【新着】マッダレーナ・デル・ゴッボのバリトン三重奏曲集(ハイドン)

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マッダレーナ・デル・ゴッボ(Maddalena del Gobbo)のバリトン、ロベルト・バウアーシュタッター(Robert Bauerstatter)のヴィオラ、ダヴィド・ペネッツドルファー(David Pennetzdorfer)のチェロで、ハイドンのバリトン三重奏曲3曲(Hob.XI:113、XI:27、XI:97)など収めたアルバム。収録は2018年9月、アイゼンシュタットのエステルハージ宮殿ハイドンザールでのセッション録音。レーベルは名門DG。
このアルバム、最近リリースされたアルバムですが、完全に見逃していました。先日よく激励コメントをいただくsifareさんのコメントでその存在を知り、即座に発注して手元に着いたもの。このアルバムの存在を知ってすぐにマッダレーナ・デル・ゴッボのウェブサイトを見てびっくり。
Maddalena del Gobbo:Home
このウェブサイト、真っ赤なドレスでエステルハージー宮殿を優雅に歩き回る動画をふんだんに使ったサイトデザインは看板スター扱いで完全にアイドル路線。DGが総力を投じて作っていますね。名門DGの看板スターが激マイナーなハイドンのバリトントリオのアルバムをリリースしているというインパクトは絶大です! ついに大手もニッチな領域に踏み込んできました(笑)
アルバムタイトルは”Maddalena and the Prince”。ライナーノーツを紐解いてみると、プリンスとはもちろんハイドンのパトロンでバリトンという楽器をこよなく愛したニコラウス・エステルハージ侯を指しているんですが、素晴らしい響きを作り出すバリトンと言う楽器自体も指しているとのこと。と言うことでアルバムタイトルは、「マッダレーナとエステルハージ侯の愛したバリトン」とでも意訳すのでしょうか。
収録されている曲はハイドンのバリトントリオの他、ハイドンと同時期にバリトンやガンバ奏者としてエステルハージ家に仕え、ハイドンから作曲を学んだ可能性のあるアンドレアス・リドル(Andreas Lidl)の曲、ハイドンの創設したアンサンブルでチェロを弾き、ハイドンのチェロ協奏曲は彼のために書かれたとされるフランツ・クサヴァー・ハマー(Franz Xaver Hammer)の曲、そしてエステルハージ家のオーケストラでハイドンのもとリーダーを務めたヴァイオリニストのアロイジオ・ルイジ・トマジーニ(Aloisio Luigi Tomasini)の曲と企画構成は完璧にニコラウス侯時代のエステルハージ家にフォーカスしています。
肝心のマッダレーナ・デル・ゴッボですが、私はもちろんはじめて聴く人。イタリア生まれのヴィオラ・ダ・ガンバ奏者。幼少期から音楽に親しみ、13歳からウィーンの私立音楽大学で本格的にチェロを学んでいましたが、ウィーンのレコードショップで初めて聴いたヴィオラ・ダ・ガンバの音色が忘れられず、ガンバ奏者に転身したとのこと。デビュー盤はArchiveからで2枚目はDGデビュー。このアルバムが彼女の3枚目のアルバムとなります。
ちなみにバリトントリオのヴィオラとチェロはウィーンフィルのメンバーということで、このアルバム、アイドル仕立ての美人奏者に、時代背景やハイドンザールでの録音セッションなどを含めて完璧な企画を立て、脇を一流奏者で固めるという、バリバリに力の入ったアルバム。しかも、このアルバム、演奏が群を抜いて素晴らしい。演奏を聴いてDGが本腰を入れる理由がわかった気がしました。
Hob.XI:113 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 1772–78)
