作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

【新着】パシフィック・クァルテット・ウィーンのOp.54のNo.2(ハイドン)

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ちょっとバタバタしておりまして、間が空きました。今日は弦楽四重奏の新着アルバム。

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パシフィック・クァルテット・ウィーン(Pacific Quartet Vienna)の演奏で、ハイドンの弦楽四重奏曲Op.54のNo.2、バルトークの弦楽四重奏曲2番、ブラームスの弦楽四重奏曲Op.51のNo.2の3曲を収めたアルバム。収録は2018年3月8日から10日かけて、スイス、チューリヒ北方のドイツ国境に近い小さな街マルターレンの改革派教会(Reformierte Kirche)でのセッション録音。レーベルはオーストリアのGlamola。

パシフィック・クァルテット・ウィーンは、2006年にウィーン国立音楽大学の学生により設立されたクァルテット。ウィーン国立音楽大学といえば名門中の名門で、特に指揮者はワルター、カラヤン、アバド、アーノンクール、メータ、シノーポリ、ヤンソンスら錚々たる指揮者の出身校。ハイドン好きの皆さんにとっては、東京藝術大学とのコラボによるハイドンの弦楽四重奏曲全集「ハイドントータル」が記憶に新しいところ。このパシフィック・クァルテット・ウィーンもハイドントータルの中にOp.17のNo.2とOp.64のNo.2の2曲録音があります。その2曲の録音は2008年のもの。その演奏はハイドントータルの中でも特に目立ったものではありませんでしたが、その後Gramolaから2枚のアルバムがリリースされ、いずれも1曲目にハイドンの曲が置かれ、ハイドンの曲の面白さを素直に表現した弦のハーモニーの美しいなかなかいい演奏ということで、その2枚目のこのアルバムを取り上げた次第。

このアルバムの収録時のメンバーは以下の通り。

第1ヴァイオリン:高瀬 悠太(Yuta Takase)
第2ヴァイオリン:エスター・マヨール(Eszter Major)
ヴィオラ:チンティン・ファン(Chin-Ting Huang)
チェロ:サラ・ヴァイレンマン(Sarah Weilenmann)

ハイドントータルの演奏時は第1ヴァイオリンの高瀬さん以外はメンバーが異なります。クァルテットの情報は下記のウェブサイトをご参照ください。日本語ページのリンクです。

Pacific Quartet Vienna

Hob.III:57 String Quartet Op.54 No.2 [C] (1788)
味わい深いメロディーと展開の面白さに溢れるこの曲は名演奏ぞろいですが、この演奏は、この名曲を非常に素直にオーソドックスに演奏したもの。古楽器ではありませんが、ヴィブラートは少なめで、結果として素直に各パートの弦の響きあう美しさが浮かび上がってきます。録音は鮮明。艶やかな弦楽器の美しさが楽しめます。音のエッジではなく腹の部分を膨らませて響かせるようなボウイングが古楽器風なせいか、華やいだ雅な印象が加わります。1楽章はオルランドやリンゼイ、アウリンなどの輝かしい演奏と比べると少々地味ではありますが、端正な水彩画を見るような安堵感。聴いているうちになんとなく演奏の妙技ではなく曲自体の美しさに耳がいく不思議な感覚になります。素直で自然な表現は過飾に勝るというハイドンの演奏のいい例ですね。
第1ヴァイオリンが悲しみを帯びた鳥のさえずりのように聴こえる独特な短いアダージョも、沈み過ぎず、淡々と語る口調。そして、その語り口はメヌエットに引き継がれて、ほんの少しずつ雄弁になっていきます。いつもながら、この曲の流れを考えたハイドンのアイデアの豊富さに驚きながら演奏を楽しみます。適度に雄弁で表現に無理のない安心感に包まれます。
そして、この曲の最も面白い終楽章。端正な演奏が徐々に展開していく曲の面白さを際立たせます。表現の幅はこの曲の中でも一番大きくなり、そよ風のようなプレストを挟んで、最後にようやくグッと沈み込みます。端正というか地味目な演奏ではありますが、妙に心に響く演奏でした。

このクァルテット独自の際立つ個性があるわけでもなく、アクロバティックでもなく、しなやかさを極めた演奏でもないんですが、このハイドンの名曲の深さをしっかりと描いて、見事にまとめた演奏でした。聴く人によっては凡庸な演奏に聴こえるかもしれませんが、私にはこの曲の魅力がしっかりと伝わるいい演奏に聴こえました。やはりしっかりとした技術の裏付けがあって、また基本的な表現の確実性、そして何より音楽をまとめるバランス感覚というかセンスがあってのことでしょう。数多の名演、個性的な演奏をいろいろ聴いた人にこそ聴いていただきたい演奏と言っていいでしょう。気に入りましたので評価は[+++++]とします。



