【新着】クリスティアン・ベズイデンホウトのソナタ集(ハイドン)
久々に、これぞというアルバムに出会いました。

TOWER RECORDS / amazon / HMV&BOOKS online
クリスティアン・ベズイデンホウト(Kristian Bezuidenhout)のフォルテピアノによるハイドンのピアノソナタ集。収録曲は(Hob.XVI:20、XVI:6、XVI:48)、弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」の2楽章「神よ、皇帝フランツをまもりたまえ」の主題による変奏曲、アンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)の5曲。収録は2017年9月、アムステルダム近郊のハールレム(Haarlem)にある統一メノナイト教会(Doopsgezinde kerk)でのセッション録音。レーベルは仏harmonia mundi。
奏者のクリスティアン・ベズイデンホウトは私は初めて聴く人。調べてみるとharmonia mundiからはフォルテピアノによるモーツァルトのピアノソナタ全集がリリースされ、そのほかフライブルク・バロックオーケストラとのモーツァルトのピアノ協奏曲が進行中。またメンデルスゾーンの協奏曲集、イザベル・ファウストとのバッハのソナタ集、マーク・パドモアとのシューベルトやベートーヴェンの歌曲集などがリリースされており、harmonia mundiの看板アーティストという感じ。そのほか、Onyxレーベルからはヴィクトリア・ムローヴァとのベートーヴェンのヴァイオリンソナタ集、DGからもアルバムがリリースされるなど、アルバムも多数に渡るため、ご存知の方も多いでしょう。このアルバムで初めてベズイデンホウトに出会った私は、ハイドンばかり聴いていると世情に疎くなるものだと痛感した次第(笑)
このアルバムのジャケットに写るベズイデンホウトは、なかなか彫りの深い、人生経験豊富な姿に見えますが、同じくharmonia mundiから先にリリースされているモーツァルトのソナタ集のジャケットに写る姿は若々しくイケメン売り。なんとなく表現の熟成を想起させますが、まさにこのハイドンのアルバムは表現の陰影の深さを印象付けるものでありました。
Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
楽器は2009年製のチェコのPaul McNultyによるもので、1805年製Anton Walter & Sohnの複製品。フォルテピアノにつきものの音程の揺らぎが全く感じられないもので、非常に澄んだ響きが印象的。調律もかなり追い込まれているものと思われます。冒頭から落ち着いたリズムを刻みながらも多彩なタッチで音色が極めて豊富。フォルテピアノの構造体に響く余韻が気持ちよく響くタッチの強さを完全に掌握して、楽器を無理なく鳴らしている感じ。同じくタッチの表現の幅の広さを誇るブラウティハムがより力感を重視したタッチなのに対し、ベズイデンホウトはより繊細でニュートラルな印象。1楽章はまさにきらめくような美音に包まれ、時折すっと落とすのも響きの美しさを感じさせるのに効果的。力みなくハイドンのソナタのリズム感を浮かび上がらせる見事なタッチと言っていいでしょう。1楽章から詩情が香り立ちます。
ハイドンのソナタでもっとも美しいメロディが印象的な2楽章。あえて淡々と演奏することで美しいメロディーが引き立ちます。ベズイデンホウトはデリケートなタッチで装飾音をちりばめ、フォルテピアノの繊細な響きを活かして、この曲の美しさが際立たせます。繰り返しから音色を変えて響きの変化を楽しませてくれます。
フィナーレは流れるようなタッチで速いパッセージをこなしながら、メロディーラインをくっきりと浮かび上がらせる見事なテクニックを披露。微妙な翳りを伴う美しい瞬間の連続にハッとさせられます。1曲めにこのソナタを持ってくるあたり、ハイドンのソナタに対する理解も深そうですね。
Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
