ハンス・スワロフスキー/ウィーン響の「悲しみ」(ハイドン)
11月も月末が近くなってまいりましたが、旅行記にかまけて、肝心のハイドンのレビューが停滞しておりました。本記事より正常化いたしますが、ネタはちょっと訳ありのLPです。

ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」などを収めたLP。収録に関する情報は記載されておらず、LPのレーベルにPマークが1974年とあるのみ。レーベルはニューヨークのOLYMPIC RECORDS。
スワロフスキーのハイドンはなかなかいい演奏があり、そのスワロフスキーが「悲しみ」振ったものということで、最近オークションで手に入れたLPですが、ちょっと怪しげなLPです。LPに書かれた収録内容は以下の通り。
HAYDN:
・Symphony No.44 (Funeral)
・Italian Overture
・Trumpet Concerto
HANS SWAROWSKY conducting The Vienna Symphony Orchestra
音盤を入手すると、まずはざっと聴いて所有盤リストに登録するのですが、トランペット協奏曲にソリストの表記がありません。ちょっと調べてみたところトランペット協奏曲は手元にあるTUXEDOのCDと同じ演奏。演奏時間もほぼ同一です。TUXEDO盤はソリストがウィーンフィルのアドルフ・ホラー(Adolf Holler)でオケはウィーン響ではなくウィーン国立歌劇場管弦楽団。ついでにItarian Overtureと書かれた方も同盤の序曲(Hob.Ia:4)と同演奏。Discogsを調べるとこの演奏が色々なレーベルからリリースされていますので、このLPの表記はおそらくウィーン国立歌劇場管弦楽団の間違いでしょう。
LPのB面に収められた曲の表記がちょっと間違っているというのは、まあありそうなこと。問題は、冒頭に置かれたアルバムのメインになる「悲しみ」です。まず驚いたのが、交響曲44番と書かれていますが、収録されているのは交響曲44番とヴァイオリンとピアノのための協奏曲(Hob.XVIII:6)の2曲なんですね。レーベル面の表記は交響曲44番のPart1が交響曲全曲、Part.2が協奏曲の1楽章、盤をひっくり返してPart.3が協奏曲の2、3楽章なんですね。
このようにこのアルバムの表記は相当適当です。このLPのOLYMPIC RECORDSというレーベルの信頼性にも関わる適当さ。そこで、Discogsでこのレーベルがリリースしているアルバムを調べてみると、クラシック以外も色々あり、クラシックはThe Classical Collection、The Opera Collectionというシリーズが1973年から75年くらいまでにかなりの枚数がリリースされています。このアルバム自体は掲載されていません。それ以上のことはあまりよくわかりません。
そこで今度はスワロフスキーのディスコグラフィーを探すと、ありました。しかも由緒正しいものです。
Hans Swarowsky
ハンス・スワロフスキーアカデミーのウェブサイトです。
ご存知の通り、ハンス・スワロフスキーは指揮者としても有名ですが、指導者としての方が有名ですね。師事した指揮者はアバド、メータ、ヤンソンス、ワイルなど楽壇のトップクラスがずらり。このアカデミーのプレジデントはなんと、マンフレート・フス。そして名誉総裁はついこの間、ベルリンフィルと来日したズビン・メータです。このサイトは、スワロフスキーの偉業を称える情報が盛り沢山。ディスコグラフィー、コンサート記録、コンサートプログラム、写真、手紙などが全て整理されて掲載されています。
肝心のディスコグラフィーで作曲家別のハイドンのページにはこのアルバムが掲載されていました。しかも、トランペット協奏曲などもウィーン交響楽団とのアルバムの表記のまま掲載されています。また「悲しみ」の方も同様。オフィシャルサイトが掲載していますが、ヴァイオリンとピアノ協奏曲には触れていませんので、中身を検証しての掲載ではないでしょう。
ということで、このアルバムの「悲しみ」について、確たる情報は見つかりませんでした。果たして、スワロフスキーがウィーン交響楽団を振ったものなのでしょうか。録音があるということはコンサートでも取り上げているケースも多いと思い、コンサート記録を探してみることにしました。
