作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第8巻(ハイドン)

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順調なリリースが続いているアントニーニのハイドンの交響曲全集HAYDN2032プロジェクトの第8巻。やはりキレてました!

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TOWER RECORDS / amazon

ジョヴァンニ・アントニーニ(Giovanni Antonini)指揮のイル・ジャルディーノ・アルモニコ(Il Giardiono Armonico)の演奏で、ハイドンの交響曲63番「ラ・ロクスラーヌ」、43番「マーキュリー」、バルトークのルーマニア民族舞曲集(Sz 68、BB.76)、作曲者不詳(クロムニェジーシュ修道院所蔵の手稿譜より、1673~1680年頃)ジュクンダのソナタ、ハイドンの交響曲28番の合わせて5曲を収めたCD。このアルバムはアントニーニによるハイドンの交響曲全集の第8巻。収録は2018年5月18日から22日にかけて、イタリア北部のドッビヤーコ(トブラッハ)のグスタフ・マーラー文化センター(Euregio Kulturzentrum Gustav Mahler)でのセッション録音。レーベルはレーベルはouthereグループのALPHA-CLASSICS。

当ブログではこれまで1巻から全巻順調に追っかけて、一大プロジェクトの推移をくまなく見守っております。

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2018/07/07 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第6巻(ハイドン)
2017/11/22 : ハイドン–交響曲 : 【新着】ジョヴァンニ・アントニーニの交響曲全集第5巻(ハイドン)
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2014/11/08 : ハイドン–交響曲 : 【新着】イル・ジャルディーノ・アルモニコの交響曲全集第1巻(ハイドン)

毎巻タイトルが付けられているのですが、今回は「ラ・ロクサラーナ(La Roxolana)」。これはこのアルバムの1曲目に置かれた交響曲63番に付けられた曲名だと思いますが、通常は「ラ・ロクスラーヌ(La Roxelane)」と表記することが多ですね。少々調べたところ大宮真琴さんの「新版ハイドン」では両方の表記が掲載されておりましたので、言語か出典などによって両方使うのでしょう。曲名の方は通常表記で通したいと思います。

ライナーノーツのアントニーニ自身による解題を読んでみると、今回のテーマは「クロスオーバーの誕生(The birth of crossover)ー西洋の作曲家と異文化の音楽(Western composers and 'other' music)」。その要点部分を少し訳しておきましょう。

ハイドンと民謡や大衆音楽などとの関係に関する直接的な資料はないものの、ハイドンの伝記作家グリージンガーはハイドンが父がハープを弾たり美しいテノールで歌っていたことが深く彼の記憶に刻まれ、老年になっても覚えていたと記述している。
異なる伝統に起源を持つ音楽はいつの時代も作曲家たちの興味をかき立て、魅了してきた。そして彼らはそれらを様々な方法で取り入れてきた。

(中略)

ハイドンのケースでは民謡からのテーマはメヌエットや特にトリオにおいてよく見られる。そしてアイゼンシュタットやエステルハーザでハイドンの音楽を聴いていた貴族たちは、彼の音楽に農民が日常の生活やお祭りの時に歌ったり演奏していたメロディーが織り込まれていたことに気づいただろう。しかし、ハイドンの作品にはしばしば民謡からの明示的ではないスタイルやリズムの引用がみられる。交響曲43番「マーキュリー」のフィナーレでフォルテで演奏されるオフビートの和音はその例であり、非対称のフレーズ構造は様々な民衆の音楽文化の典型的な性質でもある。
異文化の音楽にみられるもう一つの特徴は 「東洋」「トルコ」「ジプシー」を想起させることである。この例は交響曲63番「ラ・ロクサラーナ」の第2楽章で同名の劇の登場人物の役柄を踏まえた優美で繰り返し揺れ動くメロディーラインや交響曲28番の東洋風のトリオがある。

(後略)


ということで、このアルバムにフィルアップされた曲が選ばれた理由がわかりました。この後、このアルバムに含まれるバルトークの作品に言及しているのですが、そちらは割愛。

Hob.I:63 Symphony No.63 "La Roxelane" 「ラ・ロクスラーヌ」 [C] (before 1781)
ちなみに、第5巻から第7巻まではオケがバーゼル室内管だったのが、またイル・ジャルディーノ・アルモニコに戻っています。この曲の1楽章は歌劇「月の世界」の序曲を転用したもの。そして2楽章は演劇音楽「ソマリン2世、またはサルタンの3人の妻」から花嫁「ラ・ロクスラーヌ」のまさに東洋風の変奏曲を転用したもの。1楽章はいつもアグレッシブに来るアントニーニ節かと思いきや、リズミカルな入り。ただしリズムは流石にキレキレ。進むに連れてどんどんリズムが冴え渡りグイグイと畳み掛けるいつものアントニーニ。攻める姿勢が痛快。
そして、このアルバムのテーマである異文化の音楽である2楽章。作曲当時、東洋趣味がアイゼンシュタットで新鮮な印象を与えたであろう情景を想像しながら聴くと曲の印象も変わりますね。ここではアントニーニはことさらオケを煽ることなく曲自体のニュアンスを伝えることに徹します。
続くメヌエットはメロディーの提示と反復の音量の対比をくっきりと付けてハイドンの意図を透かし彫りにするような鮮やかな表現。録音も絶妙でホールに響くオケの余韻のなんと美しいこと。
予想どおりフィナーレはオケが気持ちよく吹き上がります。音楽がもたらす心地良さをこれほどうまく表現するのはアントニーニの真骨頂。オケの反応の異次元の鮮やかさは痛快そのもの。これぞアントニーニ !

