トン・コープマン/アムステルダム・バロック管のロ短調ミサ(すみだトリフォニーホール)

9月8日土曜はチケットを取ってあったコンサートに出かけました。

Koopman20180908.jpg
トン・コープマンプロジェクト2018

いつものようにコンサートでもたったチラシから選んだもの。トン・コープマンが手兵、アムステルダム・バロック管弦楽団と来日して、しかも曲目は好きなバッハのロ短調ミサということで迷わずチケットを取ったもの。

コープマンの素晴らしさを知ったのはモーツァルトのK.136を聴いてから。他の演奏とはレベルの異なるしなやかさと高揚感。この特徴はモーツァルトに合うようで、そのリリースされているモーツァルトの交響曲を色々手に入れて楽しみましたが、最も感銘を受けたのは交響曲23番。当時の古楽器の繊細さと精緻な響きのトレンドとは逆に流麗豊穣かつ湧き上がるような躍動感に満ちた素晴らしい演奏。

もちろんコープマンはハイドンの協奏曲や交響曲を多数録音しているので、レビューでも何度か取り上げています。

2017/09/03 : ハイドン–室内楽曲 : トン・コープマンのクラヴィーア四重奏曲集(ハイドン)
2011/01/14 : ハイドン–協奏曲 : 【新着】コープマン3度目のオルガン協奏曲
2010/09/23 : ハイドン–交響曲 : 新着! コープマンの97、98番

ハイドンの録音はコープマンがハープシコードやオルガンの独奏者を務める室内楽や協奏曲は素晴らしいものばかり。一方交響曲も初期の1枚、パリセットから1枚、ザロモンセットからから1枚リリースされていますが、コープマンらしい流麗な演奏であるものの、それほど印象的な演奏ではありません。それぞれシリーズ化されそうな体裁ながら1枚で終わっているのもそうしたことに起因しているかもしれませんね。

生では、オルガンのソロコンサートを一昨年に聴いています。

2016/06/23 : コンサートレポート : トン・コープマン オルガン・リサイタル(ミューザ川崎)

前置きが長くなりましたが、この日のコンサートはオルガンの独奏曲1曲とロ短調ミサ。

J.S.バッハ:「小フーガ」 ト短調(BWV578)
J.S.バッハ:ミサ曲 ロ短調(BWV232)

指揮・オルガン:トン・コープマン(Ton Koopmam)
ソプラノ:マルタ・ボス(Martha Bosch)
カウンターテナー:マルテン・エンゲルチェズ(Maarten Enngeltjes)
テナー:ティルマン・リヒディ(Tilman Lichdi)
バス:クラウス・メルテンス(Klaus Mertens)
アムステルダム・バロック合唱団(Amsterdam Baroque Choir)
アムステルダム・バロック管弦楽団(Amsterdam Baroque Orchestra)

土曜のコンサートということで、いつも通り開場時間前にホールに着くと、ホールの前の暗い廊下に行列ができています。開演時間前の気分は意外と重要で、サントリーホールやオペラシティの前は明るい広場になっていて待つ間も閉塞感はありませんが、ここは開演前に並ぶのは苦痛ですね。ホールの内部も含めてホールの収容人数にしては空間が狭く、設計者がコンサートを楽しむ人ではなかったのだろうと想像しています。

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列にしばらく並んでゾロゾロと入場したので、まずは喉を潤しにロビーの上の階にある北斎カフェに直行(笑)

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ビールにワインにサンドウィッチを頼んで一休み。ビールは冷えた陶製のビアグラスが添えられていて、これはグーです。ワインも軽めながら風味豊かでこちらもグー。そしてサンドウィッチは北斎の浮世絵をあしらったもので、またまたグー。カフェのサービスはいいですね。

IMG_3057 (1)

狭いながらも、カフェスペースは明るい吹き抜けがいい感じです。

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この日の席は3階席。ホワイエの階段を一番上の階まで昇って席に向かいます。

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席からの眺めはこんな感じ。かなり個性的なホールの形状が良くわかります。お客さんの入りはほぼ満員と流石の集客力。