そこで、ウィーン交響楽団のウェブサイトをみると、なんと、1900年以降の全てのコンサートの記録が検索できるではありませんか! そこで"Swarowsky Haydn"で検索すると36件の記録があります。残念ながら「悲しみ」やヴァイオリンとピアノのための協奏曲が演奏された記録はありませんでしたが、スイトナーがピアノを弾いた協奏曲(Hob.XVIII:11)や86番の演奏があるなど今から思うと夢のようなプログラムがならび、しばしうっとり(笑)
トランペット協奏曲と同様、ウィーンフィル(ウィーン国立歌劇場管弦楽団)の演奏である可能性も捨てきれないということで、ウィーンフィルのウェブサイトで同様の検索をすると、2件の記録があり、こちらも「ロンドン」と「雌鳥」のみでした。
色々調べた割には裏は取れず仕舞い。
私の想像というか仮説は、「悲しみ」はウィーン交響楽団のとの演奏で、穴埋めに既出のウィーン国立歌劇場管とのトランペット協奏曲を差し込み、あんまり詳しい情報を載せず、ウィーン交響楽団とだけ記載したとの説。隠し球のヴァイオリンとピアノのための協奏曲もウィーン交響楽団との録音で、担当者が曲名が分からなかったので苦肉の策で、交響曲の一部と誤魔化して収録したというものです。上司からシリーズの拡大を急かされた担当者のやっつけ仕事説です。
色々調べても確たることはわからずですが、色々想像して調べることは楽しいです(笑) どなたかこの演奏について情報がある方がいらっしゃいましたら、是非お知らせいただきたいものです。
ということで肝心の演奏です。ここまで調べてわざわざ取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいからに他なりません。
Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
針を落とすとそれなりに鮮明でみずみずしい音が聴こえてきますが、若干ピークがびりつき気味。これはアルバムのコンディションの問題でしょう。演奏は非常に彫刻的なフォルムの美しい演奏。1楽章の入りのテンポは心地よい速さ。この端正なバランスの良いフォルムはスワロフスキーが振っているのではと思わせます。この時期のハイドンの曲に特有の憂いを帯びた響きが素晴らしいですね。
メヌエットは端正そのもの。どこにも隙なく揺るぎないながら、響きには素朴さが漂い、完璧な演奏。それによって中間部でのしなやかさが際立つ見事な演奏。
素晴らしいのは3楽章のアダージョ。なんという癒しに満ちたフレージング。ゆったりと刻まれる音楽ですが、おおらかな起伏が実に心地よい。時に光が射し、時に陰り、琴線に触れられる美しすぎる音楽が流れます。最後にさらにゆったりとテンポを落として終わりったかと思うと、実に自然に険しい響きのフィナーレに移ります。現代の機能的なオケとは異なり、アンサンブルがキレキレな訳ではありませんが、音楽としての堅固さと、やはり彫刻的なフォルムの端正さから生み出される味わい深い迫力が見事。いやいや、これは絶品です。
Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
続く、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲もフォルムの端正さは変わらず。ヴァイオリンとハープシコードのソロはかなりの腕前。特にヴァイオリンの艶やかで存在感のある音色は印象的。音だけで奏者を当てられられるほどの耳と知見は持ち合わせておりませんので、想像の余地があることを楽しみながら聴くことにしました。こちらも2楽章が素晴らしいんですね。ヴァイオリンの美音にもう、夢見心地。古き良き時代の素晴らしい音楽に酔いしれます。ハープシコードは控えめなんですが、それがなんとも奥ゆかしい。
レビューでしっかりと聴き込んでみると、私の仮説通りに違いないとの確信を得ました。が、これは私が思っているだけで、全く違う奏者の演奏である可能性も捨てきれません。ただしハンス・スワロフスキーアカデミーのサイトにも掲載された演奏ということで、多少の説得力はあるかもしれませんね。もちろんこの2曲の演奏は[+++++]といたします。所有盤リストには録音年不明で掲載しました。
(参考)
