作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第9巻(ハイドン)

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ご無沙汰続きですみません。

皆様ご存知のこのシリーズ、本巻もリズムが脳髄に突き刺さる刺激満点の出来ゆえ記事にいたします。

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TOWER RECORDS / amazon

ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardiono Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲35番、45番「告別」、ベレニーチェのシェーナ「ベレニーチェ、何をしようとしているのか?」、交響曲15番の合わせて4曲を収めたCD。このアルバムはアントニーニによるハイドンの交響曲全集の第9巻。収録は2018年11月1日から5日にかけて、前巻と同じイタリア北部のドッビヤーコ(トブラッハ)の エウレジオ文化センター(Euregio Kulturzentrum)のグスタフ・マーラーホールでのセッション録音。レーベルはレーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。

このシリーズ、皆様ご存知の通りハイドンの生誕300年にあたる2032年に完成を目指した一大プロジェクト。毎巻素晴らしい出来なので、結果的に当ブログとしては珍しく全巻追っかけております。

2020/02/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第8巻(ハイドン)
2019/03/12 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第7巻(ハイドン)
2018/07/07 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第6巻(ハイドン)
2017/11/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第5巻(ハイドン)
2017/04/18 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第4巻(ハイドン)
2016/10/09 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第3巻(ハイドン)
2015/06/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第2巻(ハイドン)
2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

実は本巻の前にリリースされたアントニーニの天地創造を取り上げようとしたのですが、今一ついつものアントニーニならではのキレや高揚感が感じられず、記事にしなかった次第。交響曲では緊張感漲る演奏を次々と繰り出すアントニーニですが、天地創造という大曲を前にして、謙虚に流れに身を任せるようなアプローチを選んだのか、あるいは十分な準備をする時間が取れなかったのか、はたまた聴き手であるこちらの過度な期待がそのような印象を生んでしまったのかわかりませんが、なかなかの演奏ながらも正直に言うとちょっと期待外れでした。

そういった印象が残る中、本盤が届き、聴いてみるといつも通りというか、期待通りのキレキレの演奏が流れ出し一安心。やはりアントニーニはこうでなくちゃ!

本巻のテーマは ”L'ADDIO”「別れ」。告別を含めて別れや人生の転機をテーマにした曲が並びます。告別と愛する人の死を嘆くコンサートアリアのベレニーチェのシェーナは別れと直接結びつきますが、交響曲35番と15番ピンときません。調べてみると35番の書かれた1967年は旅好きだったニコラウス侯がフランス旅行から帰還した頃とのこと。ニコラウス侯とのしばしの別れと帰還の喜びが曲想につながっているのでしょう。そして15番は構成と雰囲気から告別交響曲の元気な妹的存在というつながりということです。これまでこれらの2曲についてこのような背景を意識することなく聴いてきましたが、背景を知ることで曲の印象も変わるのでしょうか。

Hob.I:35 Symphony No.35 [B flat] (1767)
冒頭から湧き上がるような高揚感と適度なデフォルメ感がアントニーニらしい見事な入り。あの一瞬にしてアントニーニの魅力にロックオンされた読響との来日公演の無人島序曲で体を低く沈めるアントニーニの姿が目に浮かびます。1楽章は前のめりに攻めてくる弦とそれに被せる金管の手に汗握る鬩ぎ合いが実に見事。
アンダンテはさらりとあえて平板にこなして1楽章とのコントラストを際立たせます。そしてメヌエットは次々と変化するハイドンの見事な筆致をくっきりと浮かび上がらせます。
フィナーレは快速爽快。冷静にコントロールされたオケの、音量ではなく精緻さで圧倒されるような見事な演奏。

