作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

ジャン=ベルナール・ポミエのXVI:37(ハイドン)

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ちょっと間が空きました。今日は最近入手した古いLP。

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ジャン=ベルナール・ポミエ(Jean-Bernard Pommier)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ(Hob.XVI:37)などを収めたLP。収録情報は記載されていませんが、ライナーノーツの文面が1964年に記載されていることから、このころの録音でしょう。レーベルは仏LA VOIX DE SON MAITRE。

このアルバム、"Le 1er disque de jean-bernard pommier"というタイトルということで、ピアニストのジャン=ベルナール・ポミエのデビュー盤でしょう。ジャケットに写る深い陰影の若き奏者のオーラにつられて最近オークションで手に入れましたが、私は初めて聴く人。ちょっと調べると、ベートーヴェンやモーツァルトのピアノソナタ全集を録音していることからご存知の方も多いのかもしれません。

いつものように奏者の情報を調べているうちに、このアルバムの凄さが垣間見えてきました。このアルバムのライナーノーツはルイーズ・ド・ヴィルモラン(Louise de Vilmorin)というフランス人の女流作家による"Mon cher Jean-Bernard"(愛するジャン・ベルナールへ)という文章が綴られているのですが、内容はフランス語のため、私には解読不可能(笑)。ただ、このルイーズ・ド・ヴィルモランという人を調べてみるとすごい人。「ルイーズ」という彼女の評伝が出版されており、その評伝によると、、、

サン=テグジュペリの婚約者となり、ジャン・コクトーに求婚され、オーソン・ウェルズを燃え上がらせ、アンドレ・マルローの伴侶となる…あらゆる知的男性のミューズだった伝説の女流作家。


と書かれているではありませんか。そのルイーズ・ド・ヴィルモランがデビュー盤のライナーノーツを書いているということでも、ポミエの存在感が際立つわけです。ルイーズは1902年生まれで、1969年に亡くなっていることから、このアルバムのライナーノーツを書いたのは還暦を過ぎた晩年のこと。ジャン=ベルナール・ポミエは1944年生まれということで、このアルバムは20歳でのリリース。ルイーズは容姿を含めて若きポミエの才能を見抜いたのでしょう。

肝心のポミエの情報にも触れておきましょう。生まれは南フランスモンペリエ近郊のベジエ(Beziers)。4歳でピアノをはじめ、7歳でコンサートデビュー、パリ音楽院ではピアノをイヴ・ナットとピエール・サンカン、指揮をウジェーヌ・ビゴーに学びます。1960年のベルリンの若手音楽家コンクールで1等、1962年のモスクワのチャイコフスキーコンクールの最終選考まで残るなどの成績により頭角を現し、以後、世界の楽壇で活躍するようになります。その後は指揮者としても活躍されピアニストとしても指揮者としても多くの録音を残しているようです。

Hob.XVI:37 Piano Sonata No.50 [D] (c.1780)
このアルバムの1曲目に置かれたのがハイドンのソナタ。Sonate No.7 en Ré Majeurと記載がありますが、聴いてみるとこれはNo.37の誤りで、次のモーツァルトのNo.7(K.309)との混同でしょう。
録音はステレオで鮮明。硬質なピアノの響きと非常に軽やかなタッチが印象的。1楽章だけ聴いていたら記事を書くほどとは思わなかたのですが、続くラルゴに入ると、1楽章のタッチの軽やかさと軽妙洒脱な演奏から一転、非常に雄弁かつ詩情溢れる深々とした演奏になります。このラルゴへの劇的な展開の閃きこそポミエの真髄と見切りました。そしてフィナーレの枯淡の境地のような落ち着いた表現は凄みすら感じさせるほど。ハイドンの短いソナタで、冴え冴えとしたタッチとこれだけの表現の幅を聴かせる才能は見事という他ありません。

この後のモーツァルトでは、さらに冴え冴えとしたタッチの魅力炸裂。表現の方向は違いますが、この恍惚感はグールドを思わせるもの。ルイーズ・ド・ヴィルモランの気持ちがわかったような気がしました。

ハイドンの他の収録曲は以下の通り。
モーツァルト:ソナタ No.7(K.309)
シューベルト:即興曲集(Op.90のNo.2)
ベートーヴェン:ソナタ No.13
シューマン:アラベスク(Op.18)
ブラームス:3つの間奏曲(Op.117)からNo.2