2017/05/05 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)

ハンス・スワロフスキー(Hans Swarowsky)指揮のウィーン交響楽団の演奏で、ハイドンの交響曲44番「悲しみ」などを収めたLP。収録に関する情報は記載されておらず、LPのレーベルにPマークが1974年とあるのみ。レーベルはニューヨークのOLYMPIC RECORDS。
スワロフスキーのハイドンはなかなかいい演奏があり、そのスワロフスキーが「悲しみ」振ったものということで、最近オークションで手に入れたLPですが、ちょっと怪しげなLPです。LPに書かれた収録内容は以下の通り。
HAYDN:
・Symphony No.44 (Funeral)
・Italian Overture
・Trumpet Concerto
HANS SWAROWSKY conducting The Vienna Symphony Orchestra
音盤を入手すると、まずはざっと聴いて所有盤リストに登録するのですが、トランペット協奏曲にソリストの表記がありません。ちょっと調べてみたところトランペット協奏曲は手元にあるTUXEDOのCDと同じ演奏。演奏時間もほぼ同一です。TUXEDO盤はソリストがウィーンフィルのアドルフ・ホラー(Adolf Holler)でオケはウィーン響ではなくウィーン国立歌劇場管弦楽団。ついでにItarian Overtureと書かれた方も同盤の序曲(Hob.Ia:4)と同演奏。Discogsを調べるとこの演奏が色々なレーベルからリリースされていますので、このLPの表記はおそらくウィーン国立歌劇場管弦楽団の間違いでしょう。
LPのB面に収められた曲の表記がちょっと間違っているというのは、まあありそうなこと。問題は、冒頭に置かれたアルバムのメインになる「悲しみ」です。まず驚いたのが、交響曲44番と書かれていますが、収録されているのは交響曲44番とヴァイオリンとピアノのための協奏曲(Hob.XVIII:6)の2曲なんですね。レーベル面の表記は交響曲44番のPart1が交響曲全曲、Part.2が協奏曲の1楽章、盤をひっくり返してPart.3が協奏曲の2、3楽章なんですね。
このようにこのアルバムの表記は相当適当です。このLPのOLYMPIC RECORDSというレーベルの信頼性にも関わる適当さ。そこで、Discogsでこのレーベルがリリースしているアルバムを調べてみると、クラシック以外も色々あり、クラシックはThe Classical Collection、The Opera Collectionというシリーズが1973年から75年くらいまでにかなりの枚数がリリースされています。このアルバム自体は掲載されていません。それ以上のことはあまりよくわかりません。
そこで今度はスワロフスキーのディスコグラフィーを探すと、ありました。しかも由緒正しいものです。
Hans Swarowsky
ハンス・スワロフスキーアカデミーのウェブサイトです。
ご存知の通り、ハンス・スワロフスキーは指揮者としても有名ですが、指導者としての方が有名ですね。師事した指揮者はアバド、メータ、ヤンソンス、ワイルなど楽壇のトップクラスがずらり。このアカデミーのプレジデントはなんと、マンフレート・フス。そして名誉総裁はついこの間、ベルリンフィルと来日したズビン・メータです。このサイトは、スワロフスキーの偉業を称える情報が盛り沢山。ディスコグラフィー、コンサート記録、コンサートプログラム、写真、手紙などが全て整理されて掲載されています。
肝心のディスコグラフィーで作曲家別のハイドンのページにはこのアルバムが掲載されていました。しかも、トランペット協奏曲などもウィーン交響楽団とのアルバムの表記のまま掲載されています。また「悲しみ」の方も同様。オフィシャルサイトが掲載していますが、ヴァイオリンとピアノ協奏曲には触れていませんので、中身を検証しての掲載ではないでしょう。
ということで、このアルバムの「悲しみ」について、確たる情報は見つかりませんでした。果たして、スワロフスキーがウィーン交響楽団を振ったものなのでしょうか。録音があるということはコンサートでも取り上げているケースも多いと思い、コンサート記録を探してみることにしました。