皇帝の2楽章であり、「神よ、皇帝フランツをまもりたまえ」の主題による変奏曲。美音は変わらずですが、妙に郷愁を誘う黄昏感に包まれる演奏。現ドイツ国歌のメロディーだけに、ハイドンのメロディーとして広く知られているもの。モーツァルトのソナタ集が全集に繋がったことから、このアルバムも全集の第1巻を意識しての選曲と思われなくもありません。いずれにしてもタッチの美しさは絶品です。
Hob.XVI:6 Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
続いてタッチの軽やかさが印象的な曲を持ってきました。フォルテピアノの響きがマッチする曲。そこここに即興性を感じさせて、まるで初期のソナタと戯れるような楽しさを感じさせる演奏。曲ごとに演奏するスタイルを微妙に変えてきています。響きではなく音楽自体を見抜いてのタッチの選択。
この曲は2楽章がメヌエット。左手のリズムをくっきりと浮かび上がらせながらの舞曲の繊細な躍動感とトリオとの対比はまさにハイドンのメヌエットの真骨頂。トリオを挟んで前半と後半のメヌエットのデリケートな弾きわけも見事。
感極まったのが3楽章のアダージョ。前曲のアンダンテも美しかったんですが、このアダージョの清涼感はなんでしょう。繊細なフォルテピアノの高音部の響きの美しさと、変幻自在なタッチから生み出されるしなやかな響きに釘付けです。奏者の澄み切った心境が音楽に昇華したよう。
フィナーレはセンス良くあえてさらりとまとめました。
Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
後期のソナタからは詩的な響きが美しい曲を持ってきました。ピアノによる演奏に慣れた耳にも全く違和感ない響き。ピアノの重厚な響きと比較して聴くような演奏ではなく、フォルテピアノの繊細な響きと、フォルテピアノの持つダイナミクスの範囲でのくっきりとしたメリハリで聴きごたえ十分。逆に余韻の美しさはピアノ以上で、後期のソナタにも関わらず、むしろピアノよりもマッチする感じ。
2楽章の速いテンポも、響きが混濁することなく見事にメロディーが浮かび上がり、軽やかな余韻で聴かせる秀逸な出来。
Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
アルバムの結びにこの曲を持ってくるとは流石。この曲では落ち着いて正面から取り組むようなニュートラルなスタンスで入ります。前半の変奏が次々と発展していくところはベズイデンホウトの表現力を遺憾無く発揮。右手と左手のニュアンスを微妙に変えながら変奏ごとに表現力を駆使して多彩な表情を作っていきます。この曲でも装飾音をセンスよく散りばめることでフォルテピアノらしい色彩感を強調。変奏のクライマックスは音量やタッチの力強さではなく、表現の多彩さで聴かせます。この長い変奏曲を見通しよくまとめる手腕も含めて見事な演奏にノックアウト。
クリスティアン・ベズイデンホウトのフォルテピアノによるソナタ集ですが、フォルテピアノの音色の美しさといい、ベズイデンホウトの繊細かつ表現力溢れるタッチといい、選曲の見事さといい文句なしに素晴らしいアルバム。フォルテピアノによるソナタ集としては一押しのアルバムと言っていいでしょう。特に全集を目指したリリースとは触れられていませんが、同じくharmonia mundiからリリースされたモーツァルトのソナタ集が全集化されたのを踏まえると、ハイドンについても全集を目指すことを期待してしまいますね。折しも現代ピアノでは、ポール・ルイスやロマン・ラビノヴィチら新世代のピアニストによる全集のリリースが始まったばかり。これにベズイデンホウトが加われば、しばらくはピアノソナタの名盤に事欠かないことになりますね。もちろん評価は全曲[+++++]とします。

TOWER RECORDS / amazon / HMV&BOOKS online
