後にハイドンを置いているのは、弦楽四重奏と言うジャンルを確立したハイドンに対するリスペクトに加え、間に挟んだ古き時代の音楽と混沌とした現代の音楽と対比させて、弦楽四重奏が輝いた古典期の音楽の素晴らしさを際立たせているような構成に見えてしまいます。
ルイージ四重奏団、次のアルバムが楽しみです!
諸事忙しくしており、前記事から1ヶ月半以上あいてしまいました。この間、音盤収集活動はもちろん熱心に(笑)続けており、久々にグッと来たアルバムに出会いましたので記事を書き起こしました。

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ルイージ四重奏団(Ruisi Quartet)による「大きな家(Big House)」というアルバム。この中にハイドンの弦楽四重奏曲Op.9のNo.4とOp.20のNo.5が含まれています。収録は2021年4月20日から22日にかけて、英オールドバラ(Aldeburgh)の元ウィスキー醸造所であったスネイプ・モルティングス・コンサートホール(Snape Maltings Concert Hall)でのセッション録音。レーベルは独PENTATONE。
アルバムタイトルは”Big House”という一風変わったものですが、これはこのアルバムに含まれている現代作曲家オリヴァー・リース(Oliver Leith)の作品名。
収録されている曲は、ハイドンの Op.9のNo.4に始まり、英初期バロックのマシュー・ロックのファンタシー、オリヴァー・リースのファンタジーとアルバムタイトル曲、そしてハイドンのOp.20のNo.5で締めくくるバロックから古典、現代を俯瞰するように曲が並びます。
アルバムのコンセプトはまさに歴史を俯瞰する選曲のユニークさにあろうかと思いますが、私が目をつけたのは、その中でも数多いハイドンの弦楽四重奏曲からこの2曲が選ばれたというこのクァルテットの選曲眼の鋭さにあります。
このアルバムに含まれるハイドン曲はハイドンの創作の第一の絶頂期であるシュトルム・ウント・ドラング期に書かれた作品で、しかもこの時期特有の憂いに満ちた短調の名曲。しかもOp.20のNo.5はこの頃の代表作なので選ばれる理由がわかるんですが、Op.9のNo.4の方は、「これを選ぶとは!」と多少の驚きを覚えたほどの絶妙なセレクト。しかもこの曲を冒頭に持ってくるキレキレのセンス。
タワレコの新着アルバムの中からこのアルバムを見つけ、曲目リストを見た途端、これはいけるに違いないと確信を持ってポチった次第。
その他諸々のアルバムとともにすぐに到着して、聴いてみるとポチった時に感じた霊気のようなものは本物でした!
ルイージ四重奏団のメンバーは以下のとおり。
第1ヴァイオリン:アレッサンドロ・ルイージ(Alessandro Ruisi)
第2ヴァイオリン:オリヴァー・カヴェー(Oliver Cave)
ヴィオラ:ルバ・トゥニクリフ(Luba Tunnicliffe)
チェロ:マックス・ルイージ(Max Ruisi)
このアルバム、ルイージ四重奏団のデビューアルバムのようです。
Hob.III:22 String Quartet Op.9 No.4 [d] (c.1769–70)
ゆったりとしたテンポながら、いきなり曲の憂いの感情の襞をデフォルメするように克明に描いていくただならないアプローチ。現代のクァルテットらしい精妙さも持ち合わせながら、冷徹なドラマチックさを感じさせる表現の幅があります。彼らの演奏スタイルが最も活きる曲がこの曲などだと妙に納得。ハイドンの曲は抑えた表現の方が曲が映える場合が多いのですが、このルイージ四重奏団のアプローチは有無をも言わせぬところがあります。
2楽章のメヌエットも舞曲と言うにはテンポを揺らして、表現も起伏に富んだ演奏ですが凛とした緊張感が漂う良い演奏。続くアダージョ・カンタービレでは第1ヴァイオリンのアレッサンドロ・ルイージのピンと張った澄んだ音色のメロディーが印象的。
フィナーレは4人の奏者がそれぞれ個性的にクッキリと浮かび上がりながら、見事にアンサンブルをまとめる見事な演奏。キレキレです。
この後、マシュー・ロックのファンタジーですが、フーガのような曲で、時代が一気に遡るもののアンサンブルの精妙さは変わらず一貫した演奏。冴えた演奏による時代の描き分け。
つづいてオリヴァー・リースのファンタジー。出だしのハーモニーだけ聴くと前曲と似た雰囲気を感じるんですが、徐々に響きは歪み、現代音楽と気付かされます。なかなか凝った展開。
そしてアルバムタイトルの「大きな家」は7楽章構成で約30分の曲。時に調和し時に微妙に歪む響きの波が一定のリズムで寄せたり引いたりするのを遠望するような曲。終盤笙のような音色が響いたりして聴いているうちに無の境地へ。弦楽四重奏の極北の姿か。
Hob.III:35 String Quartet Op.20 No.5 [f] (1772)
響きの波の消え去った静寂に、聴き慣れたハイドンの音楽が戻ってきてほっとします(笑)
冒頭のOp.9同様、ゆったりとしたテンポで克明にメロディーを描いていくスタイル。古典の規律を守った演奏とは異なり、表現を冷静に膨らませて陰影をくっきり浮かび上がらせるのは現代物が得意なクァルテットらしいところ。情緒的とは正反対の峻厳な表現で緊張感を保ちます。
Op.9よりも格段に書法が進化してメロディーのつながりが流麗になったメヌエットは演奏も舞曲っぽく流麗に。演奏のユニークさを狙ったように感じたOp.9に対して、こちらは曲の良さをより素直に表現しているように聴こえます。各奏者の音のエッジがキリッと立っているような極上のアンサンブル。
アダージョはさらに精妙。音程が絶妙に決まっているので透き通るように響くのでしょう。
そして現代音楽のような響きも感じられる静謐なフーガ。ここはハイドンの音楽の崇高さを素直に感じられるよう、コントラストをくっきりつけるだけでオーソドックスにまとめます。絶品です。
ルイージ四重奏団による「大きな家」と言うアルバム。、バロックから現代までを冴えた演奏で俯瞰すると言うコンセプトの面白さはに加えて、冴えた演奏、鮮明な録音と言うことなし。ハイドンの2曲はもちろん[+++++]といたします。
このアルバム、一見アルバムタイトルとなった現代曲がメインディッシュと思われますが、私には、最初と最後にハイドンを置いているのは、弦楽四重奏と言うジャンルを確立したハイドンに対するリスペクトに加え、間に挟んだ古き時代の音楽と混沌とした現代の音楽と対比させて、弦楽四重奏が輝いた古典期の音楽の素晴らしさを際立たせているような構成に見えてしまいます。
ルイージ四重奏団、次のアルバムが楽しみです!



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