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6 Comments

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Skunjp

新ウィーン流儀のハイドン

Daisyさん、こんにちは。忙しくて少しご無沙汰していました。

最近バッハがまた心に沁みまして(笑)、ハイドンとは半々で聴いています。

さて、この度は、またなかなか優れた四重奏団をご紹介いただき有難うございます。

Pacific Quartet Viennaは初めて聴きます。

弦楽四重奏のジャンルは世界的に演奏団体も聴衆も減っているというシビアな状況がありますが、私の最も愛するジャンルですので、この団体には頑張っていただきたいです。

高瀬悠太さんのヴァイオリンがまず良いですね。音に華があってしかも格調が高いです。「音のエッジではなく腹の部分を膨らませて響かせるようなボウイング」とはなかなか的確な表現ですね。これがまさにウィーン流儀です。

しかも高瀬さんは安易な伝統への迎合とは一線を画しており、甘過ぎず、しなやかでスッキリした表現は新時代のウィーン流儀を思わせます。時々、ハッとするような即興が入っており、それがとても新鮮で、あまり伝統にとらわれない方であることが判ります。

ところが、この素晴らしい第1ヴァイオリンに遠慮しているのか、第2ヴァイオリンと特にチェロが控えめで、ハイドンのOp.54の2は第1ヴァイオリン以外もガシガシ弾いてもらわないと立体感が出ないので(たとえば第一楽章展開部最後の部分の第2ヴァイオリンとチェロの分散和音)そこが若干残念ではあります。

特に第四楽章アダージョは第1ヴァイオリンの主旋律とチェロの上行分散和音との対話なのに、チェロがほとんど伴奏になっているのが勿体ないですね。

いろいろ難癖を付けて申し訳ないですが、非常に優れた団体であることには変わりありません。

ことに第三楽章の充実感とスケール、表現の多様さ、深さは今まで聴いたことがないレベルで、このような感じで全体が揃えば、非常に期待できると思います。これからますます熟成して大きく成長していただきたいです。


※もう一枚のCDにはOp.20の4が入っていますね。未成熟ではあるものの新鮮でなかなか良いです。チェロの消極性は感じないので、Op.54の2の時はたまたまだったのかもしれません。

  • 2019/06/04 (Tue) 15:19
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: 新ウィーン流儀のハイドン

Skunjpさん、コメントありがとうございます。

>しかも高瀬さんは安易な伝統への迎合とは一線を画しており、甘過ぎず、しなやかでスッキリした表現は新時代のウィーン流儀を思わせます。時々、ハッとするような即興が入っており、それがとても新鮮で、あまり伝統にとらわれない方であることが判ります。

いつもながら、含蓄に富んだコメント、恐れ入ります。
高瀬さんのヴァイオリンはおっしゃるように伝統的という感じはせず、そして甘すぎず、スッキリしているところが美点ですね。なんとなくウィーンの伝統と日本人のさっぱりとした感性の融合によるものという気がしてきました。

また、言われてみるとチェロが踏み込んでこないことが逆にヴァイオリンを目立たせているのかもしれませんね。アンサンブルよりも第1ヴァイオリンがクァルテットの印象を決めてしまう存在感があるということでしょうか。

やはりクァルテットは奥が深い。演奏により曲の印象も様々。まだまだ修行が足りませんな(笑)

引き続きよろしくお願いいたします!

  • 2019/06/04 (Tue) 17:08
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Skunjp

訂正です!名演です(^-^;

先日はだいぶ辛口なコメントを寄せてしまい申し訳なく思っています。

今朝も聴いていますが、だいぶ印象が変わって、各楽器のバランスもこれはこれで十分アリで、この素晴らしい第一ヴァイオリンを立てたいというか、彼の音楽性の卓抜ゆえに自然にこの結果になったのでしょう。

それよりも、今回気付いた美点として、この団体のアゴーギク(リズムおよびテンポの細かい伸び縮み)の巧みさ、心地よさがあります。

それは、Daisyさんも指摘しておられる通り、「ウィーンの伝統と日本人のさっぱりとした感性の融合」であることに気づかされました。

旋律の中に、フッと時間的なタメを作るその独特のアゴーギクのあり方に、日本の伝統音楽の「間」を感じるのです。これがとても良いのです。

もう一枚のCD冒頭に黛敏郎さんの曲が入っており、これが「間の音楽」の極致で、そこがこの団体の特長を象徴的に表していると感じました。

このOp.54の2ですが、楽章間のテンポと表情の設定も一貫した自然な流れが良く、少しアップテンポの第二楽章も、慣れてくればの第三楽章の存在感が圧巻なので、これはこうでなければならないのだろうと納得しました。

それにしても、普段はあまり目立たない第三楽章がこの団体だと非常に充実感をもって響きます。…これはいったい何なのでしょうね!