開放弦をつまびくところから始まるバリトントリオの中でも録音の多い有名曲。手元にはこの演奏を含めて9種の演奏があります。入りのアダージョは静けさに包まれた中にゆったりと流れる音楽。これまでの演奏の中で最も響きのニュアンスがデリケート。ゴッボのバリトンは弱音のコントロールと音楽の大きな波の表現が秀逸。そしてヴィオラとチェロの美しくしなやかな音色が花を添えます。バリトントリオの演奏が新次元に突入した感じ。2楽章のアレグロ・ディ・モルトで緊密なアンサンブルを聴かせ、そして3楽章のメヌエットでは中間部でバリトンの開放弦の魅力を振りまく見事な演奏。それにしてもヴィオラとチェロの雄弁なサポートが絶品です。流石に一流どころ。
この後のリドルの曲はハイドン同様バリトン、ヴィオラ、チェロのための3楽章のディヴェルティメント。ハイドンに負けず劣らずの素晴らしい曲。ハイドンの曲のバリトンパートはプリンスエステルハージが弾きやすいように書かれているのに対し、自身がバリトン奏者だっただけにリドルの曲はかなりテクニックを要する曲のよう。
続くハマーの曲はゴッボはガンバに持ち替え、ハープシコードとの二重奏の5楽章の曲。こちらもハマーがチェロ奏者だっただけに重音を多用したテクニカルなバロック調の曲。ハープシコードはかなり音量が控えめに録られていていて、ゴッボのガンバが明らかに主役。ガンバ奏者だけあってキレのいいガンバの響きが心地よい音楽です。
Hob.XI:27 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (1776–77)
ハイドンのバリトントリオの2曲目は滅多に演奏されない曲を選んできました。1楽章は慈愛に満ちた非常に優しい曲調。シンプルながらバリトンとヴィオラとチェロと音域の非常に近い楽器のハーモニーの重なりの美しさが素晴らしいですね。2楽章は穏やかな中に弾むような推進力が楽しげな印象を与える曲。そして最後のメヌエットも穏やか。実に楽しげに演奏している様子が伝わってきます。相変わらずヴィオラとチェロの表情の豊かさが素晴らしい。
続く曲はヴァイオリンの名手トマジーニの曲。リドル同様ハイドンのバリトントリオと同じ楽器構成で3楽章の曲。軽快で明るいメロディーが乱舞しますが、メロディーと伴奏が完全に別れるなど構成はやや単調さが伴います。しかしながら演奏はここでも絶品。バリトンのキリッとした音色とヴィオラ、チェロの豊かな音色のハーモニーの美しさで聴かせます。
Hob.XI:97 Divertimento a tre per il pariton, viola e violincello : Baryton Trio [D] (before 1778, 66?)
最後はハイドンのバリトントリオの中で最も演奏される曲。ニコラウス・エステルハージ侯の命名祝日のために書かれた曲でバリトントリオで唯一7楽章構成の曲。手元には14種の演奏がありますが、どの演奏よりも弱音のコントロールが精緻で3人のアンサンブルの緊密さが見事。演奏はもはやいうことなし。録音会場はアイゼンシュタットのハイドンザールですが、静けさが際立ち適度な残響を伴って三つの楽器が鮮明に録られている絶品の録音。ハイドンザールに響き渡る図太く実体感あるチェロの響きが素晴らしいですね。
ハイドンのエステルハージ侯爵時代のバリトン曲を集めたDG激推しのガンバ奏者、マッダレーナ・デル・ゴッボの3枚目のアルバムでしたが、これはバリトントリオの新たな地平を開く快演と言っていいでしょう。演奏、録音、企画共にずば抜けて素晴らしい! 主役のゴッボに加えて脇の2人も絶品の演奏で支える名演奏。これまでハイドンのバリトントリオはバリトンという特殊な楽器のためのちょっと特殊な存在とおもわれていた節がありましたが、このアルバムで聴くバリトントリオは、バリトンという楽器がいかに素晴らしい楽器で、ハイドンのバリトントリオが、アンサンブルとしての弦楽四重奏やピアノトリオに負けない素晴らしい曲であることをはっきりと示した意義があります。これは必聴のアルバムでしょう。もちろん評価は3曲とも[+++++]とします。
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