クリスティアン・ベズイデンホウト(Kristian Bezuidenhout)のフォルテピアノによるハイドンのピアノソナタ集。収録曲は(Hob.XVI:20、XVI:6、XVI:48)、弦楽四重奏曲Op.76のNo.3「皇帝」の2楽章「神よ、皇帝フランツをまもりたまえ」の主題による変奏曲、アンダンテと変奏曲(Hob.XVII:6)の5曲。収録は2017年9月、アムステルダム近郊のハールレム(Haarlem)にある統一メノナイト教会(Doopsgezinde kerk)でのセッション録音。レーベルは仏harmonia mundi。
奏者のクリスティアン・ベズイデンホウトは私は初めて聴く人。調べてみるとharmonia mundiからはフォルテピアノによるモーツァルトのピアノソナタ全集がリリースされ、そのほかフライブルク・バロックオーケストラとのモーツァルトのピアノ協奏曲が進行中。またメンデルスゾーンの協奏曲集、イザベル・ファウストとのバッハのソナタ集、マーク・パドモアとのシューベルトやベートーヴェンの歌曲集などがリリースされており、harmonia mundiの看板アーティストという感じ。そのほか、Onyxレーベルからはヴィクトリア・ムローヴァとのベートーヴェンのヴァイオリンソナタ集、DGからもアルバムがリリースされるなど、アルバムも多数に渡るため、ご存知の方も多いでしょう。このアルバムで初めてベズイデンホウトに出会った私は、ハイドンばかり聴いていると世情に疎くなるものだと痛感した次第(笑)
このアルバムのジャケットに写るベズイデンホウトは、なかなか彫りの深い、人生経験豊富な姿に見えますが、同じくharmonia mundiから先にリリースされているモーツァルトのソナタ集のジャケットに写る姿は若々しくイケメン売り。なんとなく表現の熟成を想起させますが、まさにこのハイドンのアルバムは表現の陰影の深さを印象付けるものでありました。
Hob.XVI:20 Piano Sonata No.33 [c] (1771)
楽器は2009年製のチェコのPaul McNultyによるもので、1805年製Anton Walter & Sohnの複製品。フォルテピアノにつきものの音程の揺らぎが全く感じられないもので、非常に澄んだ響きが印象的。調律もかなり追い込まれているものと思われます。冒頭から落ち着いたリズムを刻みながらも多彩なタッチで音色が極めて豊富。フォルテピアノの構造体に響く余韻が気持ちよく響くタッチの強さを完全に掌握して、楽器を無理なく鳴らしている感じ。同じくタッチの表現の幅の広さを誇るブラウティハムがより力感を重視したタッチなのに対し、ベズイデンホウトはより繊細でニュートラルな印象。1楽章はまさにきらめくような美音に包まれ、時折すっと落とすのも響きの美しさを感じさせるのに効果的。力みなくハイドンのソナタのリズム感を浮かび上がらせる見事なタッチと言っていいでしょう。1楽章から詩情が香り立ちます。
ハイドンのソナタでもっとも美しいメロディが印象的な2楽章。あえて淡々と演奏することで美しいメロディーが引き立ちます。ベズイデンホウトはデリケートなタッチで装飾音をちりばめ、フォルテピアノの繊細な響きを活かして、この曲の美しさが際立たせます。繰り返しから音色を変えて響きの変化を楽しませてくれます。
フィナーレは流れるようなタッチで速いパッセージをこなしながら、メロディーラインをくっきりと浮かび上がらせる見事なテクニックを披露。微妙な翳りを伴う美しい瞬間の連続にハッとさせられます。1曲めにこのソナタを持ってくるあたり、ハイドンのソナタに対する理解も深そうですね。
Hob.III:77 String Quartet Op.76 No.3 "Kaiserquartetett" 「皇帝」 [C] (1797)
皇帝の2楽章であり、「神よ、皇帝フランツをまもりたまえ」の主題による変奏曲。美音は変わらずですが、妙に郷愁を誘う黄昏感に包まれる演奏。現ドイツ国歌のメロディーだけに、ハイドンのメロディーとして広く知られているもの。モーツァルトのソナタ集が全集に繋がったことから、このアルバムも全集の第1巻を意識しての選曲と思われなくもありません。いずれにしてもタッチの美しさは絶品です。
Hob.XVI:6 Piano Sonata No.13 [G] (before 1760)
