【新着】マクスウェル四重奏団のOp.71(ハイドン)

久々に新着アルバムを取り上げます。

MaxwellQ.jpg
TOWER RECORDS / amazon

マクスウェル四重奏団(Maxwell Quartet)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.71のNo.1からNo.3と各曲後にスコットランドの伝統音楽が3曲配されています。収録は2018年4月11日から14日にかけて、ロンドンの南にあるストーク(stoke)にあるユーディ・メニューヒン音楽学校のメニューヒンホールでのセッション録音。レーベルは英LINN。

マクスウェル四重奏団とは聞いたことのない団体ですが、それもそのはず、新設団体のデビュー盤ということです。王立スコットランド音楽院を卒業した4人によって2010年に設立され、翌年には同音楽院のレジデントアーティストになります。2014年にメンバーが一部入れ替わり、2017年にはトロンヘイム国際室内楽コンクールで1等と観客賞を受賞。以後イギリスを中心に欧米諸国で活躍しているとのこと。このアルバム録音時のメンバーは下記の通り。

第1ヴァイオリン:コリン・スコビー(Colin Scobie)
第2ヴァイオリン:ジョージ・スミス(George Smith)
ヴィオラ:エリオット・パークス(Elliott Peaks)
チェロ:ダンカン・ストラチャン(Duncan Strachan)

ジャケットに写る4人の姿は印象的。森の中にたたずむ4人がじっとこちらを見据えて黙って演奏を聴けとでも言っているよう。流石にLINNレーベルからデビュー盤がリリースされるだけあって、演奏は実にフレッシュかつレベルの高いもの。Op.71が新鮮に感じる見事なものです。

Hob.III:69 String Quartet Op.71 No.1 [B] (1793)
流石にLINN。澄み渡る空気感。スピーカーのやや奥にクァルテットが鮮明に定位するシャープな録音。まるで森の中を吹き抜けるそよ風のように1楽章が響きます。リズムの軽やかさは尋常ではありません。フレッシュという言葉がピタリとくる演奏。デビュー盤でこの鮮度勝負のようにフレッシュな音楽を繰り出してくるあたり、相当な実力とみました。展開部に入ると小気味よく畳み掛けるようなスリリングさが心地良いですね。
アダージョに入ってもフレッシュな響きは変わらず、訥々とメロディーを語っていきます。第1ヴァイオリンを中心に各パートが非常にデリケートな弓使いでアンサンブルも精緻。響きをキッチリと合わせるアルバン・ベルクのような精緻さではなく、それぞれのしなやかさが精緻に重なっている感じ。
メヌエットはさっと雰囲気を変え、軽やかに起伏を超えていく快感に満ちたもの。フレーズごとの表情の変化の面白さは類稀なもの。
そして、その面白さはフィナーレでも健在。ハイドンの音楽の面白さの真髄を突くもの。華やかにメロディーが舞い、アンサンブルの緊密な軽やかさで聴かせきります。これは素晴らしい。

曲後に箸休め的にマクスウェル四重奏団編曲の編曲によるスコットランドの曲が置かれます。
キャプテン・サイモン・フレイザー(Captaio Simon Fraser:1773-1852)の「美しきスコットランドの北(The Beauty of the North)」、ニール・ガウ(Niel Gow:1727-1807)の「ミス・ダンブリック(Miss Dumbreck)」を合わせて6分ほどの曲。前者は不思議と郷愁を感じさせる独特のメロディー。後者はケルト民謡ような曲。ハイドンの曲にこれらを挟んでくるのは彼らが出身地であるスコットランドにオリジンがあるとのメッセージなのでしょう。

Hob.III:70 String Quartet Op.71 No.2 [D] (1793)
1曲めでマクスウェル四重奏団の音楽の素晴らしさがわかりましたので、安心してNo.2を聴けます。冒頭から第1ヴァイオリンのコリン・スコビーの軽やかなボウイングが実に心地いいですね。リズムのキレとフレッシュさは変わらず、そしてアンサンブルの緊密さも同様。各パートが自在にさえずりながら音楽が流れていく快感。
続くアダージョ・カンタービレではカンタービレだけあって、メロディーを朗々と弾いて、ハイドンの書いたメロディーの美しさを際立たせます。フレージングが非常にデリケートなのでメロディーの美しさが最大限に表現されています。メヌエットは軽やかに弾んだのはフィナーレの落ち着いた入りを引き立たせるため。変化に富んだフィナーレを正攻法で攻めますが、表現に余裕があるため堅苦しくなることはなく、4楽章の構成をしっかりと見切っての解釈でしょう。終結部の鮮やかな音階も余裕たっぷり。