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このアルバム、義父の葬儀などでしばらくオークションから遠ざかっていましたが、ひと段落した10連休中の3日に久しぶりにオークションを再開して手に入れたもの。今日クリーニングして針を落としてみて、なかなかの演奏ということで記事を書き始めましたが、奏者のポミエのことを調べ始めて、ライナーノーツを書いたルイーズ・ド・ヴィルモランにつながり、奇遇にもその婚約者だった「星の王子さま」の著者のサン=テグジュペリにつながった時にはびっくり。実は「星の王子さま」は読書家だった義父の1番のお気に入り。自宅に戻ってしばらくで亡くなった義父の本棚には「星の王子さま」の研究書があり、4月29日の葬儀では棺にはその本を入れて旅立ちました。このアルバムとの出会いは義父がつなげてくれたのかもしれません、、、
ハイドンの評価は[+++++]とします。



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4 Comments

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小鳥遊

ポミエ!

ご無沙汰致しております。
ポミエが遂に取り上げられたので沈黙を破ります(笑)

このレコードは、私が今まで購入した中でも、最も高価な物の一つで(単に高掴みしただけなのですが)、それだけの価値のあるものでした。

私は、ポミエは、ベートーヴェンのソナタの全集で最も好きな録音で、この録音に出会って初めてベートーヴェンのピアノ作品が聴ける様になった、と言っても過言じゃないです。

とても切れ味鋭く、解釈にも独自性があるのに、自然体に聴こえる所がつぼでした。

最近は、ヴラダーの様な王道により惹かれる様になっては来たものの、やっぱり、ポミエは聴けば、いつもその新鮮さにやられてしまいますね。

もっと沢山、ハイドンを録れて欲しかったです。

定評あるモーツァルトよりも、余程ハイドンとの相性の方が好い人だと思います。

Daisy

Daisy

Re: ポミエ!

小鳥遊さん、コメントありがとうございます。

流石に広大な守備範囲を誇る小鳥遊さん、ポミエを押さえていらっしゃいましたか。ハイドンにほぼ特化している私はポミエにはハイドンのこのアルバムから入りましたが、やはりベートーヴェンは評判通り素晴らしいようですね。

>この録音に出会って初めてベートーヴェンのピアノ作品が聴けるようになった、と言っても過言じゃないです。

この一文、非常に気になります。
ハイドンの音楽には美しいメロディーと曲ごとに見事に展開する構成の面白さ、素朴さがあり、その簡潔さを愛する私にとって、時にモーツァルトさえくどく感じることもあり、ベートーヴェンに至っては、正座して向き合わざるを得ない堅苦しさがあり、好んで聴くという範疇ではありません。

一度ポミエのベートーヴェンを聴いてみなくては、、、

  • 2019/05/14 (Tue) 00:48
  • REPLY

小鳥遊

モーツァルトのくどさには、私も長年悩まされて来ましたが、若い頃のツァハリアスの録音(特にコンツェルト)を聴いて、すっかりイメージが変わり、実は今年、今更ながらモーツァルトにはまりかけてます。

ソナタは、ツァハリアスも好ましいですが、以前ハイドンでも高評価を頂いたレイグラフが極上で、逆にポミエはちょっと才気が煩く聴こえました。

ソナタの全集録音を一つ採るなら、ベートーヴェンはポミエ、モーツァルトはレイグラフ、ハイドンはアクルでしょうか。

次点は、それぞれビレット、ツァハリアス、マッケイブ(←異論が激しそう)。






Daisy

Daisy

Re: タイトルなし

モーツァルトはハイドンよりも早く亡くなりましたが、弟子筋に当たりますので、より発展させようとする方向が、時にくどさにつながる部分もあるということでしょう。それが目立つのは弦楽四重奏のような気がします。構成の巧みさはハイドンに分がありますが、メロディーの美しさや閃きはモーツァルトですね。

私もモーツァルトは好きで、ピアノはハスキル推しですが、最近は古楽器で聴くことが多くなりました。ソナタはポミエは取り上げたLPのみ、ツァハリスもレイグラフも未聴です。少し裾野を広げなければ、、、(笑)

さて、本日はトッパンホールにブラウティハムのハイドンとベートーヴェンを聴きに行きます!



  • 2019/05/15 (Wed) 02:26
  • REPLY