作曲家ヨーゼフ・ハイドンの作品のCD、LP、映像などを収集しレビューしています。膨大なハイドンの作品から名盤、名演奏を紹介します。

エンゲゴール四重奏団のOp.76のNo.5(ハイドン)

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先日、当ブログの影のご意見番たるSkunjpさんから、このアルバムが所有盤リストにないのはブログの沽券に関わるとの愛情あふれるご指摘をいただき発注していたアルバムがようやく入荷。レビュー致しますです(笑)

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エンゲゴール四重奏団(Engegårdkvartetten)によるハイドンの弦楽四重奏曲Op.76のNo.5、ライフ・スールベリの弦楽四重奏曲ロ短調、グリーグの弦楽四重奏曲(作品27)の3曲を収めたSACD。収録は2007年10月、ノルウェーのオスロにあるJar Kirkeでのセッション録音。レーベルはノルウェーの2L。

エンゲゴール四重奏団の演奏は、以前に一度取り上げています。

2013/08/08 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : 【新着】エンゲゴール四重奏団のOp.77のNo.1(ハイドン)

この時には今日取り上げるアルバムは手に入らなかったのでそのままにしておりました。演奏も若手のクァルテットと荒っぽいまとめ方をしておりましたが、どっこいこのエンゲゴール四重奏団、第1ヴァイオリンのアルヴィド・エンゲゴールは、名演奏で鳴らしたオルランド四重奏団の第1ヴァイオリン奏者であったということがのちに判明。

2018/10/14 : ハイドン–弦楽四重奏曲 : オルランド四重奏団のOp.76のNo.1(ハイドン)

それ以来、ちょっと気になる存在になっておりました。それでも何か行動に移したかといえば、そうではなく気になるというだけでしたが、先日Skunjpさんからこのアルバムが当方の所有盤リストになく、行間を想像すると「これを聴かずしてエンゲゴールを語るな」としか聞こえないようなコメントをいただき、ようやく注文して手に入れたという流れ。経緯はともかく、こうしたアルバムは虚心坦懐に奏者の奏でる音楽に打たれるべきとの経験則から、レビューに取り上げた次第。

このアルバム録音時のメンバーは以下の通り。

第1ヴァイオリン:アルヴィド・エンゲゴール(Arvid Engegård)
第2ヴァイオリン:アトレ・スポンベルグ(Alte Sponberg)
ヴィオラ:ジュリエット・ジョプリング(Juliet Jopling)
チェロ:ヤン=エーリク・グスタフソン(Jan-Erik Gustafsson)

以前取り上げたアルバムが2012年の録音。このアルバムは2007年の録音。クァルテットの設立が2006年ということで、こちらの方が古く、設立直後の録音です。奏者も以前取り上げたアルバムとチェロが異なります。クァルテットについては前記事で触れていますのでそちらをご参照ください。

Hob.III:79 String Quartet Op.76 No.5 [D] (1797)
このアルバム、録音は鮮明かつ直接音重視で教会での録音にも関わらずちょっとデッド気味。SACDは5.1チャネル音声も収録されていますが、当家の再生環境はステレオのみなので、5.1サラウンドで聴くとまた印象は異なる可能性があります。入りはハーモニー重視というよりは各パートが独立してメロディーを奏でるのが結果的に縦の線が合ってきているという感じのアンサンブル。各パートが個性を競い合いながらテイストは乱さず、鋭利なアクセントで刺激し合う感じ。それぞれが伸び伸びと弾いているのがわかります。聴き進むうちにだんだん音楽に一体感が生まれてくるから不思議です。それぞれ音階を奏でながらザクザクと切り込んでいきます。1楽章の最後はキレキレ。
続くラルゴはしなやかなハーモニーの美しさで聴かせるクァルテットが多い中、ここでも鋭い響きでストイックな攻め込みを見せます。耳を澄ますとデュナーミクをかなり緻密にコントロールしているのがわかります。この名曲のメロディーに潜む侘び寂びのような心境がエンゲゴールの演奏で強調される感じ。最後は消え入るように静寂に包まれます。
メヌエットは音の迫力ではなくすっきりとした響きのメロディーラインで躍動感を出そうとしています。響きがすっきりしている分、ボウイングも鮮明にわかり、アクセントもこれ以上激しいと嫌味になる寸前でバランスを保っています。
この演奏のクライマックスは終楽章。鮮烈なまでにリアルなヴァイオリン。ここにきてアンサンブルがピタリと合って、メロディーラインは誠に刺激的。若手らしくボウイングが弾み、鋭い音階が切れ込みまくります。この終楽章のキレ方は並ではなく、弦のテンションが他のクァルテットとは異なるのではないかと思わせるほど。4楽章の最後にフォーカスを合わせてキレて終えるという設計でしょう。

エンゲゴール四重奏団のOp.76のNo.5はまさにボウイングキレキレの自由闊達な演奏でした。デッドな録音ということもあり、スリリングかつ鮮明な響きでこのハイドンの傑作の構造が浮かび上がり、そして骨格標本を見るように構造がはっきりとわかります。このクァルテットのデビユーから間も無くで録音されたアルバムということで、クァルテット草創期の息吹が伝わってくるよう。以前取り上げたこの後の録音についてはちょっと荒さも見られるということで、やはり気合の乗った時期の演奏はそれなりの結果をもたらすということでしょう。評価は[+++++]とします。

道場破り対応終了です(笑)