この曲間はジェームズ・スコット・スキナー(James Scott Skinner:1843-1927)の「アレンヴェール墓地の薔薇の蕾(The Rosebud of Allenvale)」とジョージ・スミス(メンバー)の「ガーズウェル農場での永遠の誓い(Guardswell and Truly)」、ジェームズ・スコット・スキナーの「ハリケーン(The Hurricane)」。無印良品のBGM的癒し系音楽ですね。

Hob.III:71 String Quartet Op.71 No.3 [E flat] (1793)
Op.71の中では最も躍動的な1楽章。まさにさえずるように自在な第1ヴァイオリンの存在によって、実に軽やかに響きます。これほど軽やかなこの曲は聴いたことがありません。一貫して演奏スタイルは保ちますが、一貫して自在なため、単調さの対極にある変化に富んだ音楽が一貫して流れます。2楽章はメロディーがゆっくりと展開していく面白さをじっくり料理する感じ。そして続くメヌエットは表現を抑えて、繰り返されるメロディーによるあえてコミカルな余韻を引き立てるよう。そしてフィナーレも表現が難しい曲ですが、繊細な感性によって表現される穏やかさを軸にして入りますが、中盤以降の音階の展開に表現を引き継いで曲の個性を印象付けます。最後は鮮やかな弓捌きを聴かせて終了。なかなか巧みな表現。

最後はマクレガー夫人(Lady MacGregor)のGriogal Cridhe 'Gregor's Lament' 「最愛のグレガー(グレガーの嘆き)(Griogal Cridhe 'Gregor's Lament')」 。最後の箸休めはスコットランドの荒涼とした景色が目に浮かぶような哀愁に満ちたメロディー。ゆっくりと呼吸するように流れ、これも感動的。ハイランドモルトを飲みたくなってしまいますね。

マクスウェル四重奏団によるハイドンのOp.71ですが、これはOp.71のベスト盤と断じます。グリラーも良いのですが、このマクスウェル四重奏団の演奏は、この曲集の爽やかな魅力にスポットライトを当てた名演奏。録音も完璧で間に置かれたスコットランドの曲も、どれも素晴らしく聴きごたえ十分。これは次なるハイドンの録音も期待してしまいますね。評価は全曲[+++++]といたします。室内楽、弦楽四重奏曲好きな皆さん、必聴です!

(追伸)
若手の演奏がお好きなSkunjpさんも是非! 道場破り返しではありません(笑)



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テーマ : クラシック
ジャンル : 音楽

tag : 弦楽四重奏曲Op.71

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No title

Daisyさん。いやー、以心伝心とはまさしくこの事かと・・・。
件のツァグロゼク盤を購入する際、某通販サイトでの5点で〇〇%オフキャンペーンを充足するために追加でカートに入れたのが当盤でした!(他には、BISの米響子嬢のイザイ無伴奏ソナタ新発見版付きなど・・・)
おまけが3曲も付いて演奏も良しとなれば、小生の評価も「+++++」となるのは当然です!
ただ、LINN RECORDSの工場がいつの間にかリトアニアに移転して、その為かリリースがSACDハイブリッド盤で無くなったのは少し残念です!本家オーディオのLINNが、ディスクプレーヤーをディスコンにして久しいので、仕方ない事なのでしょうが・・・。
また、(HMVのレビューでも散々投稿しておいてくどいですが・・・)当盤を「+++++」とすると、ご存知「グリラー弦楽四重奏団」の演奏(ヴァンガード、1959年録音)が「+++++++」いや「+++++++++++」になってしまうのは、性というか業なのでしょうねー!

Re: No title

だまてらさん、コメントありがとうございます。

やはり興味の対象は重なるものですね。グリラーもいいですが、このマクスウェルも最近の録音の中ではピカイチの出来です。

ちなみにLINN RECORDSの工場移転によってSACDではなくなったということは、ヨーロッパではSACDはトレンドから外れたということでしょうかね。LINNはともかく欧米のプレイヤーでSACDに対応しているものはほんのわずかしかないので、その流れは鮮明かもしれませんね。ちなみにCD規格でハイレゾに対応したMQAなる規格もディスクが発売されているようですので、もう少し様子を見てみたいと思います。ハイレゾすら導入していませんので永遠に様子見かもしれません(苦笑)
プロフィール

Daisy


Author:Daisy

ハイドン(Franz Joseph Haydn)の膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。私はなぜハイドンにはまったのか?

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(2019年3月31日)
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