Hob.I:43 Symphony No.43 "Merkur" 「マーキュリー」 [E flat] (before 1772)
続いて、少し時代を戻してシュトルム・ウント・ドラング期の交響曲。受難や告別に比べて目立たぬ存在ですが、展開の面白さは引けをとりません。もちろんアントニーニの攻める姿勢は変わらず、手に汗握るキビキビとした運びでこの曲のスタイリッシュな面白さを際立たせます。オケも絶好調、特に弦の冴え方は尋常ではありません。ハイドンの書いた憂いを帯びたメロディーが赤熱して疾走する1楽章。スリリングの極み。
そして熱冷ましのように澄み切った心境にさせるアダージョ。ここでも憂いを帯びたメロディーが今度はひたひたと静かに滲みてきます。続くメヌエットはこの曲の曲想を見切ったように流します。この鮮やかな表現の切り替えは見事。
そしてこのアルバムのテーマに触れるフィナーレ。いつもは意識せず聴いてきましたが、途中から出現するオフビートの部分を意識して聴くと確かに明示的にではないにせよリズムの刻みは農民のお祭りの時に演奏されるような賑やかな音楽の要素のようにも聴こえますね。

この後、このシリーズでは初めて19世紀以降の音楽であるバルトークのルーマニア民族舞曲集と作者不詳の曲が挟まれます。バルトークではアントニーニが得意のルネサンスフルートなどを吹いているんですね。異文化の音楽つながりでバルトークを挟むあたり、コンセプトでも攻めてます。ハイドンの間に挟まれても違和感なく、もちろん演奏もキレキレ。

Hob.I:28 Symphony No.28 [A] (1765)
最後に置かれた初期の交響曲28番。アントニーニのキレたコントロールで入りのメロディーラインの千変万化する面白さが浮かび上がります。どうしてこのような変化に富んだメロディーを思いつくのか不思議でなりません。メロディーがどんどん展開し発展していく様子を追いかける面白さ。そしてつづくポコ・アダージョで音楽がぐっと静かに沈みこんだかと思うと、メヌエットでつんざくような弦で驚かせる展開。そして異文化の香りを漂わせるようトリオを挟む絶妙な構成。この構成があってこそトリオが効いてくるわけです。そして壮麗なフィナーレで締めくくります。交響曲という構成はしっかりとした形式に従った中で、展開される音楽は自在に展開するのがまさにハイドンの交響曲の面白さ。初期の交響曲から内容がすこぶる充実していることを実感させられる曲です。

ジョヴァンニ・アントニーニによるハイドンの交響曲全集の第8巻ですが、期待どおりの面白さ。演奏は言うに及ばず、コンセプト、アートワークや装丁も素晴らしく、毎巻手に入れる喜びを感じられる素晴らしいプロダクションです。未完結で終わったファイの全集も素晴らしいのですが、ファイは奇を衒ったところがあったり、録音がちょっと硬めなところがあり、現代のハイドンの交響曲全集はこのアントニーニが本命でしょう。完結時にはセットで売り出されるとは思いますが、1巻1巻集めるのは、歴史を共に歩む喜びもあります。日本ではハイドンはまだまだマイナーな存在ですが、ハイドンを愛好する皆さんは追いかける価値のあるシリーズです。本巻も必聴です。全曲[+++++]です。



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2 Comments

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だまてら

アントニーニには、バーゼル室内管とのデビュー盤?であるエームスへのベートーヴェン交響曲第1番・2番のSACDハイブリッド盤(2004年)をいち早く入手して以来注目しておりました。
ところが、エームスからは早々に放出され(ベートーヴェンの全集がベルトラン・ド・ビリーとかぶったから?)、首尾よくメジャーのSONYに移籍・再開したもののSACD→通常CD(Blu-Specとはいえ)に格下げとなり、それでも3&4、5&6、7&8まで順調に進んだものの、今度は第9番で長らくお預け(セールスの関係か?)を喰らって完結まで12年を要するという、なかなかの苦労人ですね!
ベートーヴェンは、全集の計画が途中で頓挫した例も枚挙にいとまがないので、完結した事でブラヴォーですが、出来栄えにはいささかコメント有り・・・、とこちらは本筋では無いので別の機会があればにします。
ハイドンでは、ベートーヴェンでの轍を踏まないよう着実に歩みを進めてもらいたいところですが、2032年のゴールに向けて順調に飯森/日本センチュリー響と並走しているようで何よりです。

  • 2020/02/24 (Mon) 00:13
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Daisy

Daisy

Re: タイトルなし

だまてらさん、いつもコメントありがとうございます。

昨年アントニーニが読響に客演した時に、ベートーヴェンはヴァイオリン協奏曲の交響曲2番は聴いていますが、アントニーニのエネルギッシュなところが非常に効果的で面白かった記憶があります。録音の方はまだ聴いていませんが、興味をそそられますね。

確かに録音がリリースされるには色々な事情が絡んでくるのでしょうし、レーベルの都合や経済的な面など、所謂大人の事情に振り回されることもありそうですね。余裕があったら手を出したいところですが、、なかなか余裕ができません(苦笑)

なんとなく手に入れるべきとのプレッシャーを受けながら手に入れていないものリスト
・Brilliantのミヒャエル・ハイドンボックス
・ファイのザロモンセットボックス(まだ手に入れてません、、時計のみ未聴)
・アントニーニのベートーヴェン、、、
まだまだあったような(笑)

  • 2020/02/24 (Mon) 21:15
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