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4 Comments

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Skunjp

エンゲゴールの産みだす音楽の「鮮度」

Daisyさん、こんにちは。お久しぶりです。

少し忙しくてバタバタしていました。あまり遠ざかると「影のご意見番」の影が薄くなりすぎて、そのうち消えてなくなるかもしれません(笑)

さて、道場破りのつもりではなかったのですが、エンゲゴールSQの当盤をレビューしていただきありがとうございます。これを機会に多くの人に知っていただきたい名盤だと思います。

名盤と言っても各項目の平均点の高い八方美人的な名演ではなく、一方向に突出した演奏だと思います。

その一方向とは、卓越したリーダーであるエンゲゴールの産みだす音楽の「鮮度」です。


聴きなれた曲の演奏ほど「鮮度が大切」と私は思います。

演奏の鮮度とは、「解釈の新鮮」や「録音年が新しい」といった表面的な事ではありません。

演奏者が、「今、この一曲だ!」と思いつめ、感動しつつ、全力投球で演奏するその姿勢です。

エンゲゴールのOp.76の5にはそれがあります。演奏者が「今、惚れている!大好き」なのです(笑)

ですから、当然、Op76の全曲録音とかには発展しないでしょう。残念ながら。

ところが私達にとって、このような演奏こそ、今まで手あか、耳あかのついた有名曲を洗い直す効果があります。

今、できたてのホヤホヤであるかのように目の前に「ハイ」と差し出され、食べたら物凄くおいしくて、その鮮度に驚く、という感じでしょうか。

特に第一楽章は、最後の最後まで手に汗握るクライマックスが延々と続き、最後に皆がルール無視で抜け駆けするように飛び出してゴールインするという目の覚めるような解釈(いつもここで背筋がゾゾーッとします)!

…というか、これは解釈ではなく、曲がそのように出来ているのですね。そのことを発見させてくれる演奏です。

そうすると第二楽章冒頭の沈み込みが生きてきます。しかも沈潜せずに細かくうねるように盛り上がるのはDaisyさんも指摘しておられる所です。

そして、自由闊達な第三楽章を経て、終楽章の丁々発止キレキレの大討論会!

聴き終わって、「ハイドンは何て素晴らしい作曲家なのだろう!」とため息を漏らすことになるのです。

ハイドン万歳!


Daisyさんが、見事に道場破りに対応していただいた、その手腕にも感服いたします!

さて、次なる室内楽あるいはピアノ曲のターゲット、期待しております(笑)

  • 2019/03/18 (Mon) 10:07
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: エンゲゴールの産みだす音楽の「鮮度」

Skunjpさん、今回も長文コメントありがとうございます!

勝手に「影のご意見番」というレッテル貼らせていただいてますが、投稿頻度に関わらず終身職ですのでご安心ください(笑)

>聴きなれた曲の演奏ほど「鮮度が大切」と私は思います。

まさにその通りですね。名曲の名演奏もいいものですが、今までの演奏の垢を全く感じさせないような新鮮な解釈によって曲の新しいイメージを描いていき、結果としてそれが曲のより本質的な魅力を浮かび上がらせてくれます。エンゲゴールのこの演奏はまさにその典型でしょう。

コメントをいただいてからまた聴き直しましたが、1楽章の終盤の駆け抜けるようなフィニッシュから、ラルゴに入るあたりの展開は本当にゾクゾクしますね。ラルゴの終わりの静寂、メヌエットのトリオの部分の草書のような筆使い、そしてフィナーレの鮮烈なキレ方といい、まさに鮮度抜群の演奏。この曲からここまで垢をそぎ落としてくるのは酔眼ですね。聴けば聴くほど深い洞察力を感じる素晴らしい演奏です。

結果的にはハイドンの曲自体に仕込まれた音楽がいかに素晴らしいものだったかを思い知るわけです。

色々聴いてはいても、こうした演奏の素晴らしさを見抜くには、こちらの耳も洞察力も必要ですね。道場破りを覚悟する緊張感も持ちながら、修行を続けます。

(追伸)またの道場破り、お待ちしています。確か前回はフランチスカスでしたね!

  • 2019/03/18 (Mon) 22:19
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だまてら

No title

おや、懐かしい(って程ヒストリカルではありませんが・・・日付的には9年前、東日本大震災より以前のことでした)盤です。道場破りはしませんでしたが、当サイトからリンクが貼ってあるHMV onlineでの唯一のレビューは小生が投稿したものです。五つ星を付けているので、「ラルゴ」を聴いたときのサプライス感がすぐに蘇ってきました。
但し、レビューではカップリングのスールベリを「いわゆるフツーの曲」と抑えめに記述しましたが、ハイドンと比べてしまうと「凡庸な曲!」というのが正直なところです。

  • 2019/03/21 (Thu) 21:32
  • REPLY
Daisy

Daisy

Re: No title

だまてらさん、お世話になります。

そういえば、当番はだまてらさん推しのアルバムでしたね。当時青いほうはすぐに手に入りましたが、赤いほうは在庫がなくそのままになっていたのが、今頃手に入ったという流れです。クァルテットの面白さを非常に深いレベルで感じさせてくれた名盤ですね。当時、慌てて黄色い方も入手しようと注文しようとしたんですが、それにはハイドンが入っていなかったのを注文する前に知り、思いとどまることができたのをよく覚えています(笑)

  • 2019/03/24 (Sun) 21:53
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