Hob.I:45 Symphony No.45 "Abschied" 「告別」 [f sharp] (1772)
コントロールが行き渡っているのは告別の入りに引き継いでいます。聴き慣れたメロディーにも拘らす緊張感が漲っています。少人数編成のオケから繰り出されるタイトな響きとキレキレのリズム。アントニーニによる巧みな表情付が楽章の中でも表情がはっきりと変わるこの曲の面白さを際立たせます。ハイドンの面白さの真髄に迫ります。
静謐なアダージョでもフレージングでさらりとキレを感じさせるアントニーニ。シンプルな構成のメロディーが淡々と進む音楽から自然な悠久の時の流れを感じさせるハイドンの類まれな作曲能力。この楽章だけでもこの曲がハイドンの最高傑作の一つであることがわかります。
長いアダージョの後の短いメヌエット。短いながらも突然明るく転じたかと思うとそこここに陰りのような響きが混ざる複雑さが織り込まれています。微妙な光の変化を見逃さずさらりとコントロールするアントニーニ。
そして有名なフィナーレ。入りのプレスト先の展開を見越してか軽妙な語り口。奏者が次々に減っていく有名なアダージョはあえてゆったり朗々と流していきます。ハイドンの粋な演出を生かして小細工なしのプレーンな演奏に徹します。各奏者の自然な妙技をゆっくり楽しみます。静寂に吸い込まれるように終わる最後は感動的。いい曲ですね。

Hob.XXIVa:10 Scena di Berenice "Berenice, che fai" ベレニーチェのシェーナ「ベレニーチェ、何をしようとしているのか?」 [D-f] (1795)
ソプラノはサンドリーヌ・ピオー(Sandrie Piau)。ハイドンの曲の演奏ではエキルベイのオラトリオ版「十字架状のキリストの最後の七つの言葉」、マクリーシュの「天地創造」のガブリエルなどに登場しています。低音域のふくよかさと伸びやかで透き通るような高音が特徴。
レチタティーヴォ、カヴァティーナ、アリアの三部構成。劇的な展開のコンサートアリアで、ピオーの美しいソプラノを存分に堪能できます。アントニーニも交響曲以上に劇性を強調して盛り上げる渾身の伴奏。

Hob.I:15 Symphony No.15 [D] (before 1764)
ゆったりとした長いアダージョで始まる曲。中間に快活なプレストを挟んでアダージョに戻ります。ごく初期の曲にも拘らず斬新な構成。アダージョの長閑さとプレストの疾走感の鮮明な対比。アントニーニらしくコントラストを際立たせてこの曲の面白さを浮かび上がらせます。
珍しく2楽章に置かれたメヌエット。中間部にはチェロの独奏をあしらった構成も独特。この中間部の繊細な演奏が舞曲の快活さを際立たせます。そして続くアンダンテも繊細。告別の2楽章同様、ハイドンの書くメロディーの奥行き深い世界を堪能できます。こうしたさりげない音楽の深さもハイドンの魅力ですね。
フィナーレは爽やかにキレてアントニーニの本領発揮。驚いたのが中間部の憂いに満ちたメロディー。後のシュトルム・ウント・ドラング期を思わせる陰り。この曲の先進性は告別交響曲との関連を窺わせる指摘にも納得です。ハイドンの交響曲の中でも録音の少ない曲ですが、アントニーニの演奏によって新たな魅力に気づいた次第。



第9巻まで来たHAYDN 32プロジェクト。いつもながら絶品の演奏が楽しめました。特に今巻に収められた32番と15番は新たな魅力に気づかされました。演奏自体の素晴らしさもさることながら、解説なども充実しており、そしてアートワークを含めてアルバムとしてのプロダクションも見事。ネット配信全盛の現代にあってもあえてアルバムを手に入れる価値を十分に感じさせます。世界的な新型コロナウィルスの蔓延によってクラシック業界も大きな影響を受けているかと思いますが
このプロジェクトが完成するよう祈るばかりです。評価はもちろん全曲[+++++]とします。



