作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

マタンギ四重奏団の「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」(ハイドン)

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皆様ご無沙汰しております。久しぶりのレビューになります。

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amazon / amazon(mp3) / Apple Music

マタンギ四重奏団(Matangi Quartet)によるハイドンの「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。2020年3月にリリースされたアルバムですが、今回はCDではなくApple Musicで聴いています。収録年は不明ですが収録場所はオランダ、ロッテルダムのデ・ドーレン、ユリアンホール(De Doelen - Jurriaanse Zaal)でのセッション録音。自主制作レーベルのようです。

このアルバムを取り上げたのは、ちょっと嬉しいことがあったから。

2015/09/24 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : マタンギ四重奏団の日の出、蛙、鳥(ハイドン)

以前このクァルテットのアルバムを取り上げた上のリンク先の記事を、マタンギ四重奏団のヴィオラのカルステン・クレイエルさんが見つけて、メールをいただいたんですね。私の拙い日本語のブログの記事が奏者にも伝わり、とても丁寧なメールまでいただき嬉しい限りです。また、そのメールで、今日取り上げるハイドンの最新録音の存在を知り、ネットを探したもののCDとして国内では流通していない模様のため、Apple Musicで探し当てて聴いてみた次第。

日頃CDの新譜は一応目を通しているのですが、CD以外まで視野を広げていないため、このアルバムの存在には気づかなかったんですね。これを機に、ネット系のリリースもレビュー対象に加えようと一念発起し、今回、レビューに取り上げることに致しました。

私はハイドンのアルバムしか取り上げていませんが、マタンギ四重奏団はこれまでChallenge Classicsなどからかなりの枚数のアルバムをリリースしており、しかもジャズまで含むレパートリーが広いクァルテットですが、最近レーベルから離れて自主制作に切り替えたとのこと。

クァルテットの情報は前記事と以下のサイトをご覧ください。

Matangi Quartet

メンバーは以前のアルバムの時と変わらず。

第1ヴァイオリン:マリア=パウラ・マヨール(Maria-Paula Majoor)
第2ヴァイオリン:ダニエル・トリコ・メナチョ(Daniel Torrico Menacho)
ヴィオラ:カルステン・クレイエル(Karsten Kleijer)
チェロ:アルノ・ファン・デル・ヴルスト(Arno van der Vuurst)

Hob.III:50–56 String Quartet Op.51 No.1-7 "Musica instrumentare sopra le 7 ultime parole del nostro Redentore in croce" 「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」 (1787)
久しぶりにApple Musicで本格的に音楽を聴きます。この録音、かなり精緻で4人が並んで演奏している様子がわかります。前録音ではメロディーの語り口の面白さが印象的だったんですが、この緩徐楽章が並ぶ深淵な曲ということを意識してか、序章の入りはキレ味鋭いボウイングで現代音楽的峻厳さが印象的。

ソナタに入ると、最近の演奏にしてはかなり遅めのテンポをとります。じっくりとかゆったりという感じとはちょっと異なり、淡々とメロディーを線でつないでいくような演奏。ハイドンのメロディーの構造を分解しながら紐解いていくような冷静さがあり、演奏しながら純粋無垢な世界をかみしめているような感じ。

このスタンスで続く第2ソナタに入りますが、メロディーの印象からか先ほどの純粋無垢な感覚からややリリカルな色気を帯びていきます。なんとなくわかってきたのは響きを削ぎ落として一貫した静寂感に包まれるような心境を表現したかったのだろうということ。メロディーを切々と語り続けることでいたる独特の世界。私はこの曲を音楽として聴いてきましたが、宗教的な意味では十字架上のキリストが語る言葉を音楽にしているわけで、この孤高の雰囲気はそうした宗教的な意味を現代音楽の視点で噛み砕いたものなのだろうと合点がいった次第。

続く第3ソナタはそのような感覚を踏まえて聴くとスッと自然に馴染んできます。アコーディオンのように聞こえる和音で静かに語るように弾く音楽の流れから、詩情がじわりと染みだしてきます。かなり音量と表現を抑えた抑制された音楽。余白で魅せるデザインのよう。精妙なデュナーミクの変化に引き込まれます。

劇的な展開から力の入った演奏が多い第4ソナタですが、マタンギ・クァルテットはここでも静寂を印象付けるように淡々とメロディーを描いていきます。冴え渡る抑制の美学。最後は静寂に消え入るように終わります。

ピチカートが印象的な第5ソナタ。テンポを落として、しかもかすかに聞こえる程度に音量を抑えたピチカートがこの曲の今までの印象を拭い去るよう。どんどん表現の方向が先鋭化していきます。流麗な演奏から得られるこの曲の印象とは対極にあるように、音符が分解されてメシアンの鳥の鳴き声のように聞こえるような気にもなってしまいます。

ここまで聴き進めてきましたが、かなり踏み込んだ解釈ながら、4人の表現が完全に練られているからこその精妙さだと気づいた次第。第1ヴァイオリンが目立ってリードする演奏も多いですが、この演奏は完全なチームプレイ。4人のボウイングが完全に揃い、そして踏み込んだ表現でも一糸乱れぬアンサンブルが精妙な響きを生んでいるんですね。第6ソナタの後半の暖かい響きに切り替わる時のなんとも言えない自然な流れがそれを象徴しています。そして終盤、ようやく朗々とメロディーが歌われるようになる展開の見事さ。

最後の第7ソナタは郷愁と哀愁を感じさせる曲。ここにきて音色をじわりとした暖かい響きに変えてきました。表現の変化の幅は大きくないものの、それだけにデリケートな変化の妙が楽しめるというもの。

この展開で地震はどう来るか、シナプスを総動員して想像しながら最後のトラックを待つワクワク感。迫力ではなくボウイングのキレで聴かせる爽快な地震でフィニッシュ!



マタンギ四重奏団の最新盤であるハイドンの名曲「十字架上のキリストの最後の七つの言葉」。この演奏はもしかしたら評価が分かれるかもしれませんね。従来の流麗な演奏を好む目からすると物足りない演奏と聴こえるかもしれません。が、この演奏、私はマタンギ四重奏団が新たな次元に突入した素晴らしい演奏だと断じます。おそらく商業的なことを重視するレーベルではこのような演奏はリリースできないかもしれません。ハイドンのこの名曲に独自の角度からスポットライトを当て、削ぎ落とした響きを完璧なアンサンブルで仕上げ、メロディーに仕込まれた孤高の境地を、抑制と静寂でまとめた先鋭的な演奏として、クァルテット好きな方のハートを射止める鋭い剣のような演奏と言って良いでしょう。評価は[+++++]とします。

最初はちょっと無粋かと思えたジャケットですが、アルバムタイトルもVII LWと削ぎ落としてあることにこのアルバムの真髄が表現されていたと気づき、アルバムとしての完成度にも並々ならぬ気合いが込められていたのだとハッとした次第。

このアルバム、これだけのプロダクションの完成度を誇るわけですから、是非CDやSACDでも流通させてもらいたいものです。また、このクァルテット、是非来日して実演を聴いてみたいものです。コロナを心配せずにコンサートを楽しめる日が1日も早く訪れることを切に願います。

皆様も、今は感染しないよう、家で音楽を楽しみましょう!





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