クルト・マズア/ベルリン放送響の交響曲5番、61番(ハイドン)

クルト・マズア(Kurt Masur)指揮のベルリン放送交響楽団(Berliner Rundfunk-Sinfonie-Orchester)による、ハイドンの交響曲5番、61番を収めたLP。収録情報は記載されていませんが、おそらく1971年のリリース。レーベルは旧東独ETERNA。
クルト・マズアはハイドンを振る印象はあんまりないのですが、いくつか録音があります。
2018/10/15 : ハイドン–オペラ : ステファニア・ヴォイトヴィチの挿入アリア(ハイドン)
2012/12/16 : ハイドン–交響曲 : クルト・マズア/イスラエル・フィルの88番ライヴ
だいぶ前に取り上げた88番のライヴは2008年の録音で、それほど踏み込んだ演奏ではなかったものの、最近取り上げた、ステファニア・ヴォイトヴィチのアリア集の伴奏は1970年代の録音で、とろけるような響きの美しい見事な演奏にハッとさせられたもの。この演奏の記事を書いたときに今日取り上げるアルバムの存在を知り、同じく70年代始めの演奏ということで探していたところほどなく見つかったという次第。マズアの略歴などについては88番の方の記事をご参照ください。
Hob.I:5 Symphony No.5 [A] (before 1762)
広い空間に広がる柔らかいオーケストラの響き。力みなく演奏を単純に楽しんでいるような無邪気ささえ感じさせるリラックス度合い。ハイドンの初期の交響曲は屈託のないメロディーを楽しむ曲。その本質を見抜くようにマズアはオケにほとんどを任せるようにニュートラルなスタンスで臨みます。ヴォイトヴィチ盤での素晴らしい演奏が思い起こされます。録音は若干の古さを感じさせなくはないですが、低音は厚めで迫力は十分。1楽章の拍子がずれる所での手慣れたリズムの処理も見事。
続くアダージョは滋味あふれる音楽。ゆったりと美しいメローディーを置いていきますが、とりわけ素晴らしいのがホルンのまろやかな音色。ホルンが重なることでオケ全体にまろやかさが加わり、これ以上しなやかなハーモニーはありえないほど。マズアは大きな起伏をしっかり出しながらも、小細工は一切なく、音楽を微塵の淀みなく流します。
ハイドンの交響曲の白眉、メヌエット。おおらかなリズムとざっくりとした表情が構えの大きい音楽を生み出します。トリオに入るとオケを抑えて柔らかなコントラストをつけます。
そして短いフィナーレも磐石のテンポで落ち着き払った演奏。完全にマズアの音楽に成りきっています。堂々として屈託のないハイドンの面白さ満点。
Hob.I:61 Symphony No.61 [D] (1776)
全くもって渋い選曲です。誰が5番と61番でアルバムを作りましょうか。しかもマズアの自然な感興が活きる選曲ということで、もしかしてマズア、ハイドンの交響曲を相当研究していたのかもしれません。そうでないとこの選曲はあり得ないでしょう。この曲でも冒頭から穏やかなマズアの覇気がはち切れてます。ホールに響き渡る力漲る響きに耳を奪われますが、どこにも力みはなく誠に自然な響きに痺れます。ドラティに一杯飲ませて酔わせたような演奏。ドラティのタイトさをリラックスさせていい具合にこなれさせた感じ。かといって緩いわけでもなく、完璧にリラックスさせたという意味でのこと。1楽章はハイドンの交響曲の面白さが全て詰まった見事な完成度。湧き出すエネルギーと推進力。晴朗なメロディーにオーケストラが気持ちよく響く見事な構成。この曲でも録音は見事。ETERNA恐るべしですね。
続くアダージョでは1楽章の興奮を冷ますように短調のほのかな陰りの深さを垣間見せたかと思うと、さっと光が差し込むように雰囲気が変わり、また陰るというようなデリケートな場面転換を繰り返しながらじっくりと深みを表現していきます。
そしてメヌエットは堂々とした演奏。陽光に輝く神殿のごときアルカイックなもの。完璧なバランスとピラミッドのような安定感。これ以上の演奏があろうかという出来に驚きます。そしてフィナーレも落ち着いて柔らかな響きでまとめてきます。オケが気持ちよく響き渡る快感に包まれます。それだけでなく中間の弱音部の丁寧な扱いも見事で、しっかりと起伏がつき、この曲の面白さを再発見した気分。

いやいや絶品です。クルト・マズアという人、他の演奏はほとんど聴いていませんが、ヴォイトヴィチ盤や本盤など70年代のハイドンの録音は本当に素晴らしい。なんとなく強面の外見で損をしているようですが、この2枚で聴かれるハイドンは他に真似のできない自然さと慈しみ深さが表現されています。私自身もマズアがこのような演奏する人という認識はありませんでしたが、2枚揃ってしまうと、疑いなく実力でしょう。2015年に亡くなってしまいましたが、これから再評価されるのではないかと思います。LPの再生環境がある人は探して聞く価値のあるアルバムです。
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