ハイドンのソナタの名演奏を残してくれたフー・ツォンさんが昨年12月新型コロナウィルスで亡くなったことを知りました。ご冥福をお祈りします。



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4 Comments

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だまてら

ご無沙汰しております。
当シリーズ、若干後発?の飯森範親/日本センチュリーSOの全集ツィクルスにいつの間にか先行を許しているようですが、着実な足取りでまずはひと安心といったところでしょうか。
フー・ツォン氏が、高齢とはいえ中国発生?の新型コロナで亡くなるとは本当に痛ましいことです。
ハイドンは、ベートーヴェンの第4番の協奏曲と同時収録のピアノ協奏曲も絶品でしたね。
ステイホームで、家聴きの機会が増えたのを機会にDACを更新しました。不慣れなネットワーク再生も何とかこなし、MQAにもDSDにも対応して音的にも相応に向上している筈ですが、LPで聴く東京クヮルテット(op.50)やグリラー(op.71&74)やエステルハージ(op.20-2&4)に如くは無し、を実感しています。

  • 2021/05/04 (Tue) 17:29
  • REPLY

ハイドン大好き親父(Haydn2009)

ご無沙汰しています。
こういうご時世のため、2月以来新作記事がしばらくアップされてこなかった
ので、心配しておりましたが、いつものようにキレのあるレビューがアップ
されたので安堵しました。
私も、現在のところは無事に過ごしており、この連休は自宅でハイドン三昧
しています。
そして、ちょうどDaisyさんの記事を読みながらこのCDを取り出して聴き、ここ
にコメントをしたためています。

アントニーニのハイドン交響曲全集は、これで9集目ですが、2014年から足掛け
7年で、やっと9集ですね。録音は先行で行われているとは言え、100曲以上の
作品の演奏を完結するとなると、やはり長い年月が必要になりますね。
飯森範親さんの方も、順調に演奏が続いているようですが、同じように長い年月
がかかりますね。

Daisyさんがこのアントニーニの9集に収録されている私の大好きな(曲もさるこ
とながら、ビジュアル的にも面白い)45番の紹介をしていただいておりますが、
飯森さんの7月の公演で、その45番が演奏される予定になっているので、既に
チケットを入手しています。
しかし、このご時世なのでそのコンサートが予定通り実施されるのか、はたまた
実施されるとしても、自分が大阪まで遠征していいものなのか、今からやきもき
している次第です。

そして、この9集に収められているベレニチェのシェーナですが、かつては、
実力派のオジェー、ベイカー、そしてバルトリしか聴いたことがなかったのです
が、このピオーの透き通った高音域を持つ歌唱は、アントニーニのオーケストラ
演奏を伴ってなかなか秀逸。お気に入りのベレニチェのシェーナのコレクション
が一枚増えました。

それにしても、相変わらず猛威をふるっている新型コロナにより命を落とす音楽
家がいることは嘆かわしいことです。早く収まる日が来ること切に願います。
それまでは、気を付けて行動していきましょう。




  • 2021/05/04 (Tue) 22:20
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: タイトルなし

だまてらさん、ご無沙汰しております。

確かに故国を後にしてロンドンで生活していたフー・ツォンさんが新型コロナウィルスの犠牲になるとは運命とは言え過酷なものですね。ご指摘通りコンチェルトも素晴らしい演奏でした。素晴らしい演奏は我々の心にしっかりと刻まれていますね。

DACを更新されたとのことで、ちゃんと時代の流れに乗られているのは流石です。こちらはApple MusicをBGMやちょい聴きに使う程度で、レゾリューションは並のままです(笑)
最近色々あって往年のジャズのアルバムを大量に預かったりしており、LP三昧の生活です。

こちらもアンプやプレーヤーにそろそろガタが来ているので更新を目論んでおりますが、どうなることやら、、、

お互いコロナに気をつけて過ごして参りましょう。

  • 2021/05/05 (Wed) 20:29
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: タイトルなし

ハイドン大好き親父さん、コメントありがとうございます。

ちょっと先の7月とは言え、大阪の感染状況が落ち着くかどうかは予断を許しませんね。是非安全重視で行動されてください。

飯森さんもアントニーニもまだまだ先の長いプロジェクトですので無理せず、じっくり取り組んでもらいたいものです。

  • 2021/05/05 (Wed) 20:42
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