そこで、ウィーン交響楽団のウェブサイトをみると、なんと、1900年以降の全てのコンサートの記録が検索できるではありませんか! そこで"Swarowsky Haydn"で検索すると36件の記録があります。残念ながら「悲しみ」やヴァイオリンとピアノのための協奏曲が演奏された記録はありませんでしたが、スイトナーがピアノを弾いた協奏曲(Hob.XVIII:11)や86番の演奏があるなど今から思うと夢のようなプログラムがならび、しばしうっとり(笑)
トランペット協奏曲と同様、ウィーンフィル(ウィーン国立歌劇場管弦楽団)の演奏である可能性も捨てきれないということで、ウィーンフィルのウェブサイトで同様の検索をすると、2件の記録があり、こちらも「ロンドン」と「雌鳥」のみでした。
色々調べた割には裏は取れず仕舞い。
私の想像というか仮説は、「悲しみ」はウィーン交響楽団のとの演奏で、穴埋めに既出のウィーン国立歌劇場管とのトランペット協奏曲を差し込み、あんまり詳しい情報を載せず、ウィーン交響楽団とだけ記載したとの説。隠し球のヴァイオリンとピアノのための協奏曲もウィーン交響楽団との録音で、担当者が曲名が分からなかったので苦肉の策で、交響曲の一部と誤魔化して収録したというものです。上司からシリーズの拡大を急かされた担当者のやっつけ仕事説です。
色々調べても確たることはわからずですが、色々想像して調べることは楽しいです(笑) どなたかこの演奏について情報がある方がいらっしゃいましたら、是非お知らせいただきたいものです。
ということで肝心の演奏です。ここまで調べてわざわざ取り上げたのは、もちろん演奏が素晴らしいからに他なりません。
Hob.I:44 Symphony No.44 "Trauer" 「悲しみ」 [e] (before 1772)
針を落とすとそれなりに鮮明でみずみずしい音が聴こえてきますが、若干ピークがびりつき気味。これはアルバムのコンディションの問題でしょう。演奏は非常に彫刻的なフォルムの美しい演奏。1楽章の入りのテンポは心地よい速さ。この端正なバランスの良いフォルムはスワロフスキーが振っているのではと思わせます。この時期のハイドンの曲に特有の憂いを帯びた響きが素晴らしいですね。
メヌエットは端正そのもの。どこにも隙なく揺るぎないながら、響きには素朴さが漂い、完璧な演奏。それによって中間部でのしなやかさが際立つ見事な演奏。
素晴らしいのは3楽章のアダージョ。なんという癒しに満ちたフレージング。ゆったりと刻まれる音楽ですが、おおらかな起伏が実に心地よい。時に光が射し、時に陰り、琴線に触れられる美しすぎる音楽が流れます。最後にさらにゆったりとテンポを落として終わりったかと思うと、実に自然に険しい響きのフィナーレに移ります。現代の機能的なオケとは異なり、アンサンブルがキレキレな訳ではありませんが、音楽としての堅固さと、やはり彫刻的なフォルムの端正さから生み出される味わい深い迫力が見事。いやいや、これは絶品です。
Hob.XVIII:6 Concerto per violino, cembalo e orchestra [F] (1766)
続く、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲もフォルムの端正さは変わらず。ヴァイオリンとハープシコードのソロはかなりの腕前。特にヴァイオリンの艶やかで存在感のある音色は印象的。音だけで奏者を当てられられるほどの耳と知見は持ち合わせておりませんので、想像の余地があることを楽しみながら聴くことにしました。こちらも2楽章が素晴らしいんですね。ヴァイオリンの美音にもう、夢見心地。古き良き時代の素晴らしい音楽に酔いしれます。ハープシコードは控えめなんですが、それがなんとも奥ゆかしい。
レビューでしっかりと聴き込んでみると、私の仮説通りに違いないとの確信を得ました。が、これは私が思っているだけで、全く違う奏者の演奏である可能性も捨てきれません。ただしハンス・スワロフスキーアカデミーのサイトにも掲載された演奏ということで、多少の説得力はあるかもしれませんね。もちろんこの2曲の演奏は[+++++]といたします。所有盤リストには録音年不明で掲載しました。
(参考)
2017/05/05 : ハイドン–交響曲 : ハンス・スワロフスキーの交響曲集(ハイドン)
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