メインの第四楽章も先日感じた不満はあまり感じず、堂々と終わります。

文句なしの名演奏です!

(先日のあの感じ方は何だったのだろう?…まだまだ未熟者です)

  • 2019/06/07 (Fri) 12:11
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Skunjp

道場破り風のご紹介

ついでに、ちょっと道場破り風のご紹介を。

半年前位から好きで良く聴いている女性四人のクァルテットがあります。Daisyさんのリストにない演奏です。はい(^-^;

Quatuor Zaide(ツァイーデ四重奏団)の作品50全曲です。

最初、見目麗しい四人の美女の演奏ということで少し割引気味に聴き始めたのですが、いやいやなかなかどうして、これが素晴らしい演奏なのです。

落ち着いた格調の高さ、とかいうのではなく、いきいきとヴィヴィッドで、ハイドンの音楽的な幅を思いっきり拡張したような目の覚めるばかりの切れの良さ!

しかし音楽的に奇異な感じはなく、スジの通った安定感、心地よいドライブ感があります。録音もリアルで最高!

Youtubeで一部見ることができますが、保守的なこのジャンルに新風を吹き込むような潔さに、私は声援を送りたくなりました。
ttps://youtu.be/kqKPcHDrePo

そのような彼女たちの演奏の基本は、腕の立つ四人が、ああでもない、こうでもないと、様々に試行錯誤した末に結んだ果実なのでしょう。
ttps://youtu.be/KlD2Ld8-AVk

私の感想は以上ですが、返り討ちはごかんべんを~ (^-^;


※ちなみに下記が団体の紹介文です。

「女性ばかり4人のツァイーデ四重奏団(Quatuor Zaïde)は2010年に結成わずか1年でボルドー国際弦楽四重奏コンクールにおいて国際プレス賞を受賞。その後バンフ国際コンクール第3位、C.ヘンネン・コンクール第1位と立て続けに受賞。2012年にはウィーンのハイドン国際コンクールで第1位に輝くとともに、ハイドン賞、新ウィーン楽派賞、委嘱作品賞を総なめにし、圧倒的な実力を証明した今注目のライジングスター。すでにヴィグモア・ホールやシテ・ド・ラ・ムジークで演奏、ベルリン・フィルハーモニーやウィーン・ムジークフェラインへのデビューも間近。」

  • 2019/06/07 (Fri) 12:14
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Daisy

Daisy

Re: 訂正です!名演です(^-^;

Skunjpさん、再びコメントありがとうございます。

前回のコメントは妙に説得力があり、なるほどそう聴くのかと膝を叩いていたところでした。この演奏に限らず、私も最初に聴いた時と何度か聴いた後で印象が変わることはままあります。特に比較的穏やかな演奏はその傾向が強いので、記事にするものは何度か聴いています。というより、書きながら繰り返し聴いて文をひねり出しているというのが正直なところです。

このOp.54のNo.2は各楽章のつくりがかなり個性的なので、聴くごとに印象が変化しますね。ちなみに、私は自分が演奏しない(できない)ので、突っ込んで批判的なことも書かない(書けない)のです。括弧内が実態です(笑)

いつも色々な視点からコメントをいただき、全くもって勉強になっておりますので、今後とも筆の勢いを落とさず、忌憚なく書き込まれますようお願いいたします!

  • 2019/06/08 (Sat) 00:42
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: 道場破り風のご紹介

Skunjpさん、コメントありがとうございます。

返信遅くなり申し訳ありません。確かに未知のクァルテット! しかも美女ぞろいということですが、ウェブサイトを拝見するとなかなかしっかりとしたコンセプトがありそうということで興味を持った次第。レビューをしようと少し調べ始めると、この音源、7月にCDもリリース予定とのこと。うちのMacでSpotifyでもそこそこいい音ですが、弦の音が若干ざらついて聴こえるため、レビューはCDの到着を待ってすることにいたしました!

道場の門はいつも開けてありますので、道場破りはいつでもお受けできるよう精進しております(笑)

  • 2019/06/15 (Sat) 22:37
  • REPLY