開演時刻となり、場内の照明が落ちたと思うと、ステージ上のオルガンの脇からコープマンが登場。観客に会釈してオルガンの前に座ると、1曲めの小フーガが始まります。誰でもが知っている聴き慣れたメロディーが重厚なオルガンの響きでホールを揺るがします。コープマンのオルガンは一昨年ミューザで聴いていますが、構えるところなくグイグイ弾き散らかしていくがごとき勢いが魅力なんでしょう。この日の演奏も指が回りきっていないところなど構いもせず勢いを落とさず轟音を轟かせていきます。わずか数分の演奏で、大曲ロ短調ミサの前にこの曲を演奏しなくてもいいとは思いますが、コープマン自身が演奏することが楽しいのでしょう。演奏が終わって拍手に包まれると、いつものように満面の笑顔で観客の拍手に応えていました。

コープマンがオルガンの前から退場して、しばらくすると、今度はステージ上にオーケストラが静かに入場。入念なチューニングを終えると今度はコーラスが入場。最後に歌手とコープマンが登壇すると、すぐにコープマンがマイクを持ち、直前に起こった台風と地震の犠牲者に対する追悼を述べ、そして、この翌日に予定されていた札幌のコンサートも中止となり、この日がジャパンツアー最後の公演となることを告げると、なんとなく、非常に貴重な公演だと思える雰囲気に包まれました。
ロ短調ミサが始まると、まずはコーラスの澄んだ響きと、コープマンらしい柔らかでしなやかなオケの響きに惹きつけられます。オケから遠い席だったので渾然一体となった響きをまるでアルバムを楽しむように聴けた感じ。オケの各パートは完全にコープマン風にふくよかで自然なフレージングにコントロールされ、スタティックなところは皆無。しなやかに盛り上がり、時に推進力、時に愉悦感に満ちながらじっくりと進めていくような演奏。歌手も声量、響きの艶やかさが揃った人選で流石と思わせるものでしたが特に素晴らしかったのがソプラノのマルタ・ボスが膨よかで美しい響きが最高。アルト役はカウンターテナーでこちらも味わい深い声。ロ短調ミサはそれこそ何度も演奏しているのでしょう、それぞれの曲の表情が揺るぎない説得力をもち、まるで千枚目の写経を無心でこなすような迷いのない演奏。コープマンの弾力ある動きにオケもそれこそいつものように反応。バロックトランペットやティンパニ、木管群などは素晴らしい安定感で燻らしたような深い響きを形作っていきます。また唯一ホルンが登場し超絶技巧を披露するQuoniamでは、時折音が外れるもののナチュラルホルンを見事に吹きこなしてホルンには厳しい音階を滑らかにこなすなどなかなかの腕前。この曲は何度かコンサートで聴いていますが、普通は第1部の終わりで休憩に入るところ、この日は第2部の終わりと曲の大部分を終えたところで休憩。第1部の終わりではかなりフライング気味に拍手とブラヴォーが飛んで、雰囲気を削いでしまいました。休憩後の第3部第4部は合わせても20分くらいなので、こちらも集中力十分な体制で聴くことができ、終曲のDona nobis pacemでは雄大で安らかな響きに包まれる素晴らしい瞬間を味わいました。最後はコープマンが腕を下ろすまで静寂が保たれ、すぐに万雷の拍手に包まれ、観客の拍手に何度も嬉ししそうにお辞儀をするコープマンの姿が印象的でした。

期待通り、コープマンのロ短調ミサは素晴らしかったですね。コンサートではラ・フォル・ジュルネでのミシェル・コルボとローザンヌ室内管のニュートラルな演奏も良かったですし、手元に10組ほどあるアルバムの中では古楽器ではブリュッヘン、現代楽器ではジュリーニが好きな演奏なんですが、このコープマンのコープマンにしかできないしなやかな喜びの表現も捨てがたい魅力があります。コープマンのERATO盤持ってないので、手に入れなくてはなりませんね。ただERATO盤も20年以上前のものゆえ、そろそろ新録音が出てもおかしくないですね。



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なぜかハイドン(Franz Joseph Haydn)が特に気に入り膨大な録音をコツコツ集めてレビューしております。好きなものはお酒全般(ワイン、日本酒、モルトなど)、美味しいものを食べること、料理、鄙びた温泉めぐり、歌舞伎見物、スポーツクラブで泳ぐこと(美味しいお酒を呑むため!)などなど。東京在住のごく普通のサラリーマンです。

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