【新着】ロマン・ラビノヴィチのピアノソナタ全集第1巻(ハイドン)

TOWER RECORDS / amazon
ロマン・ラビノヴィチ(Roman Rabinovich)のピアノによる、ハイドンのピアノソナタ6曲(Hob.XVI:21、44、45、16、39、32)を収めた2枚組のアルバム。収録は2016年10月24日から30日にかけて、ニューヨークのアメリカ文学芸術アカデミーでのセッション録音。レーベルはFirst Hand Records。
このアルバム、ハイドンのピアノソナタ全集の第1巻という触れ込みでリリースされたということでTOWER RECORDSに注文を入れていましたが、在庫切れでなかなか到着せず最近ようやく到着したもの。なお、ほぼ同時期にダニエル・フックスというピアニストもこちらはハイドンのピアノソナタ全集が揃いでリリースされたアルバムも届き、うれしい悲鳴(笑) 一応、両者の収録曲を所有盤リストに登録しながら、いろいろつまみ聴きして品定めをしたところ、演奏はこちらのラビノヴィチが2枚くらい上手。そして録音もピアノの美しい響きをあますところなく伝える録音も見事。ということで、このラビノヴィチ盤を取り上げることにした次第。
ピアニストのロマン・ラビノヴィチは初めて聴く人。1985年ウズベキスタンのタシケント生まれで、両親からピアノを習い、1994年に家族共々でイスラエルに移住。直後の1995年にメータ指揮のイスラエルフィルと10歳で共演しデビュー。その後フィラデルフィアのカーティス音楽院、ニューヨークのジュリアード音楽院で学び、2008年のルービンシュタイン国際ピアノコンクールでは1等なしの2等に選ばれていて、以降世界の著名なホールでコンサートを開くピアニストとして活躍しています。なお、作曲や絵も嗜み、このアルバムのジャケットもラビノヴィチ自身の作です。
このソナタ集、第1巻ということで、選曲は作曲年代順でもなければ、有名曲をちりばめたものでもなく、比較的初期の作品を集めたもの。しかもその演奏は今時の非常に繊細な感性を感じさせながら、1曲1曲の面白さを浮かび上がらせ、その上オルベルツの全集のように、何か一貫した堅固な姿勢を感じさせるという、なかなか素晴らしいもの。少し前に取り上げたポール・ルイスも全集を視野に入れたリリースでしたが、ルイスの透徹した響きの美しさとはまた異なる魅力を放っており、勝るとも劣らぬ素晴らしさ。ということで、CD1枚目の3曲をレビューしておきましょう。
Hob.XVI:21 Piano Sonata No.36 [C] (1773)
アメリカ文学芸術アカデミーはネットで調べると非常に古い建物で広いオーディトリウムがあり、おそらくそこが収録に使われたものと思われます。鮮明ながら広いホールにピアノの残響が非常に美しく漂う名録音。冒頭からピアノの美しい響きに魅了されます。ラビノヴィチの演奏は、先に触れたように、この美しい響きを楽しむように、淡々と演奏していき、まるでオルベルツのような素晴らしい一貫性と堅牢さが魅力。この美しい響きによってハイドンの初期のソナタのシンプルなメロディーが極限まで研ぎ澄まされる感じ。アダージョの語り口もさりげないんですが、深みがあって実に心地良い。耳を澄ますと中音域がしっかりとしているのが堅牢な印象を与えているよう。それでいて詩情が濃く、いきなり夢見心地。この初期のソナタがこれほど美しいとは。フィナーレの軽やかさとキレ味もまろやかな響きに包まれて極上。
Hob.XVI:44 Piano Sonata No.32 [g] (c.1771)
軽妙な前曲の余韻をさらりと流して、短調の物憂げなメロディーを美しく置いていきます。曲の配置のセンスも類い稀なものを持っていそうです。この曲でも一貫した姿勢でさらりと音楽が流れているように感じますが、ディティールは自然に磨き込まれ、アクセントも自然な印象ながらくっきりとつけらています。ハイドンの曲から美しさと、構成の面白さ、そして深みを引き出すバランス感覚をしっかりと身に付けているようです。このバランスというかセンスがハイドンの演奏には最も必要なことはみなさんご存知でしょう。ラビノヴィチ、それほど録音があるわけでもありませんが、いきなりハイドンの全集を目指すというところからも、ハイドンに対する深い理解と嗜好があるのでしょうね。2楽章構成のこの曲、2楽章のアレグレットを聴くと程よい穏やかさを実に自然に表現してきます。
Hob.XVI:45 Piano Sonata No.29 [E flat] (1766)
そして、晴朗快活な曲。ソナタのならびの面白さだけでも十分刺激的。曲が変わる瞬間の面白さは、楽章間とはまた違う緊張感があって好きです。ここでも適度な推進力とキレ、コントラスト。ハイドンの音楽の中のとりわけタッチの面白さがこの曲のポイントと見抜いているのでしょう、シンプルな音楽が演奏によって真の豊かさを持つことができるのだ言われているような演奏。次々と繰り出される起伏に富んだメロディーが脳の聴覚中枢を通してアドレナリンを発散。音色の持つ様々な印象を駆使しての演奏。これをマルチヴァレントいうのでしょう。1楽章から絶品です。続くアンダンテは淡々と仕込まれたメロディーがラビノヴィチのタッチで柔らかな陰影を帯びてゆったりと推移していく景色を眺めるがごとき風情。終楽章は恐ろしいほど速いパッセージがあるんですが、不思議と自然に音楽が流れます。しかもアクロバティックな印象は微塵もありません。むしろ完全に曲を掌握して、楽々と弾いているような余裕すら感じさせます。本質的なテクニックの持ち主ということでしょう。
いやいや、ロマン・ラビノヴィチ、すごい人です。まるでハイドンのソナタを弾くためにピアノを弾いているようにすら聴こえます。ハイドンのソナタの魅力である、ハッとするような構成の面白さ、機知に富んだメロディー、晴朗さも美しさも陰りも織り込まれたそれぞれの曲の魅力をあますところなく伝え、ハイドンのソナタの演奏に完全にフォーカスして完璧な説得力を持っています。このレベルでリリースが続けば、モダンピアノによるソナタ全集の決定盤となるでしょう。もちろん評価は3曲とも[+++++]といたします。ピアノ好きな皆さん、必聴です。
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