続いてタッチの軽やかさが印象的な曲を持ってきました。フォルテピアノの響きがマッチする曲。そこここに即興性を感じさせて、まるで初期のソナタと戯れるような楽しさを感じさせる演奏。曲ごとに演奏するスタイルを微妙に変えてきています。響きではなく音楽自体を見抜いてのタッチの選択。
この曲は2楽章がメヌエット。左手のリズムをくっきりと浮かび上がらせながらの舞曲の繊細な躍動感とトリオとの対比はまさにハイドンのメヌエットの真骨頂。トリオを挟んで前半と後半のメヌエットのデリケートな弾きわけも見事。
感極まったのが3楽章のアダージョ。前曲のアンダンテも美しかったんですが、このアダージョの清涼感はなんでしょう。繊細なフォルテピアノの高音部の響きの美しさと、変幻自在なタッチから生み出されるしなやかな響きに釘付けです。奏者の澄み切った心境が音楽に昇華したよう。
フィナーレはセンス良くあえてさらりとまとめました。
Hob.XVI:48 Piano Sonata No.58 [C] (1787/9)
後期のソナタからは詩的な響きが美しい曲を持ってきました。ピアノによる演奏に慣れた耳にも全く違和感ない響き。ピアノの重厚な響きと比較して聴くような演奏ではなく、フォルテピアノの繊細な響きと、フォルテピアノの持つダイナミクスの範囲でのくっきりとしたメリハリで聴きごたえ十分。逆に余韻の美しさはピアノ以上で、後期のソナタにも関わらず、むしろピアノよりもマッチする感じ。
2楽章の速いテンポも、響きが混濁することなく見事にメロディーが浮かび上がり、軽やかな余韻で聴かせる秀逸な出来。
Hob.XVII:6 Andante con Variazioni op.83 [f] (1793)
アルバムの結びにこの曲を持ってくるとは流石。この曲では落ち着いて正面から取り組むようなニュートラルなスタンスで入ります。前半の変奏が次々と発展していくところはベズイデンホウトの表現力を遺憾無く発揮。右手と左手のニュアンスを微妙に変えながら変奏ごとに表現力を駆使して多彩な表情を作っていきます。この曲でも装飾音をセンスよく散りばめることでフォルテピアノらしい色彩感を強調。変奏のクライマックスは音量やタッチの力強さではなく、表現の多彩さで聴かせます。この長い変奏曲を見通しよくまとめる手腕も含めて見事な演奏にノックアウト。
クリスティアン・ベズイデンホウトのフォルテピアノによるソナタ集ですが、フォルテピアノの音色の美しさといい、ベズイデンホウトの繊細かつ表現力溢れるタッチといい、選曲の見事さといい文句なしに素晴らしいアルバム。フォルテピアノによるソナタ集としては一押しのアルバムと言っていいでしょう。特に全集を目指したリリースとは触れられていませんが、同じくharmonia mundiからリリースされたモーツァルトのソナタ集が全集化されたのを踏まえると、ハイドンについても全集を目指すことを期待してしまいますね。折しも現代ピアノでは、ポール・ルイスやロマン・ラビノヴィチら新世代のピアニストによる全集のリリースが始まったばかり。これにベズイデンホウトが加われば、しばらくはピアノソナタの名盤に事欠かないことになりますね。もちろん評価は全曲[+++++]とします。
- 関連記事
-
-
【新着】名盤! エカテリーナ・デルジャヴィナの変奏曲と小品(ハイドン)
2019/08/12
-
グレン・グールド1958年ストックホルムでのXVI:49(ハイドン)
2019/06/28
-
ジャン=ベルナール・ポミエのXVI:37(ハイドン)
2019/05/11
-
【新着】井上裕子のフォルテピアノによるXVI:46(ハイドン)
2019/04/16
-
【新着】クリスティアン・ベズイデンホウトのソナタ集(ハイドン)
2019/02/24
-
【新着】ロマン・ラビノヴィチのピアノソナタ全集第1巻(ハイドン)
2019/01/21
-
【新着】ギョーム・ベロンのXVI:46、絶美!(ハイドン)
2018/11/29
-
ウラディミール・フェルツマンのソナタ集(ハイドン)
2018/09/06
-
ルービンシュタインのアンダンテと変奏曲(ハイドン)
2018/06/23
-